前澤ファンドがスムーズに出資、賃貸初期費用の分割払い市場が拡大
はじめに
引っ越しの際にかかる初期費用を分割払いできるサービス「smooth(スムーズ)」を提供する株式会社スムーズが、シリーズBラウンドのファーストクローズとして約28.5億円の資金調達を完了しました。
注目すべきは、ZOZO創業者の前澤友作氏が率いる「前澤ファンド」がリード投資家として参画したことです。サービス登録者数は43万人を突破しており、「賃貸の初期費用が高くて引っ越しに踏み切れない」という社会課題の解決に向けて、事業拡大を加速させます。
スムーズのビジネスモデル
賃貸初期費用の「あと払い」を実現
スムーズは、敷金・礼金・仲介手数料などの賃貸契約にかかる初期費用を分割払いにできるサービスです。通常、家賃8万円の物件であれば初期費用は約40万円程度が目安とされ、家賃の5か月分程度が一括で必要になります。
スムーズを利用すれば、この初期費用を6回・12回・24回などの分割で支払うことが可能になります。手続きはLINEで完結し、不動産サイトで見つけた部屋にも対応しているため、物件選びの幅が狭まることもありません。
ターゲットユーザー
サービスの主なユーザーは、就職前の新卒学生や転職する社会人など、「当面のキャッシュフローに不安はあるが、引っ越しをしなければならない」という層です。内定はあるが給料はまだもらっていない新社会人や、転職活動中で収入が不安定な人にとって、初期費用の分割払いは大きな助けとなります。
急成長するサービス
2025年12月現在、サービス登録者数は43万人を突破しています。「賃貸の初期費用が高く、引越しに踏み切れない」という課題は、国土交通省の住宅市場動向調査において10年連続で賃貸に関する困りごと第1位となっており、潜在的なニーズの大きさがうかがえます。
28.5億円の資金調達の詳細
調達の内訳
今回の資金調達は、第三者割当増資による約15.8億円のエクイティと、約12.7億円のデットファイナンスの組み合わせで構成されています。スムーズは来年予定のセカンドクローズに向けて、さらなる資金調達を継続する方針です。
参画した投資家
エクイティの引受先としては、前澤ファンドをリード投資家とし、XTech Ventures、サイバーエージェント・キャピタル、Valueup Partners、広島ベンチャーキャピタルが参画しています。
デットファイナンスでは、モルガン・スタンレーMUFG証券、北國銀行、静岡銀行、Flex Capital(株式会社Fivot)、日本政策金融公庫の計5社から融資・運転資金枠を確保しました。
資金の使途
調達したエクイティ資金は、導入企業の拡大やサービス拡充など、成長を加速させるためのプロダクト・オペレーション強化に投資されます。デットファイナンスによる資金は、初期費用の立替資金として活用されます。
スムーズのビジネスモデルでは、ユーザーに代わって初期費用を不動産会社に立て替え払いし、ユーザーから分割で回収する仕組みのため、事業拡大には立替資金の確保が不可欠です。
前澤ファンドとは
社会課題解決型の投資ファンド
前澤ファンドは2020年2月に設立された投資ファンドで、前澤友作氏の個人資産をもとに総額100億円規模の投資を行うことを目的としています。「社会課題の解決」や「趣味の追求」を事業テーマに掲げる起業家や団体に対して出資を行っています。
投資先は44社に上り、宇宙デブリ除去、次世代風力発電、核融合炉の商用化、排泄予測IoTデバイス、旅のサブスクリプションサービスなど、多岐にわたる分野のスタートアップを支援しています。
前澤氏の投資哲学
前澤ファンドの特徴は、単なる資金提供にとどまらない点です。出資企業の株式を約20%保有しながら、前澤氏自らが経営に参画するという方針を掲げています。2020年2月の募集には4,331件の応募が集まり、その注目度の高さを示しました。
前澤氏は2025年時点で資産額2,180億円を保有し、日本の富豪ランキング39位に位置しています。ZOZOを退任後も、スタートアップ投資やレーシングチーム運営など、精力的に活動を続けています。
賃貸初期費用分割払い市場の動向
従来の課題
これまで賃貸の初期費用を分割払いにするには、クレジットカードでの支払いが一般的でした。しかし、クレジットカードが使える物件が限られており、カードの限度額の制約もあるため、選択肢は限定的でした。
また、クレジットカードの分割払いでは金利手数料が発生します。24回払いの場合、実質年率は約15%が一般的で、30万円の初期費用なら実際の支払い額は34万5千円程度になります。
BNPL(後払い)サービスの台頭
近年、BNPL(Buy Now, Pay Later=後払い)サービスが不動産分野にも広がっています。2023年10月には、ハウスコムとポケットカードが業務提携し、初期費用のQR分割払いサービス「PLプラン」を開始しました。クレジットカード発行不要で、限度額を気にせず分割払いができるサービスも登場しています。
スムーズのような立替払いサービスは、銀行や信販会社より審査が緩く、LINEで手続きが簡単に完結するなど、ユーザーフレンドリーな特徴が支持を集めています。
市場拡大の可能性
スムーズは2030年までに1万店舗への導入を目指しています。不動産仲介業の店舗への営業体制を強化し、より多くの物件で初期費用の分割払いを選択できるようにする計画です。
全国の不動産仲介店舗数を考えると、1万店舗という目標は野心的ですが、43万人の登録者数が示す需要の大きさを考えれば、達成不可能な数字ではありません。
今後の展望と注意点
サービス内容の変更
2026年1月1日以降のご契約では、3・6・12・24・36・48回払いの分割手数料が実質年率18%となります。これまでの手数料体系からの変更となるため、利用を検討する際は最新の条件を確認することが重要です。
利用時の注意点
分割払いサービスは便利ですが、一括払いに比べて総支払額が増える点は理解しておく必要があります。分割回数が多いほど手数料は増加するため、返済計画を立てた上で利用することが大切です。
また、分割払いに一切対応していない不動産会社も存在するため、物件を探す際は事前に確認することをお勧めします。
不動産テック市場の成長
スムーズの資金調達成功は、不動産テック市場の成長を象徴しています。電子申込、オンライン内見・契約、初期費用の分割払いなど、テクノロジーを活用したサービスが次々と登場し、賃貸市場のユーザー体験を変革しつつあります。
まとめ
スムーズの約28.5億円の資金調達は、賃貸初期費用の分割払いという社会課題に対する市場の関心の高さを示しています。前澤ファンドがリード投資家として参画したことで、同社の成長に対する期待が一層高まっています。
「引っ越したいけど初期費用が払えない」という悩みは、多くの人が経験したことがあるでしょう。スムーズのようなサービスが普及することで、住まい選びの選択肢が広がり、より自由な暮らしが実現できるようになるかもしれません。
2030年の1万店舗導入という目標に向けて、スムーズの今後の展開に注目です。
参考資料:
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