自民・森山前幹事長が高市首相の台湾答弁を批判
はじめに
2026年1月16日夜、自民党の森山裕前幹事長がBS-TBSの番組に出演し、高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁について「おっしゃらなくてもいい発言だった」と批判しました。森山氏は超党派の日中友好議員連盟の会長を務めており、党内の有力者による公然とした批判は、高市首相の台湾発言が自民党内でも波紋を広げていることを示しています。
本記事では、森山氏の批判の背景、高市首相の台湾有事発言の内容と問題点、そして日本の対中外交における「戦略的曖昧さ」の重要性について詳しく解説します。日中関係は日本の経済と安全保障の根幹に関わる問題であり、すべてのビジネスパーソンにとって重要な情報です。
森山前幹事長の批判の意味
日中友好議連会長としての立場
森山裕氏は自民党の元幹事長であり、現在は超党派の日中友好議員連盟の会長を務めています。日中友好議連は長年にわたり両国の対話チャネルとして機能してきた組織で、その会長が首相の発言を公然と批判することは極めて異例です。
森山氏は「おっしゃらなくてもいい発言だった」と述べ、高市首相の台湾有事に関する答弁が外交的に不必要で、日中関係を悪化させたという認識を示しました。この発言は、自民党内でも高市首相の台湾発言に対する懸念が根強いことを裏付けています。
党内の温度差
興味深いことに、森山氏は萩生田光一幹事長代行ら党幹部についても言及しました。萩生田氏らは2025年12月に台湾を訪問していますが、森山氏は「重要な党職にある人は台湾訪問を控えるべきだ」との考えを示しています。
これは、自民党内に「対中強硬派」と「対中融和派」の温度差が存在することを示しています。高市首相や萩生田氏らは対中強硬姿勢を取る一方で、森山氏のような日中関係の維持を重視する勢力も依然として影響力を持っているのです。
高市首相の台湾有事発言とは
2025年11月の衝撃的答弁
問題となっている発言は、2025年11月7日の衆議院予算委員会での高市首相の答弁です。高市首相は「中華人民共和国が台湾を支配下に置く目的で台湾に対して戦艦による武力行使を行った場合、それは明らかに日本の存立危機事態になり得る」と述べました。
「存立危機事態」とは、日本と密接な関係にある国が攻撃され、日本の存立が脅かされる事態を指します。この認定がなされれば、集団的自衛権の行使が可能となり、日本が武力を使って同盟国を支援できるようになります。つまり、高市首相の発言は、中国が台湾を武力攻撃すれば日本が軍事的に関与する可能性を示唆したものと受け止められました。
「手の内を明かした」批判
この発言に対しては、国内外から批判が集まりました。日本経済新聞は「存立危機事態となる具体的な場合を挙げることは『手の内を明かす発言だ』」と批判しました。石破茂元首相も「日本は『明確な発言を避けてきた』」と懸念を示しました。
実際、公開資料により「どう考えても存立危機事態になり得る」という部分が実はアドリブであったことが判明しています。これは、十分な外交的配慮なしに重大な発言がなされたことを意味します。高市首相自身も答弁後に「言い過ぎた」と述べたと報じられています。
中国の激しい反発
前例のない強硬な言葉
高市首相の発言に対する中国側の反発は極めて激しいものでした。2025年11月8日、中国・大阪総領事の薛剣がX(旧Twitter)上で「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」と投稿しました。
中国外務省のスポークスマンも「中国人民の最後の一線に挑戦しようと妄想する者は、必ず中国側の正面からの痛撃を受ける。14億の中国人民が血肉で築き上げた鉄の長城の前で、頭を打ち割られ、血まみれになる」と日本を非難しました。
「一つの中国」原則への挑戦
中国側が特に激しく反発した理由は、高市発言が「一つの中国」という中国の核心的利益に触れたからです。中国は台湾を「中国の不可分の一部」と位置づけており、台湾問題への外国の介入を絶対に容認しない姿勢を取っています。
高市首相の発言は、中国にとって台湾統一という最重要課題に対する日本の明確な反対表明と受け止められました。中国国営メディアは連日高市首相を批判し、日中関係は2025年11月以降、急速に冷え込みました。
「戦略的曖昧さ」とは何か
米国の伝統的政策
台湾有事への対応について、米国は長年「戦略的曖昧さ」(strategic ambiguity)という政策を取ってきました。これは、中国が台湾を攻撃した場合に米国が軍事介入するかどうかを明確にせず、意図的に曖昧なままにしておく政策です。
この曖昧さには二つの効果があります。第一に、中国に対して「もし台湾を攻撃すれば米国が介入するかもしれない」という抑止力を働かせること。第二に、台湾に対して「米国が必ず助けてくれるとは限らない」というメッセージを送ることで、台湾の独立宣言などの挑発的行動を抑制することです。
日本も同様の政策を採用
日本も米国と同様に、台湾有事への対応については「戦略的曖昧さ」を維持してきました。中国が台湾を武力攻撃した場合に日本がどう対応するかを明確にせず、状況に応じて判断するという姿勢を取ってきたのです。
この曖昧さを保つことで、日本は中国との不必要な対立を避けつつ、台湾海峡の平和と安定を維持するという微妙なバランスを保ってきました。高市首相の発言は、この長年の政策を一方的に放棄したと受け止められたため、外交専門家から批判が集まったのです。
森山批判の背景にある党内事情
衆議院解散を控えた微妙なタイミング
森山氏が1月16日に高市首相の発言を批判したタイミングも重要です。高市首相は1月23日召集の通常国会冒頭で衆議院を解散する意向を固めており、自民党は総選挙に向けた準備を進めています。
このタイミングでの森山批判は、総選挙を控えて党内の対中政策の方向性を巡る議論が活発化していることを示しています。対中強硬姿勢が国内の保守層には受けが良い一方で、経済界や対中ビジネスを重視する勢力からは懸念の声が上がっているのです。
日中経済関係への懸念
日本にとって中国は最大の貿易相手国の一つであり、多くの日本企業が中国でビジネスを展開しています。高市首相の台湾発言以降、日中関係の悪化により経済面での悪影響を懸念する声も強まっています。
森山氏の批判は、こうした経済界の懸念を代弁する側面もあります。日中友好議連には経済界とのつながりが強い議員も多く含まれており、対中関係の安定化を求める声は自民党内でも無視できない勢力となっています。
注意点と今後の展望
外交政策の一貫性
高市首相は台湾発言後、「台湾の法的地位を認める立場にない」として、日本政府の従来の立場を確認する答弁も行っています。しかし、11月の「存立危機事態」発言との整合性について疑問視する声もあります。
外交政策において一貫性を欠くことは、国際社会における日本の信頼性を損なうリスクがあります。今後、高市政権がどのような対中政策を展開するかが注目されます。
総選挙への影響
森山氏の批判が総選挙にどのような影響を与えるかも焦点です。対中強硬姿勢は保守層の支持を固める効果がある一方で、経済界や穏健派の支持を失うリスクもあります。
自民党内の対中政策を巡る温度差は、選挙戦略にも影響を与える可能性があります。高市首相がどのようなバランスを取るかが、総選挙の結果を左右する要因の一つとなるでしょう。
まとめ
自民党の森山裕前幹事長による高市早苗首相の台湾答弁批判は、党内における対中政策の温度差を浮き彫りにしました。高市首相の「存立危機事態になり得る」という発言は、日本が長年維持してきた「戦略的曖昧さ」を崩すものとして、外交専門家や党内穏健派から懸念の声が上がっています。
日中関係は日本の経済と安全保障の両面で極めて重要であり、台湾問題への対応は慎重な外交的配慮が求められる領域です。森山氏の批判は、対中強硬姿勢一辺倒ではなく、バランスの取れた外交政策を求める声を代弁していると言えます。
総選挙を控えた今、自民党がどのような対中政策を掲げるかが注目されます。対中強硬と経済関係維持のバランスをどう取るか、高市政権の外交手腕が問われています。
参考資料:
関連記事
高市首相が衆院解散へ、台湾発言で日中緊張の中の賭け
高市早苗首相が通常国会冒頭での衆議院解散を決断。台湾有事発言で日中関係が緊迫する中、75%の高支持率を背景にした「権力固めの賭け」を米欧メディアは好意的に報道しています。
中国CCTVの高市批判報道が逆効果に、連日の宣伝戦の内幕
中国国営テレビCCTVが2ヶ月以上にわたり連日放送してきた高市早苗首相への批判報道。しかし日本国内では支持率が維持され、中国国民からも意外な反応が。異例の対日プロパガンダの実態と限界を解説します。
麻生副総裁「解散は首相の専権、議席増に全力」
訪韓中の麻生氏が衆院解散を巡り発言。「脇役が言う話ではない」と首相を支持しつつ、事前相談なしへの不満も滲む。
高市首相、政務三役のパーティー全面禁止へ、規範改正の意義と課題
高市首相が閣僚らの政治資金パーティーを全面禁止する方針を示しました。2026年1月の規範改正の背景、自民党裏金問題との関連、政治資金の透明性向上への課題を解説します。
日中関係悪化で百貨店に試練、インバウンド依存脱却への道
中国の訪日自粛要請により百貨店業界が減益予想。高市首相の台湾有事発言を発端とした日中対立の影響と、各社が模索する国内富裕層シフト戦略を解説します。
最新ニュース
麻生副総裁「解散は首相の専権、議席増に全力」
訪韓中の麻生氏が衆院解散を巡り発言。「脇役が言う話ではない」と首相を支持しつつ、事前相談なしへの不満も滲む。
日銀1月会合は据え置き濃厚、成長率見通し上方修正で利上げ継続に布石
日銀は1月22〜23日の会合で政策金利0.75%を維持する見通し。政府の経済対策を反映し2026年度の成長率見通しを引き上げ、段階的利上げ継続への道筋を示します。
立憲民主・公明が新党「中道改革連合」結成へ
2026年1月、立憲民主党と公明党が高市政権に対抗する新党を結成。食品消費税ゼロを掲げ衆院選に挑む。国民民主は参加せず独自路線を選択。
新党「中道改革連合」、反高市路線で政権に対抗
立憲・公明が新党結成。積極財政修正、集団的自衛権全面容認反対など、高市政権との対立軸を鮮明に。家計分配重視にリスクも。
建設業界7割が大型工事受注できず、人手不足が経済成長の足かせに
2026年度に大手・中堅建設会社の約7割が大型工事を新規受注できない見通し。深刻な人手不足が受注余力を制約し、民間設備投資と公共投資に影響を及ぼす現状を解説します。