Research
Research

by nicoxz

NOT A HOTELが世界的建築家と創る新しい別荘体験の全貌

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

「ホテルでもない、別荘でもない」という独自のコンセプトを掲げるNOT A HOTELが、世界の建築シーンで存在感を急速に高めています。2020年の創業以来、藤本壮介氏、ビャルケ・インゲルス率いるBIG(Bjarke Ingels Group)、ジャン・ヌーヴェル氏、スノヘッタ、さらにはザハ・ハディド・アーキテクツといった世界的建築家・事務所との協業を次々と実現。累計販売額は3億7,200万ドル超、オーナー数は1,000名を突破したとされています。本記事では、NOT A HOTELがいかにして世界トップクラスの建築家を惹きつけ、それを実現可能なプロジェクトへと昇華させているのか、その全体像を解説します。

NOT A HOTELとは何か――共有別荘の新しいかたち

ビジネスモデルの革新性

NOT A HOTELは、従来の別荘所有やホテル宿泊の概念を根本から再定義する日本発のプラットフォームです。物件を丸ごと購入するのではなく、年間10泊・20泊・30泊といった単位で共有所有(フラクショナルオーナーシップ)できる仕組みを採用しています。オーナーが滞在しない期間は、物件がホテルとして一般に貸し出され、収益を得ることも可能です。

この仕組みにより、数億円規模の高級別荘への参入障壁が大幅に下がりました。スマートフォンアプリを通じて予約・管理・貸し出しがすべて完結するD2C(Direct to Consumer)モデルを構築し、テクノロジーとデザインを融合させた新しい不動産体験を実現しています。

展開拠点の広がり

現在、NOT A HOTELのネットワークは全国6拠点以上、34物件以上にまで拡大しています。宮崎県青島(AOSHIMA)を皮切りに、栃木県那須、東京、福岡、群馬県北軽井沢、そして沖縄県石垣島へと展開。さらに北海道ルスツ、瀬戸内海の佐木島、屋久島、京都、沖縄本島といった新拠点の開発も進行中です。いずれも日本の自然や文化が際立つ場所が選ばれており、立地そのものがブランド体験の重要な要素となっています。

世界的建築家との協業プロジェクト

藤本壮介 × NOT A HOTEL ISHIGAKI「EARTH」

NOT A HOTELの旗艦プロジェクトとして注目を集めたのが、建築家・藤本壮介氏が設計した石垣島の「EARTH」です。約10,000平方メートルの海辺の敷地に建つこの円形ヴィラは、室内・テラス・プール・水盤を含む総面積約1,500平方メートルを誇り、NOT A HOTELネットワーク最大規模の建築物です。

最大の特徴は、すり鉢状の緑化屋根です。上空から見ると建物が周囲の自然に溶け込み、中庭に立つと空と海だけが視界に広がります。白い外壁はすべて手作業で仕上げられ、石垣島の太陽光を反映して青い海とのコントラストを生み出します。4つのベッドルーム、インフィニティプール、サウナを備え、2025年7月に開業しました。

BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)× NOT A HOTEL SETOUCHI

デンマーク出身の世界的建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIGは、瀬戸内海に浮かぶ佐木島で「NOT A HOTEL SETOUCHI」を設計しています。8エーカー超の敷地に3棟のヴィラが配置されるこのプロジェクトでは、90度・180度・270度・360度という角度のシステムを用いて、眺望とプライバシーを精密に制御する設計手法が採用されています。2026年春の開業が予定されており、瀬戸内の多島美と現代建築の融合が期待されています。

ジャン・ヌーヴェル × 屋久島プロジェクト

フランスのプリツカー賞受賞建築家ジャン・ヌーヴェル氏は、世界自然遺産・屋久島でNOT A HOTELのヴィラを手がけています。千年杉が茂る太古の森の中に、まるで岩から結晶が生え出たかのようなガラス建築を構想。建築と自然、物理的なものと精神的なものの境界を曖昧にするという、ヌーヴェル氏の建築哲学が色濃く反映されたプロジェクトです。

スノヘッタ × NOT A HOTEL RUSUTSU

ノルウェーの建築事務所スノヘッタは、北海道ルスツリゾートの山頂に2,574平方メートルのヴィラを設計しています。鉄筋コンクリート製の2層構造が羊蹄山に向かって緩やかにカーブし、周囲の山並みに呼応する造形です。スキー場への直接アクセスと羊蹄山のパノラマビューを実現し、2029年春の開業を予定。NOT A HOTEL史上最大規模のプロジェクトとなります。

ザハ・ハディド・アーキテクツ × vertex

さらに、2025年12月にはザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)による沖縄の階段状リトリートも発表されました。これはNOT A HOTELが新たに立ち上げた「vertex by NOT A HOTEL」ブランドの第1号プロジェクトであり、ZHAにとって日本初のホテルプロジェクトとなります。亜熱帯の森とターコイズブルーの海に挟まれた敷地で、建物が地面から浮かぶように設計され、環境負荷を最小化しながら圧倒的な海の眺望を提供します。

ブランドの世界観を支える社内チームの存在

「NOT A HOTEL ARCHITECTS」の役割

世界的建築家のクリエイティブなビジョンを現実の建築物として完成させるには、構想と実装の間を埋める存在が不可欠です。NOT A HOTELでは、社内の建築チーム「NOT A HOTEL ARCHITECTS」がこの役割を担っています。

このチームは、プロジェクトの最上流である土地選定の段階から関与します。日本各地の候補地を調査し、その土地の地形・気候・文化的背景を踏まえた上で、どの建築家のビジョンと最も相性が良いかを見極めます。建築家が描く創造的なデザインを、日本の建築基準法や地域の規制、施工上の制約と両立させながら、ブランドとしての一貫した世界観を維持する――この繊細なバランスを取る仕事がNOT A HOTEL ARCHITECTSの核心です。

設計から運営までの一気通貫体制

NOT A HOTEL ARCHITECTSの守備範囲は設計段階にとどまりません。竣工後の施設運営、IoTスマートホーム技術の実装、オーナー向けサービスの設計まで一貫して関与しています。建築家の意図を理解したチームが運営にも携わることで、空間の使われ方までデザインの思想が貫かれる仕組みが構築されています。

この一気通貫体制こそが、世界的建築家が安心してNOT A HOTELとの協業に踏み切れる理由の一つと考えられます。建築家は純粋にクリエイティブな部分に集中でき、実現可能性やブランド整合性は社内チームが担保するという分業が成立しているのです。

新ブランド戦略――HERITAGEとvertex

NOT A HOTELは2025年12月、初のホテルブランドとして「HERITAGE by NOT A HOTEL」と「vertex by NOT A HOTEL」を発表しました。これまで共有別荘の販売を主軸としてきた同社が、一般宿泊客も利用できるホテル事業へと本格的に領域を拡大する戦略転換です。

HERITAGEは、寺院や歴史的建造物といった日本の建築遺産を現代的な感性でリノベーションするブランドで、第1号は世界遺産・東寺(京都)の宿坊を改修するプロジェクトです。一方のvertexは、ザハ・ハディド・アーキテクツが設計する沖縄のプロジェクトに代表される、テクノロジーとデザインの最先端を追求する未来志向のブランドです。

この2ブランドの展開により、NOT A HOTELは「所有する体験」と「宿泊する体験」の両面からラグジュアリー市場にアプローチする独自のポジションを確立しようとしています。

注意点・展望

NOT A HOTELの急成長は注目に値しますが、いくつかの論点も存在します。フラクショナルオーナーシップは日本ではまだ馴染みの薄い概念であり、不動産としての資産価値の維持・流動性については長期的な検証が必要です。また、世界的建築家による物件は建設コストが高額になりがちで、その費用がオーナーへの価格にどう反映されるかも注視すべき点です。

一方で、インバウンド需要の拡大や国内富裕層の別荘需要の高まりを背景に、建築デザインを核とした差別化戦略は今後も有効と考えられます。2026年のSETOUCHI開業、2029年のRUSUTSU開業に向けて、NOT A HOTELの挑戦はまさにこれからが本番です。世界的建築家の作品に「暮らす」という体験が、日本の不動産・観光業界にどのような波及効果をもたらすか、引き続き注目が集まります。

まとめ

NOT A HOTELは、藤本壮介、BIG、ジャン・ヌーヴェル、スノヘッタ、ザハ・ハディド・アーキテクツといった世界最高峰の建築家と協業し、共有別荘という枠組みの中で唯一無二の建築体験を実現しています。その背景には、土地選定から設計・施工・運営までを一気通貫で支える社内チーム「NOT A HOTEL ARCHITECTS」の存在があり、クリエイティブなビジョンとビジネスの実現可能性を高い次元で両立させています。新ブランド「HERITAGE」と「vertex」の展開により、事業領域はさらに拡大。建築とテクノロジーの融合で不動産の概念を変えようとするNOT A HOTELの今後から、目が離せません。

参考資料:

関連記事

最新ニュース

ブラジルがBYD「奴隷労働」認定を撤回した背景と波紋

ブラジル政府が中国EV大手BYDを「奴隷労働」企業に認定後わずか2日で撤回し、認定を主導した労働監督局長を解任した。カマサリ工場建設現場で163人の中国人労働者がパスポート没収・賃金搾取の被害に遭った事件の経緯と、中国との外交関係を優先する政治判断が労働者保護を揺るがす構造的問題を読み解く。

ANA人事騒動は何だったのか 1997年対立と統治改革の起点

1997年のANA人事騒動は、若狭得治名誉会長、杉浦喬也会長、普勝清治社長の対立が表面化し、社長候補の差し替えまで起きた統治危機でした。背景には規制緩和下での旧運輸官僚主導と生え抜き経営のねじれがありました。1999年の無配、取締役31人から19人への削減、スターアライアンス参加へつながる改革の意味を読み解きます。

ANAとJALの上級座席競争を需要回復と機材更新戦略から読む

ANAは2026年8月受領の787-9に個室型ビジネスクラス「THE Room FX」を載せ、JALは2027年度から737-8で国内線ファーストクラスを全国展開します。訪日客4268万人、訪日消費9兆4559億円、国内旅行消費26兆7746億円の時代に、航空会社が座席を上質化する収益戦略を読み解きます。