さわかみファンドに見るアクティブ型投信の構造的課題
はじめに
日本初の独立系投資信託として1999年に設定された「さわかみファンド」は、純資産残高約4,500億円を誇る日本株アクティブ型投信の代表格です。「個人のための長期投資」という理念を掲げ、多くの個人投資家から支持を集めてきました。
しかし近年、その運用成績は日本株の市場平均を大きく下回り、資金流出が続いています。2025年の1年間では、さわかみファンドの騰落率が+13.17%だったのに対し、TOPIXは+24.8%、日経平均は+26.0%と大きな差がつきました。
さわかみファンドの課題を分析することで、アクティブ型投信全体が抱える構造的な問題と、個人投資家が投信を選ぶ際の判断基準が見えてきます。
さわかみファンドの現状と課題
長期にわたる市場平均との乖離
さわかみファンドの基準価額は2026年1月時点で約44,338円です。設定来では約4.4倍に成長しており、絶対リターンとしては決して悪くありません。しかし問題は、同期間のTOPIX(配当込み)と比較した場合に劣後している期間が長いことです。
過去10年間の年率リターンを見ると、さわかみファンドは約6.99%にとどまっています。同期間の日経平均は約11.8%、TOPIXは約9.2%と、いずれも市場平均を下回っています。アクティブファンドとして市場平均を上回ることを目標に掲げている以上、この結果は厳しい評価を受けざるを得ません。
現金比率の高さが足かせに
成績が振るわない大きな要因の一つが、ポートフォリオにおける現金比率の高さです。さわかみファンドは「暴落時に買い向かう」という運用方針のもと、純資産総額の約12%を現金として保有しています。
この戦略は市場の急落局面では有効に機能する可能性がありますが、上昇相場が続く局面では機会損失となります。2023年から2025年にかけての日本株市場は、円安や東証の資本効率改善要請、半導体関連株の上昇などを背景に力強い上昇基調が続きました。この間、現金を多く抱えていたさわかみファンドは上昇の恩恵を十分に受けられませんでした。
コスト面での不利
さわかみファンドの信託報酬は年率1.1%(税込)です。一方、TOPIXや日経平均に連動する低コストのインデックスファンドは、信託報酬が0.1%前後まで低下しています。
この約1%のコスト差は、長期投資において無視できないインパクトがあります。仮に年率1%のコスト差が20年間続くと、複利効果により約20%もの差が生まれます。アクティブファンドがこのコスト差を超えるリターンを生み出せなければ、投資家にとってインデックスファンドの方が合理的な選択となります。
アクティブ型投信が抱える構造的課題
SPIVAレポートが示すデータ
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが発表する「SPIVAレポート」は、アクティブファンドの実力を客観的に測る指標として広く参照されています。2024年末時点の日本版データによると、日本大型株ファンドの62%がベンチマークを下回っており、勝てたのはわずか38%です。
さらに深刻なのは、期間が長くなるほど勝率が下がるという傾向です。15年間のスパンで見ると、大多数のファンドがベンチマークに敗れています。加えて、2009年初時点で存在していたファンドのうち、2024年末まで存続していたのはわずか46%で、半数以上が途中で姿を消しています。
2025年中期の改善と例外
ただし、すべてのアクティブファンドが劣勢というわけではありません。2025年中期のSPIVAレポートでは、日本大型株ファンドの3分の2以上がベンチマークを上回るという歴史的な好成績を記録しました。
また、中小型株ファンドは比較的高い勝率を維持しています。大型株に比べてアナリストのカバレッジが少ない中小型株市場では、ファンドマネージャーの銘柄選定能力が発揮されやすいという構造的な理由があります。
なぜアクティブファンドは負けやすいのか
アクティブファンドが市場平均に負けやすい理由は複数あります。第一に、信託報酬をはじめとする運用コストの存在です。市場全体のリターンからコストを差し引けば、平均的なアクティブファンドは必然的に市場平均を下回ります。
第二に、市場の効率性が高まっていることです。情報技術の発展により、企業情報は瞬時に株価に反映されるようになりました。ファンドマネージャーが割安株を見つけて超過リターンを得る余地は、かつてより小さくなっています。
第三に、運用資産が大きくなるほど機動的な売買が難しくなるという規模の問題があります。さわかみファンドのように純資産が4,500億円規模になると、少数の銘柄に集中投資することが困難になり、結果として市場平均に近い構成になりがちです。
個人投資家が知るべき注意点
アクティブファンド選びの判断基準
アクティブ型投信を選ぶ際には、以下の点を確認することが重要です。まず、過去のリターンだけでなく、同カテゴリーのインデックスファンドと比較した相対リターンを確認しましょう。信託報酬を差し引いた後の実質リターンで評価することが不可欠です。
次に、運用方針と実際のポートフォリオの整合性を確認します。「割安株投資」を掲げながら実態は市場平均に近い構成になっている「隠れインデックスファンド」も存在します。高い信託報酬を払う価値があるかどうか、冷静に判断する必要があります。
新NISAでの投信選び
2024年から始まった新NISA制度のもと、投資信託を活用した資産形成に取り組む個人投資家が増えています。長期・積立・分散投資を前提とするならば、コストの低いインデックスファンドを軸に据えることが合理的です。
アクティブファンドを組み入れる場合は、ポートフォリオ全体の一部にとどめ、明確な運用哲学と実績を持つファンドに限定するのが賢明です。「独立系だから安心」「理念に共感できるから」という理由だけで選ぶのは避けるべきです。
まとめ
さわかみファンドの事例は、アクティブ型投信が抱える構造的な課題を象徴しています。高い現金比率による機会損失、インデックスファンドとのコスト差、そして長期的に市場平均を上回り続けることの難しさは、多くのアクティブファンドに共通する問題です。
個人投資家がアクティブ型投信を検討する際には、理念や知名度ではなく、ベンチマーク比の実績とコストを冷静に評価することが大切です。SPIVAレポートのようなデータを参照し、客観的な判断材料を持つことが資産形成の第一歩となるでしょう。
まずは自身のポートフォリオを見直し、保有している投信のリターンを市場平均と比較してみてはいかがでしょうか。
参考資料:
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