ミラノ五輪でSNS中傷6万件超、日本選手保護の最前線と法的措置
はじめに
2026年2月に開幕したミラノ・コルティナ冬季オリンピックにおいて、日本選手に対するSNS上の誹謗中傷が深刻な問題となっています。日本オリンピック委員会(JOC)の集計によると、開幕からわずか1週間で確認された中傷件数は6万2333件にのぼり、過去大会と比較しても異常なペースで増加しています。
東京2020大会やパリ2024大会でもSNS中傷は問題視されてきましたが、大会を重ねるごとにその規模は拡大傾向にあります。本記事では、ミラノ五輪におけるSNS中傷の実態、JOCの対策体制、そして実際に被害を受けた選手の声を紹介しながら、アスリート保護の課題と今後の展望について解説します。
わずか1週間で6万件超、深刻化するSNS中傷の実態
数字が示す問題の深刻さ
JOCが2026年2月12日までに確認した日本選手に対する誹謗中傷の件数は、6万2333件に達しました。これは大会開幕からわずか1週間程度の集計であり、大会終了までにはさらに増加することが確実視されています。
JOCはこれらの投稿に対し、1919件の削除申請を行い、そのうち371件の削除が確認されています。削除申請に対する実際の削除率は約19%にとどまっており、プラットフォーム側の対応速度や判断基準との間にギャップがあることがうかがえます。
AIを活用した監視体制の構築
中傷の検出にはAI技術が活用されています。膨大な投稿の中から誹謗中傷に該当する可能性のある言葉をAIが自動的に抽出し、その内容をスタッフが確認するという二段階の体制が敷かれています。AIによる一次スクリーニングがなければ、1週間で6万件を超える投稿をすべて人力でチェックすることは不可能です。
また、LINEヤフーやインスタグラムを運営する米メタとの連携も強化されています。プラットフォーム運営企業との直接的なパイプラインを持つことで、削除申請の迅速化や悪質な投稿への優先対応が期待されています。
JOCの24時間監視体制と選手の苦悩
現地と国内の二拠点体制
JOCはミラノ・コルティナ冬季五輪に合わせて、24時間態勢でのSNS監視体制を構築しました。現地ミラノには6人、東京には16人のスタッフを配置し、時差を活かした切れ目のない監視を実現しています。合計22人のスタッフが常時SNSを監視し、問題のある投稿を検出した場合には速やかに対応する仕組みです。
JOCは公式に「名誉毀損、侮辱、脅迫等の行き過ぎた投稿については法的措置も含めて対応する」と表明しており、従来の削除申請にとどまらない強い姿勢を示しています。過去の大会では削除要請が中心でしたが、今大会では悪質な投稿者に対する法的手続きも視野に入れた対応へと踏み込んでいます。
近藤心音選手のケースが映し出すもの
中傷被害の象徴的な事例として、フリースタイルスキー女子の近藤心音選手のケースがあります。近藤選手は公式練習中に大けがを負い、2大会連続での棄権を余儀なくされました。競技に全力を注いできた選手にとって、けがによる棄権は本人が最も悔しい結果です。
しかし、近藤選手のもとには「もし選ばれても次は辞退してくださいね」というメッセージが届きました。けがで苦しむ選手に対してさらに追い打ちをかけるような内容であり、スポーツの精神とは著しくかけ離れた行為です。
近藤選手はインスタグラムのストーリーズで「今この状況にある私に対して言う言葉でしょうか」と反論し、自らの言葉で問題提起を行いました。選手自身がSNSで声を上げること自体が異例であり、それだけ精神的な負担が大きかったことを物語っています。
注意点・展望
削除だけでは解決しない構造的課題
現状の対策は、投稿を検出し削除申請を行うという「事後対応」が中心です。しかし、削除率が約19%にとどまっていることからもわかるように、すべての中傷を取り除くことは困難です。SNSプラットフォームの規約上、明確な脅迫や差別的表現に該当しない「グレーゾーン」の投稿は削除されにくいという課題があります。
また、アカウントを削除しても新たなアカウントで同様の投稿を繰り返すケースも報告されており、根本的な解決には投稿者の意識変革や法制度の整備が不可欠です。
今後の国際的な取り組み
国際オリンピック委員会(IOC)も選手保護を重要課題と位置づけており、今後はAI技術のさらなる活用やプラットフォーム企業との連携強化が進むと見られています。2028年のロサンゼルス夏季五輪に向けて、各国オリンピック委員会が共通のガイドラインや対策フレームワークを策定する動きも期待されます。
日本国内では、2022年に施行された改正プロバイダ責任制限法により、発信者情報の開示手続きが簡略化されました。JOCが法的措置を明言した背景には、こうした法整備の進展もあります。今後は実際に法的措置が講じられた事例が抑止力として機能するかどうかが注目されます。
まとめ
ミラノ・コルティナ冬季五輪における日本選手へのSNS中傷は、わずか1週間で6万2333件という衝撃的な数字に達しました。JOCは22人体制での24時間監視、AI活用、プラットフォーム企業との連携、そして法的措置の検討と、過去最大規模の対策を講じています。
しかし、近藤心音選手のケースが示すように、数字の裏には一人ひとりの選手の苦悩があります。オリンピックは本来、世界中の人々がスポーツを通じて感動を共有する場です。選手が安心して競技に集中できる環境を守るためには、組織的な対策と同時に、SNSを利用する私たち一人ひとりの意識も問われています。
参考資料:
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