NY原油12%急騰で75ドル台、イラン攻撃の衝撃
はじめに
2026年3月2日、ニューヨーク原油先物市場でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が一時1バレル75ドル台に急騰しました。前週末の清算値と比べ12%超の上昇率を記録し、2025年6月以来約9カ月ぶりの高値圏に突入しています。
背景にあるのは、2月28日に開始された米国とイスラエルによるイラン攻撃です。「エピック・フューリー作戦」と名付けられた今回の軍事行動は、イランの核施設や軍事インフラを標的とし、最高指導者ハメネイ師の死亡という衝撃的な結果をもたらしました。イラン革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡の封鎖を宣言したことで、原油供給への不安が一気に高まっています。
この記事では、原油急騰の背景と要因、ホルムズ海峡封鎖の影響、そして日本経済への波及について詳しく解説します。
原油急騰の直接的な要因
米・イスラエルのイラン攻撃と市場の反応
2月28日深夜(イラン時間)、米軍とイスラエル軍はテヘラン、イスファハン、コム、カラジ、ケルマンシャーなどイラン各地の軍事施設に対して大規模な攻撃を実施しました。イスラエル側は「轟くライオン作戦」、米国側は「エピック・フューリー作戦」と名付けています。
週明け3月2日の市場が開くと、エネルギー市場は即座に反応しました。WTI原油先物の期近4月物は一時1バレル75.33ドルを記録し、前週末比で約8ドル以上の上昇となりました。国際指標のブレント原油も9%上昇し、79ドル台をつけています。
市場関係者の間では、今回の攻撃が前回2025年6月のイラン攻撃と同様に短期間で収束するとの見方がある一方、イランの報復姿勢を考慮すると長期化するリスクも指摘されています。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖
原油価格急騰の最大の要因は、ホルムズ海峡の通航が事実上停止したことです。攻撃開始から数時間以内に、IRGCはVHF無線を通じて海峡を航行する船舶に対し通過を禁止する警告を発信しました。IRGC幹部は「海峡を通過しようとする船には火を放つ」「この地域から石油は一滴も出さない」と宣言しています。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、ホルムズ海峡は世界の海上原油輸送の約20%にあたる日量約2,000万バレルの通過地点です。タンカーの交通量は約70%減少し、150隻以上の船舶が海峡の外側に停泊して様子をうかがう状態となりました。
世界のエネルギー市場への影響
供給途絶のインパクト
ホルムズ海峡を通過する原油の大部分はアジア向けです。中国、インド、日本、韓国の4カ国だけで海峡通過原油の約70%を占めています。Kpler社のデータでは、2025年には日量約1,500万バレルの原油が海峡を通過しており、これは世界の海上原油輸出の約3分の1に相当します。
供給途絶が長引く場合の影響は甚大です。バークレイズのアナリストは、中東の安全保障状況が悪化すればブレント原油が1バレル100ドルに到達する可能性があると指摘しています。より深刻なシナリオでは、さらなる高値も視野に入ります。
OPECプラスの対応と限界
OPECプラスは日量20.6万バレルの増産を表明し、供給不足への対応を図っています。OPECプラスには約350万バレルの余剰生産能力があり、その大半はサウジアラビアとUAEに集中しています。
しかし、ここに大きな矛盾があります。余剰生産能力のある国々の多くが、まさにホルムズ海峡を通じて原油を輸出しているのです。海峡が閉鎖されたままでは、増産した原油も世界市場に届きません。この構造的な問題が、原油価格の上昇圧力をさらに強めています。
日本経済への影響
ガソリン価格200円超のリスク
日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、そのうち約8割がホルムズ海峡を経由して運ばれています。野村総合研究所(NRI)の試算によると、原油価格が約30%上昇するベースシナリオでは、国内ガソリン価格は1週間程度で1リットルあたり204円と200円を超える計算になります。
楽観シナリオでも原油価格が約15%上昇すれば、ガソリン価格は181円に達すると試算されています。2025年末に暫定税率の廃止などで実現したガソリン価格の引き下げ効果が、原油高で消し飛ぶリスクがあるのです。
物価全体への波及
原油価格の上昇は、ガソリン価格だけにとどまりません。NRIの分析によれば、電気代は原油価格の上昇率の約2割程度、ガス代は2〜3割程度の上昇が見込まれます。ただし、海外の原油価格上昇が家庭用の電気代やガス代に反映されるまでには3〜4カ月のタイムラグがあります。
ブルームバーグは、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により日本のインフレが加速するリスクを指摘しています。エネルギーコストの上昇は食品をはじめとする幅広い分野の物価上昇に波及するため、日銀の金融政策にも影響を与える可能性があります。
注意点・展望
今後の原油価格は、紛争の帰趨とホルムズ海峡の通航再開時期に大きく左右されます。トランプ大統領は「戦争は数週間で終わる可能性がある」と述べていますが、イラン側は強硬姿勢を崩しておらず、先行きは不透明です。
短期的に収束すれば、原油価格は急騰前の水準に戻る可能性があります。しかし紛争が長期化した場合、1バレル100ドル超への上昇シナリオも現実味を帯びてきます。オックスフォード・エコノミクスは、長期化シナリオでは世界経済の成長率が0.5〜1.0ポイント程度押し下げられると分析しています。
日本の投資家や企業にとっては、原油先物やエネルギー関連株の動向を注視するとともに、為替(円安によるコスト増リスク)も含めた総合的なリスク管理が求められます。
まとめ
米国・イスラエルのイラン攻撃を受け、NY原油は一時12%超の急騰を記録しました。最大の懸念材料はホルムズ海峡の封鎖であり、世界の原油供給の約20%が滞る事態となっています。OPECプラスの増産にも限界があり、紛争の長期化次第では100ドル超の原油価格も想定される状況です。
日本は中東原油への高い依存度から、ガソリン価格の大幅上昇や物価全体への波及が避けられません。今後数週間の紛争の展開が、世界経済と日本の家計に直結する重要な局面です。最新の情報を継続的にチェックし、エネルギーコスト上昇への備えを進めることが重要です。
参考資料:
- Oil surges and stock futures sink as war in Iran threatens crude supply - CNN
- Oil soars amid Strait of Hormuz shipping fears - CNBC
- US-Iran conflict: Strait of Hormuz crisis reshapes global oil markets - Kpler
- 原油価格上昇の国民生活への影響 - 野村総合研究所
- Oil prices rise sharply after US, Israeli attacks on Iran - Al Jazeera
- Strait of Hormuz Closure: Impacts on Oil and Supply Chains - ASIS
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