名古屋・札幌の地価上昇が鈍化、建設費高騰の深刻な影響
はじめに
2026年3月17日に国土交通省が発表した公示地価で、全国平均が5年連続の上昇を記録する一方、名古屋圏や札幌など地方都市では上昇率の鈍化が鮮明になりました。背景にあるのは、建設費の高騰と慢性的な人手不足です。
大型再開発プロジェクトの中止や延期が相次ぎ、地方都市の不動産市場に先行き不透明感が漂っています。本記事では、なぜ名古屋や札幌で地価の伸びが鈍化しているのか、その構造的な要因と東京圏との格差拡大について解説します。
名古屋圏で上昇幅が縮小した理由
東京・大阪に比べ低い賃料水準が壁に
2026年の公示地価で、名古屋圏は住宅地・商業地ともに上昇幅が前年から縮小しました。愛知県の住宅地平均は1.8%の上昇にとどまり、東京圏の4.5%を大きく下回っています。
名古屋の地価上昇が鈍化した最大の要因は、オフィスやテナント賃料の水準にあります。名古屋のオフィス賃料は東京や大阪と比較して割安で、大型再開発プロジェクトを手がけても投資額に見合った賃料収入を確保しにくい構造にあります。建設費が急騰するなかで、この賃料格差が採算の壁として立ちはだかっています。
栄・名駅エリアの二極化
一方で、名古屋市内でも地域差が出ています。名駅南5丁目では13.8%、東区徳川町では14.7%と高い上昇率を記録した地点もあります。オフィス空室率は2025年2月末時点で4.27%と低水準を維持しており、賃料も上昇傾向にあります。特に丸の内地区では年間3.8%の賃料上昇が見られます。
しかし全体的には、2026年に予定される5万坪超の新規オフィス供給が控えており、供給過多による市況軟化を懸念する声もあります。建設コストの高さが、こうしたプロジェクトの収益性を圧迫しています。
札幌は再開発の遅れが直撃
駅前再開発の事業費が大幅膨張
札幌市では、建設費高騰の影響がさらに深刻です。北海道内の全用途平均は前年比プラス1.3%で10年連続の上昇となりましたが、前年の2.0%から大きく鈍化し、全国平均の2.8%を下回りました。
札幌の商業地上昇率は、仙台・広島・福岡と比較して最低の水準に沈みました。その背景には、札幌駅前再開発事業の遅延があります。当初2,500億円程度と想定されていた事業費は、資材価格と人件費の高騰により3,000億円台半ばまで膨らむ見通しとなり、計画の規模縮小が検討されています。
北海道新幹線延伸の遅延も影響
札幌市の地価動向には、北海道新幹線の札幌延伸の遅れも影を落としています。新幹線開業を見据えた開発計画が先送りされることで、周辺地域の投資意欲が減退しています。住宅地でも商業地でも上昇幅が縮小しており、今後も鈍化傾向が続くとみられています。
ただし道内でも明暗が分かれています。半導体メーカー・ラピダスが次世代工場を建設する千歳市では、商業地の上昇率が全国1位の44.1%を記録するなど、特定の成長エンジンがある地域は力強い上昇を見せています。
建設業の構造的課題が地価を圧迫
建築費指数は2015年比で38%上昇
建設費の高騰は一時的な現象ではなく、構造的な問題です。東京のRC造住宅の建設費は2015年と比較して約38%上昇しており、資材費と労務費の両面でコスト増が続いています。
2024年4月から適用された建設業の時間外労働上限規制(いわゆる「2024年問題」)も、コスト上昇に拍車をかけています。主要な建設職種では前年比6~7%の労務単価上昇が見られ、左官工や大工などの熟練工の引退と人手不足が重なり、工事費の押し上げ要因となっています。
人手不足倒産が過去最多
深刻な人手不足は、倒産件数にも表れています。2024年には全産業で342件の人手不足関連倒産が発生し、そのうち建設業が99件と約3割を占めました。2022年の34件から3倍近くに急増しており、業界の苦境が浮き彫りになっています。
こうした建設コストの上昇は、不動産デベロッパーの投資判断に直結します。賃料水準が相対的に低い地方都市ほど採算が合いにくくなり、再開発の中止や延期につながる悪循環に陥っています。
東京圏との格差がさらに拡大
人口流入と供給不足で東京は独走
地方都市が苦戦する一方、東京圏は力強い上昇を続けています。東京都の全用途平均は8.4%上昇、商業地は12.2%、住宅地は6.5%と高い伸びを示しました。都道府県別の伸び率では18年ぶりに全国トップに返り咲いています。
東京圏の強さの背景には、人口流入の継続と供給不足があります。マンション建設に適した用地は競争が激化しており、既存物件の希少価値も高まっています。建設費の高騰は東京でも同様ですが、賃料や販売価格の水準が高いため、プロジェクトの採算が確保しやすい構造にあります。
注意点・展望
今回の公示地価で浮き彫りになったのは、地方都市と大都市圏の「二極化」です。建設コストの高騰という同じ圧力を受けながら、賃料水準の違いがプロジェクトの実現可能性を左右し、結果的に地価動向にも差が生じています。
今後の注目点は、建設費の動向と金利の行方です。日銀の利上げが進めば不動産投資の採算ラインがさらに上昇し、地方都市ではより慎重な投資判断が求められます。一方、建設業の働き方改革や生産性向上への取り組みが進めば、コスト上昇圧力が緩和される可能性もあります。
まとめ
2026年の公示地価では、名古屋圏や札幌で上昇率の鈍化が鮮明になりました。建設費の高騰と人手不足が再開発計画を直撃し、賃料水準が相対的に低い地方都市ほど影響が大きくなっています。東京圏との格差は拡大傾向にあり、不動産市場の二極化が一段と進んでいます。
不動産投資や住宅購入を検討する際には、地域ごとのマクロ環境を十分に把握し、建設コストと賃料水準のバランスを見極めることが重要です。
参考資料:
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