NOT A HOTELが30拠点へ拡大、海上ホテルも視野に
はじめに
「世界中にあなたの家を」をコンセプトに掲げるNOT A HOTEL(ノットアホテル)が、大胆な拡大戦略を打ち出しています。2030年3月までに拠点数を現在の約3倍となる約30カ所に広げる計画です。さらに、寝室を備えたクルーザーなど「海に浮かぶホテル」ともいえる新しい宿泊体験も商品ラインナップに加えます。
建設業界の人手不足が深刻化するなか、従来の建築にとらわれない発想で富裕層の需要を取り込む同社の戦略は、ホスピタリティ業界に新たな潮流を生み出す可能性があります。本記事では、NOT A HOTELの事業モデルと拡大計画の詳細を解説します。
NOT A HOTELとはどんな会社か
別荘とホテルの境界をなくすビジネスモデル
NOT A HOTELは、2020年4月に濵渦伸次氏が設立したスタートアップです。同社の最大の特徴は、物件の用途を個人の住居・別荘・ホテルの間でシームレスに切り替えられる点にあります。オーナーはアプリを通じて「今日は自分が使う日」「今日はホテルとして貸し出す日」を柔軟に運用できます。
2022年11月に宮崎県の「NOT A HOTEL AOSHIMA」で初の拠点を開業し、その後、栃木県那須、東京都広尾・浅草、福岡、北軽井沢と拠点を拡大してきました。現在の拠点数は約10カ所です。
NFTを活用した会員権システム
NOT A HOTELのユニークな点は、NFT(非代替性トークン)を活用した会員権システムです。メンバーシップNFTを保有すると、47年間にわたり毎年1回、全国のNOT A HOTEL施設に宿泊できます。宿泊場所はランダムに決定され、「THE KEY」という宿泊券NFTが90日前に届く仕組みです。
会員権はNFTのため、NFTマーケットプレイスで売買したり、都合が悪い年は宿泊券だけを他者に譲渡したりすることも可能です。1泊あたり3万〜4万円台と、物件を購入するよりも手軽に利用できる設計です。
2030年に30拠点への拡大計画
共同CEO体制で成長を加速
2026年1月に代表取締役Co-CEO(共同最高経営責任者)に就任した江藤大宗氏のもと、NOT A HOTELは拡大路線を鮮明にしています。江藤氏はJPモルガン証券で投資銀行業務に従事した経歴を持ち、2020年にNOT A HOTELに参画。財務戦略の面から同社の成長を牽引してきました。
まず2027年3月までに神奈川県の奥湯河原や沖縄本島などに新拠点を開設する予定です。屋久島では、フランスの建築家ジャン・ヌーヴェル氏がデザインする「NOT A HOTEL YAKUSHIMA」も始動しており、2026年夏の販売開始が予定されています。
建設業界の人手不足への対応策
拠点数を3倍に増やすという計画の実現にあたり、最大の課題は建設業界の深刻な人手不足です。NOT A HOTELはこの課題に対し、従来の建築に頼らない新しいアプローチを模索しています。その代表例が、寝室を備えたクルーザーの導入です。
NOT A GARAGEが切り拓く新領域
2025年7月に発表された新事業「NOT A GARAGE」は、ヘリコプターやクルーザーなどの乗り物をシェアして楽しむサービスです。販売開始した「SUNREEF 80 POWER」は約80フィート(約24メートル)のカタマラン(双胴船)で、瀬戸内海を航行します。
江藤氏は「NOT A GARAGEが目指すのは”繋ぐこと”。拠点間を繋ぎ体感距離を縮める。別荘、クルーザー、ヘリ、ジェット、車、それぞれが好きなクラブのメンバーを繋ぐ」と述べています。海上に浮かぶ宿泊施設は、建設用地の確保や人手不足の制約を受けにくいという利点もあります。
注意点・今後の展望
富裕層市場の拡大が追い風
日本国内の富裕層向けホスピタリティ市場は拡大基調にあります。訪日外国人観光客の高級宿泊需要に加え、国内の資産家層の旅行・体験消費も堅調です。ヒルトンが「2030年までに日本で100軒開業」を掲げるなど、外資系ホテルの日本進出も加速しています。
NOT A HOTELは「所有と利用の融合」という独自のポジショニングで、こうした市場の成長を取り込もうとしています。
課題はスケーラビリティ
一方で、30拠点への拡大にはいくつかの課題があります。各拠点のデザインや体験品質をどう維持するか、NFTを含む複雑な権利関係をスケールさせられるか、建設コストの上昇にどう対応するかなどが挙げられます。また、NFTメンバーシップは2026年1月時点で販売終了しており、今後の会員権販売モデルの方向性も注視されます。
まとめ
NOT A HOTELは2030年までに約30拠点への拡大を計画し、クルーザー型宿泊施設など建築にとらわれない新領域にも進出します。NFTを活用した会員権、別荘とホテルのハイブリッドモデルという独自のビジネスモデルで富裕層需要を取り込む戦略です。建設業界の人手不足という制約を逆手に取った「海に浮かぶホテル」構想は、日本のホスピタリティ業界に新たな選択肢を提示しています。
参考資料:
関連記事
日本酒「梵」が富裕層市場を開拓する戦略とは
福井県鯖江市の加藤吉平商店が手掛ける日本酒「梵」。10年熟成の超吟ヴィンテージを武器に海外の富裕層市場を開拓する戦略と、日本酒の高級化の背景を解説します。
富裕層向けシェアビジネス拡大:別荘とジェットの共同所有が新トレンド
金融資産5億円以上の超富裕層が12万世帯に達する中、双日やNOT A HOTELが展開する高額資産のシェアリングモデルが注目を集めています。ビジネスジェットや別荘の共同保有が富裕層に支持される理由と市場の展望を解説します。
日本の経済格差が拡大:上位0.01%が所得2%占める時代へ
株高を背景に日本の経済格差が深刻化。上位0.01%層が初めて所得全体の2%超を占める一方、低中所得層は貧困化が進行。一橋大学森口千晶教授らの研究が明らかにした格差の実態と、再分配政策の課題を解説します。
「10億り人」の実像、億り人を超えた超富裕層投資家の素顔
資産10億円以上を築いた「10億り人」の投資手法と考え方に迫る。危機にひるまず、株高にも酔わない、超富裕層投資家の実像を解説します。
日本「持てる1万人」所得シェア2%超、株高で格差拡大
日本で上位0.01%の富裕層の所得シェアが初めて2%を超えました。株高による資産効果が格差を拡大させる中、再分配政策のあり方が問われています。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。