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by nicoxz

大川原化工機冤罪、元警視庁幹部に異例の賠償請求

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はじめに

機械製造会社「大川原化工機」に対する警視庁の違法捜査を巡り、2026年2月6日、警視庁は当時の公安部幹部ら3人に対して賠償金の一部負担を求める求償権を行使しました。請求額は最大250万円で、合計528万円です。違法捜査に関して捜査幹部個人に賠償額の負担を求める措置は極めて異例です。

この決定は、公権力の行使に伴う損害賠償が組織ではなく個人に及ぶという、日本の法制度上きわめてまれなケースです。本記事では、事件の経緯から求償権行使の詳細、そして今後の影響について解説します。

大川原化工機事件の全容

事件の発端と逮捕

大川原化工機事件は、横浜市に本社を置く機械製造会社の代表取締役ら3人が、生物兵器の製造に転用可能とされる噴霧乾燥機を経済産業省の許可なく輸出したとして、2020年3月に外為法違反容疑で逮捕された事件です。

警視庁公安部外事第一課は2018年10月に関係先を一斉に家宅捜索し、大川原化工機側の関係者50人が延べ291回の任意聴取を受けました。代表取締役らは一貫して無罪を主張しましたが、保釈は認められず、約11か月にわたって身柄を拘束されました。その間に、当時相談役だった男性は進行胃がんと診断され、釈放直後の2021年2月に亡くなりました。

捜査の違法性が明らかに

事件の転機は、2023年6月の証人尋問でした。公安部外事第一課の男性警部補が「事件について『まあ、捏造ですね』」と証言し、「捜査員の個人的な欲でそうなった」と認めたのです。この証言により、捜査の杜撰さが白日の下にさらされました。

2025年5月28日、東京高裁は一審に続いて警察と検察の捜査の違法性を認め、国と東京都に合わせて1億6600万円余りの賠償を命じました。同年6月、国と東京都が上告しなかったことで高裁判決が確定しています。

求償権行使の詳細

都監査委員の勧告

求償権の行使に至った直接の契機は、大川原化工機側が2025年11月に行った住民監査請求です。東京都が支払った遅延損害金を含む約1億8500万円の損害賠償について、捜査に関与した個人への求償を求めました。

2026年1月16日、東京都監査委員は警視庁に対し、元公安部幹部ら3人に求償権を行使するよう勧告しました。監査結果では、外事第一課の管理官と係長の対応を「ほとんど故意に近い重過失」と認定し、確定判決よりも踏み込んだ判断を示しています。

請求額と対象者

警視庁は2月6日、以下の3人に対して計528万円の支払いを請求しました。外事第一課の元管理官(警視)に250万円、外事第一課の元係長(警部)に250万円、そして捜査員(警部補)に28万円です。

都が支払った賠償金のうち国の負担分を差し引いた約9400万円が求償対象となりますが、実際の請求額は528万円にとどまっています。大川原化工機の元取締役は「警部補はほかの2人の10分の1で、金額の差が納得できない」と不満を示しています。

異例の判断が持つ意味

公務員個人の責任

国家賠償法では、公務員の違法行為による損害は国や自治体が賠償し、故意または重大な過失がある場合に限り個人への求償が認められています。しかし実際に求償権が行使されるケースは極めてまれであり、違法捜査を行った捜査員個人に対する求償は前例がほとんどありません。

今回の措置は、公権力を行使する公務員に対して「違法行為には個人としての責任が伴う」というメッセージを発するものです。捜査機関の行き過ぎた権力行使に対する一定の抑止効果が期待されます。

冤罪被害者の視点

大川原化工機側は、求償権の行使を「違法捜査の抑止力」として歓迎しつつも、賠償金約9400万円に対して528万円という請求額の少なさに疑問を呈しています。また、相談役を勾留中に亡くしたことへの償いとして十分かという根本的な問いも残されています。

注意点・展望

今回の求償権行使は画期的な一歩ですが、いくつかの課題も残ります。まず、請求額が賠償総額に比べて極めて少額である点です。組織的な問題であるにもかかわらず、個人3人への請求に限定されている点にも議論の余地があります。

大川原化工機側は「違法な捜査ができないような法整備を早急に実施してもらいたい」と要望しており、この事件を契機とした制度改革の議論が今後本格化する可能性があります。冤罪防止に向けた取り調べの可視化や、捜査の適正性を外部からチェックする仕組みの強化が求められるでしょう。

まとめ

大川原化工機事件を巡る求償権の行使は、違法捜査に対して捜査員個人の経済的責任を問うという、日本の司法制度において画期的な判断です。元管理官と元係長にそれぞれ250万円、捜査員に28万円、計528万円が請求されました。

この措置が違法捜査への実効的な抑止力となるかは今後の動向次第ですが、公務員の職務行為に対する個人責任のあり方について、新たな先例を作ったことは間違いありません。冤罪防止と捜査適正化に向けた制度的な議論の深化が期待されます。

参考資料:

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