スポーツ自転車、コロナブーム終焉で値下げ相次ぐ
はじめに
スポーツ自転車の価格が下落傾向にあります。コロナ禍で「密を避ける移動手段」として脚光を浴び、大幅な値上げが続いてきたスポーツ自転車ですが、ブーム収束に伴い供給過多の状態に陥っています。
米国の自転車大手トレックは2025年、ロードバイクの一部主力モデルについて日本国内での定価を10〜14%値下げしました。物価高に悩む消費者の間では、中国などの新興ブランドが手がける低価格製品への注目も高まっています。
本記事では、スポーツ自転車市場の変化と新興ブランドの台頭、そして今後の展望について解説します。
コロナ特需とその反動
ブーム期の需要急増
2020年から2022年にかけて、自転車業界は空前の特需に沸きました。コロナ禍で公共交通機関を避ける人が増え、密を避けられる移動手段として自転車が注目を集めたのです。健康志向の高まりも追い風となり、特にスポーツ自転車の需要が大幅に増加しました。
需要の急増に対して供給が追いつかず、人気モデルは入荷待ちの状態が続きました。メーカーは増産体制を敷き、価格も上昇の一途をたどりました。
在庫過多への転落
しかしコロナ禍が落ち着くと状況は一変します。ブーム時に増産された自転車の在庫が積み上がり、メーカーや販売店の経営を圧迫するようになりました。
需要の急減だけでなく、円安や原材料費・燃料費の高騰による値上げも消費者の購買意欲を削ぎました。度重なる値上げに対して買い控えが広がり、在庫問題はさらに深刻化しています。
トレックの規模縮小
この影響は世界最大手のメーカーにも及んでいます。米国のトレックは事業規模を10%縮小すると報じられました。新規販売の低迷と在庫の増加に対応するための措置です。
日本市場でも、トレックは2025年にロードバイクの主力モデルを10〜14%値下げしました。在庫消化と需要喚起を図る動きといえます。
シマノの業績に見る市場環境
連続する減収減益
自転車部品で世界シェアの大半を握るシマノの業績も、市場環境の厳しさを反映しています。2024年12月期の売上高は4,509億93百万円で前期比4.9%減、営業利益は650億85百万円で同22.2%減でした。
2025年12月期はさらに厳しい見通しです。連結純利益は前期比60%減の305億円になると予想されています。売上高は2%増の4,600億円を見込むものの、営業利益は29%減の460億円と大幅な減益が続く見通しです。
中国市場の失速
特に深刻なのが中国市場です。中国での自転車部品の売上高はブーム一服により前期比4割減少する見込みです。市場規模の見通しは905億円から580億円へと大幅に引き下げられました。
中国では完成車メーカーが市場規模を読み切れず過剰に在庫を抱えており、消化に時間がかかっている状況です。景況感の悪化により、比較的ハイエンドな自転車の販売が特に鈍化しています。
中国新興ブランドの台頭
コストパフォーマンスで勝負
在庫過多と値下げが続く中、中国の新興ブランドが存在感を高めています。SAVADECK、SUNPEED、TWITTER Bikesなどのメーカーは、低価格でありながら一定の品質を備えた製品を投入し、コストパフォーマンスを重視する消費者の支持を集めています。
TWITTER Bikesはロードバイク、マウンテンバイク、グラベルロードバイク、E-BIKEなど幅広いラインナップを展開し、世界市場に販売網を広げています。
カーボン製品の低価格化
特に注目されるのがカーボン製品の低価格化です。ICANなどの中国メーカーは、ロードバイク、マウンテンバイク、グラベルバイクなど、ほぼ全てのジャンルのカーボンフレームをラインナップしており、価格も10万円を切るものがほとんどです。
従来、カーボンフレームは高級品の代名詞でしたが、中国メーカーの参入により、より手の届きやすい価格帯で入手できるようになっています。
品質への懸念と評価
中国製品には品質面での懸念も指摘されます。しかし近年は品質管理の向上が進み、「値段の割に良い」という評価も増えています。特にエントリーユーザーや、セカンドバイクを求める愛好家からの支持を集めています。
販売店とチームの独自展開
販売店のオリジナルブランド
市場環境の変化に対応する動きは販売店にも見られます。自転車チェーン店や卸会社向けにODM(オリジナルブランドの企画・設計・製造)を手がける企業が存在し、販売店独自のブランド展開を支援しています。
大手メーカーの価格変動に左右されにくい独自ブランドは、販売店の収益安定化に寄与する可能性があります。
プロチームの機材開発
レースチームによる独自の商品開発も活発化しています。プロチームがメーカーと技術協力関係を築き、レースで培ったノウハウを市販品に反映させる取り組みが進んでいます。
こうした動きは、単なる価格競争から差別化競争への移行を示唆しています。
今後の展望と注意点
2026年以降の価格動向
スポーツ自転車の価格は今後、上昇に転じる可能性もあります。台湾での人件費高騰と電力コスト上昇により、2026年モデルの後半ロット(春以降入荷分)から5〜8%程度の価格改定が行われる見込みです。
完成車コストの3〜4割を占めるコンポーネント代について、シマノが2026年に価格改定を行うことも影響します。トレックを含む主要メーカーが完成車の定価を上げざるを得ない状況です。
購入タイミングの見極め
現在の値下げ局面は、スポーツ自転車の購入を検討している人にとってはチャンスかもしれません。在庫処分のセールが各所で行われており、人気モデルを割安で入手できる可能性があります。
ただし、2026年後半以降は価格上昇の可能性があるため、購入を検討している場合は市場動向を注視する必要があります。
新興ブランドの選び方
中国新興ブランドを検討する際は、以下の点に注意が必要です。まず、アフターサービスの体制を確認することが重要です。国内に代理店や修理対応できる販売店があるかどうかは、長期的な使用において大きな差となります。
また、安全性に関わるパーツ(フレーム、フォーク、ブレーキなど)については、信頼性の高いメーカーの製品を選ぶことをお勧めします。
まとめ
コロナ特需の反動でスポーツ自転車市場は在庫過多に陥り、値下げが相次いでいます。トレックなど大手メーカーの価格調整や、シマノの大幅減益からも市場環境の厳しさが見て取れます。
一方で、中国新興ブランドの台頭により、消費者にとっては選択肢が広がっています。低価格で一定品質の製品が入手可能になり、スポーツ自転車の裾野拡大につながる可能性もあります。
2026年後半以降は再び価格上昇の局面に入る可能性があるため、購入を検討している方は現在の市場動向を踏まえて判断することをお勧めします。自分の用途と予算に合った一台を見つける良い機会かもしれません。
参考資料:
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