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by nicoxz

ミラノ五輪でSNS誹謗中傷対策が進化、24時間監視体制の全貌

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はじめに

2026年2月に開幕したミラノ・コルティナ冬季オリンピックでは、選手たちの競技パフォーマンスだけでなく、彼らの心と尊厳を守るための新たな取り組みが注目を集めています。日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)は、SNS上での誹謗中傷から選手を守るため、24時間体制のモニタリングシステムを稼働させました。

東京五輪やパリ五輪で深刻化した選手への誹謗中傷問題を受け、今大会では過去最大規模の対策が講じられています。この記事では、ミラノ五輪における誹謗中傷対策の全貌と、その背景にある課題について詳しく解説します。

JOCが構築した24時間監視体制

ミラノと東京の二拠点体制

JOCは今大会に向けて、前例のない規模の誹謗中傷対策チームを編成しました。ミラノの選手村近くのオフィスに6人、東京に16人のスタッフを配置し、時差を考慮した24時間体制でSNSの監視を行っています。

この二拠点体制は、ミラノと東京の時差(約8時間)を活用したものです。日本時間の深夜でもミラノ拠点が監視を継続し、逆にミラノの深夜は東京拠点がカバーすることで、選手への中傷投稿を見逃さない体制を構築しました。

AI活用と人の目による二重チェック

監視はAIによる自動検知と、スタッフによる目視確認の二段階で行われています。X(旧Twitter)やInstagramなどの主要SNSに加え、Yahoo!ニュースのコメント欄なども監視対象に含まれています。

AIが不適切な投稿を検知すると、専門スタッフが内容を精査し、誹謗中傷に該当するかどうかを判断します。有害と判断された投稿については、SNS事業者に削除を要請する流れになっています。

既に380件超の削除要請を実施

このモニタリングシステムは1月19日から稼働しており、2月3日までの約2週間で既に380件以上の削除要請を行ったことが明らかになっています。大会が本格化するにつれ、この数字はさらに増加すると予想されます。

過去の五輪で深刻化した誹謗中傷問題

東京五輪での被害事例

2021年の東京オリンピックでは、多くの日本人選手がSNS上での誹謗中傷被害を受けました。卓球の水谷隼選手には「人間やめたれよ」といった心無いメッセージが届き、体操の橋本大輝選手には金メダル獲得直後から「盗んだメダルは夜にあなたを殺します」といった脅迫めいた投稿が相次ぎました。

体操女子の村上茉愛選手は「見たくなくても嫌なコメントを見てしまい、悲しかった」と涙ながらに語り、SNS時代のアスリートが直面する新たな苦悩が浮き彫りになりました。

パリ五輪でも続いた問題

2024年のパリオリンピックでも状況は改善されませんでした。柔道女子52キロ級で2回戦敗退した阿部詩選手には「恥ずかしい」「3年間何をしていた」といった批判が殺到しました。また、陸上女子競歩の柳井綾音選手は、個人種目の出場辞退を発表した際に多くの中傷コメントを受けたことを明かしています。

国際オリンピック委員会(IOC)の選手委員会によると、パリ五輪期間中に8500件を超える誹謗中傷の投稿がオンライン上で確認されました。

法的対応の強化と課題

発信者情報開示請求の活用

日本では、SNS上の誹謗中傷に対する法的対応も進んでいます。発信者情報開示請求により、匿名の投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴を行うケースが増えています。

具体的には、まずSNSプラットフォーム運営会社に対してIPアドレス等の開示を求め、次に通信事業者に対して投稿者の氏名・住所等の開示を請求する二段階の手続きが一般的です。

侮辱罪の厳罰化

2022年7月には刑法が改正され、侮辱罪の法定刑が引き上げられました。これにより、悪質な誹謗中傷への抑止力が強化されています。JOCは今大会でも、必要に応じて法的措置を検討する姿勢を示しています。

迅速な対応の重要性

一方で課題もあります。発信者情報開示の手続きには時間がかかり、通信事業者の通信ログ保存期間(概ね3〜6ヶ月程度)を過ぎると投稿者の特定が困難になるケースも少なくありません。そのため、誹謗中傷を発見した場合は早期に法的手続きを開始することが重要です。

選手を守るための環境づくり

選手が直接中傷に触れない仕組み

JOCの取り組みで特に重要なのは、選手自身が中傷投稿に直接触れないようにする点です。モニタリングチームが先回りして有害なコンテンツを検知・削除することで、選手が競技に集中できる環境を整えています。

選手には「SNSを見ないように」と呼びかけることもできますが、現代のアスリートにとってSNSは情報発信やファンとの交流に欠かせないツールです。そのため、選手のSNS利用を制限するのではなく、有害な投稿を排除するアプローチが取られています。

国際的な連携強化

IOCも独自の対策を講じています。パリ五輪ではAIによる検知システムを導入し、37を超える言語で誹謗中傷を監視しました。ミラノ五輪でもこの取り組みは継続されており、各国のオリンピック委員会と連携した国際的な対策が進んでいます。

今後の展望と課題

テクノロジーの進化と新たな脅威

AIを活用した監視システムは年々精度を高めていますが、誹謗中傷を行う側もより巧妙な手法を用いるようになっています。直接的な暴言ではなく、皮肉や比喩を用いた中傷など、AIでは検知しにくい投稿への対応が課題となっています。

社会全体での意識改革の必要性

技術的な対策だけでなく、社会全体でのリテラシー向上も不可欠です。オリンピック選手への誹謗中傷は、たとえ匿名であっても法的責任を問われる可能性があること、そして何より人間を傷つける行為であることを広く周知していく必要があります。

まとめ

ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでは、JOCとJPCが24時間体制のモニタリングシステムを構築し、選手をSNS上の誹謗中傷から守る取り組みを強化しています。ミラノと東京の二拠点体制、AIと人による二重チェック、迅速な削除要請など、過去の教訓を活かした対策が講じられています。

しかし、根本的な解決には技術的対策だけでなく、社会全体の意識改革が必要です。アスリートも一人の人間であり、SNS上の言葉が彼らの心を傷つけることを忘れてはなりません。私たちファンも、応援の気持ちを適切な形で表現し、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりに貢献することが求められています。

参考資料:

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