ソフトバンクG分割後初の4000円割れ、AI投資戦略と株価の行方
はじめに
2026年1月19日、ソフトバンクグループ(SBG)の株価が前週末比139円(3.46%)安の3871円まで下落し、2025年12月31日を基準日とした1対4の株式分割後、初めて4000円の節目を割り込みました。分割考慮ベースでは2025年11月25日以来、約2カ月ぶりの安値水準です。
米ナスダック市場の下落が引き金となりましたが、SBGは2025年を通じてAI分野への大型投資を次々と発表し、市場の注目を集めてきました。株式分割によって個人投資家が参入しやすくなった今、SBGの投資戦略と今後の株価の見通しについて解説します。
株式分割の背景と目的
1対4の分割で投資しやすく
ソフトバンクグループは2025年11月11日の取締役会で株式分割を決議し、2025年12月31日を基準日として1株を4株に分割しました。効力発生日は2026年1月1日です。
分割前のSBG株価は1万7000円台を推移しており、最低投資金額は100万円を超えていました。分割後は50万円未満で購入できるようになり、個人投資家が参入しやすい環境が整いました。
個人投資家層の拡大を狙う
SBGは「投資家の皆様がより当社株式へ投資しやすい環境を整え、投資家層のさらなる拡大を図るため」と分割の目的を説明しています。同時に、2026年3月期の1株当たり配当金を11円(分割前換算で44円)とする予想も発表しました。
株式分割は伊藤忠商事やNTTなど約40銘柄が2026年1月1日に実施しており、SBGもこの流れに乗った形です。
下落の要因:米ハイテク株の軟調
ナスダック下落の影響
今回の株価下落の直接的な要因は、1月16日(金)の米国市場でナスダック総合株価指数が下落したことです。SBGは傘下の英半導体設計会社アーム・ホールディングスの株価と連動しやすく、米ハイテク株の動向に大きく左右される特性があります。
アームは米ナスダック市場に上場しており、前週末は軟調な展開となりました。SBGの時価純資産(NAV)においてアーム株の評価は大きなウエイトを占めるため、アームの下落はSBG株にとってネガティブ材料となります。
トランプ関税への警戒感
グローバルな視点では、トランプ大統領による欧州8カ国への追加関税発表も市場心理を冷やしました。貿易摩擦の激化は世界経済全体にマイナスの影響を与える可能性があり、ハイテク・成長株は売られやすい環境となっています。
SBGのAI投資戦略
OpenAIへの3.5兆円出資
ソフトバンクグループは2025年12月30日、米オープンAIへの225億ドル(約3兆5000億円)の追加出資を完了しました。累計出資額は347億ドルとなり、SBGは出資比率約11%の大株主となっています。
この出資資金の調達には、アーム株を担保にしたローンが活用されました。SBGにとってオープンAIは「単なる投資先ではなく、AI革命を実現するための最重要パートナー」と位置づけられています。
スターゲート計画:5000億ドルの巨大プロジェクト
2025年1月21日、トランプ大統領はホワイトハウスで、SBG、オープンAI、オラクルが共同で5000億ドル(約78兆円)規模のAIインフラプロジェクト「スターゲート」を設立すると発表しました。
スターゲートは今後4年間で5000億ドルを投資し、米国でオープンAI向けの新しいAIインフラを構築する計画です。まず1000億ドルの投資を即座に開始し、テキサス州ダラス近郊でデータセンターの建設が進められています。
孫正義氏はプロジェクトのチェアマンに就任し、「トランプ氏から投資額の引き上げを求められ、最終的に5000億ドルの投資を決めた」と語っています。
ASI(人工超知能)のNo.1を目指す
SBGは「人工超知能(ASI)のNo.1プラットフォーマー」を目指し、AI分野への「フルベット(全集中投資)」を進めています。AI戦略は以下の4つの柱で構成されています。
- AI計算能力: アームを中心に、GraphcoreやAmpere Computingを傘下に持つ
- AIデータセンター: スターゲート計画でインフラを構築
- AIモデル: オープンAIとの連携
- AIアプリケーション: クリスタル・インテリジェンスなどのサービス展開
2025年3月にはAmpere Computingを65億ドルで買収することを発表し、AIチップ分野でのポジションも強化しています。
アームの成長がカギ
データセンター市場でシェア拡大
英アームはSBGの最重要子会社であり、スマートフォン向けチップ設計で99%以上のシェアを持ちます。近年はデータセンターやPC分野にも進出しており、2025年4〜6月期のロイヤルティー収入は前年同期比25%増となりました。
「今年、主要なハイパースケーラーが導入するサーバー向けチップのうち、50%がアームベースになる見通し」とされており、クラウド・AI時代においてアームの重要性は高まっています。
NAVとLTVの状況
2026年3月期第1四半期において、SBGのNAV(時価純資産)はアームの株価上昇により32兆4000億円に達しました。LTV(純負債/保有株式価値)は17.0%と、大型投資を行いながらも財務的には健全な状態を維持しています。
ただし、アーム株の変動がNAVに直結するため、米ハイテク株市場の動向はSBGの企業価値に大きな影響を与えます。
投資判断のポイント
長期視点でのAI成長ストーリー
SBGへの投資は、AI産業の長期的な成長に賭けることを意味します。オープンAIやアームへの投資が実を結べば、大きなリターンが期待できます。2025年の株式売買代金は48兆円を超え、東証トップの大商いとなったことからも、市場の関心の高さがうかがえます。
孫正義氏は「AI収益600兆円」という壮大なビジョンを掲げており、スターゲート計画を含む投資戦略が成功すれば、SBGは次世代のテクノロジープラットフォーマーとして飛躍する可能性があります。
リスク要因も認識
一方で、リスク要因も存在します。スターゲート計画については、イーロン・マスク氏が「ソフトバンクが確保できているのは100億ドル未満」と発言し、資金調達の実現可能性に疑問を呈しました。
また、AI市場の競争激化や、景気後退時のハイテク株売りなど、外部環境の変化によって株価が大きく変動するリスクがあります。高いボラティリティを許容できる投資家向けの銘柄といえるでしょう。
まとめ
ソフトバンクグループ株が分割後初めて4000円を割り込んだ背景には、米ナスダック市場の下落という短期的な要因があります。しかし、同社のAI投資戦略は長期的な視点で評価すべきものです。
オープンAIへの3.5兆円出資、5000億ドル規模のスターゲート計画、そしてアームの成長と、SBGはAI革命の中核に位置するポジションを築きつつあります。株式分割によって個人投資家が参入しやすくなった今、AIの将来性とリスクを十分に理解した上で投資判断を行うことが重要です。
今後の注目点は、スターゲート計画の進捗、オープンAIの業績、そしてアームのデータセンター市場でのシェア拡大です。これらが順調に進めば、株価回復の可能性も十分にあるでしょう。
参考資料:
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