初の女性首相・高市氏とフェミニズムの断層

by nicoxz

はじめに

2025年10月21日、日本は歴史的な転換点を迎えました。高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に就任し、1885年の内閣制度創設から140年を経て、初めて女性が首相の座に就いたのです。米国がいまだ「ガラスの天井」を破れずにいる中、日本が先行したこの出来事は、表面的には大きな前進に見えます。しかし、この歴史的快挙を素直に喜べない女性たちがいます。長年、フェミニズムの立場で活動してきた人々です。この記事では、高市首相誕生がなぜフェミニストの間で評価が分かれるのか、その背景と日本のジェンダー平等の現状について詳しく解説します。

日本初の女性首相誕生の歴史的意義

米国より先にガラスの天井を破った日本

2024年の米国大統領選挙では、カマラ・ハリス副大統領がトランプ前大統領に敗北し、2016年のヒラリー・クリントン氏に続いて2度目の「ガラスの天井」突破の失敗となりました。一方、日本では高市早苗氏が2025年10月4日の自民党総裁選の決選投票で小泉進次郎氏を185票対156票の大差で破り、女性初の自民党総裁に就任しました。

「最も高く、最も硬いガラスの天井」という表現は、米国社会でジェンダー平等が主流化されているにもかかわらず、女性大統領が誕生していない現実を指しています。その米国より先に、日本が女性首相を実現したという事実は、国際社会に一定のインパクトを与えました。

韓国の先例との違い

第2次大戦後、世界では80カ国以上で女性の大統領や首相が誕生していますが、アジアにおいても韓国、インド、パキスタン、フィリピン、タイなどで先例があります。

しかし、韓国の朴槿恵氏やフィリピンのコラソン・アキノ氏など、多くは政治家一族の出身、いわゆる「2世政治家」でした。高市氏は松下政経塾出身で、1993年の衆院選で初当選してから10期目を迎える、自らの力で政治家としてのキャリアを築いてきた人物です。

この点で、日本は「女性が自分自身の力でトップに立てる国」であることを示したと言えます。

なぜフェミニストは高市首相を歓迎しないのか

上野千鶴子氏の反応

社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子氏は、フェミニズム運動のリーダー格の一人として知られています。上野氏は高市氏の自民党総裁就任に対し、X(旧Twitter)で「うれしくない」と表明しました。

上野氏は「ジェンダーギャップ指数は上がるだろうか?」と問いかけた上で、「(それは)女性に優しい政治を意味しないだろう」と述べています。さらに、2019年の東京大学入学式での祝辞で語った「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想」という言葉を引用し、高市氏の政治姿勢がこの理念と異なることを示唆しました。

政策面での相違

上野氏をはじめとするリベラル派フェミニストが高市首相を歓迎しない理由は、政策面での相違にあります。

第一に、選択的夫婦別姓制度への慎重姿勢です。高市氏は選択的夫婦別姓に反対する立場を取っており、上野氏は「誰に配慮しているのか」と疑問を呈しています。

第二に、保守的な安全保障政策です。高市氏は防衛費の対GDP比2%への増額、敵基地攻撃能力の保有を明言し、中国の人権問題や海洋進出に厳しく対処すべきとの立場を取っています。

第三に、靖国神社参拝などの歴史認識問題です。2006年8月15日の終戦記念日に、高市氏は第1次安倍内閣の閣僚の中で唯一靖国神社に参拝しました。

「女性は女性問題をやるべき」なのか

福島みずほ氏(社民党)も上野氏と同様に、高市首相誕生を「うれしくない」と表明しました。しかし、この反応は新たな問いを提起します。「女性政治家は女性問題に取り組むべき」という前提は妥当なのでしょうか。

この考え方は、逆説的に「女性は女性の領域に閉じ込められるべき」というステレオタイプを強化する危険性を含んでいます。高市氏が安全保障や経済政策を重視することは、女性政治家の役割を広げる可能性もあるのです。

保守派女性とリベラル派女性の断層

フェミニズムの多様性と分断

今回の高市首相誕生を巡る反応は、フェミニズム内部の多様性と分断を浮き彫りにしました。フェミニズムは一枚岩ではなく、リベラル派、保守派、ラディカル派など多様な立場が存在します。

リベラル派フェミニストは、構造的な性差別の解消、選択的夫婦別姓、LGBT権利の拡大などを重視します。一方、保守派女性は、伝統的な家族観を維持しつつも、女性の能力発揮と社会進出を支持する立場です。

高市氏は後者のカテゴリーに属し、「サッチャー元英首相を偶像とする」と公言しています。サッチャー氏も保守派の女性リーダーとして、リベラル派からの批判を受けながらも、強力なリーダーシップを発揮しました。

「多様性」の逆説

一部の批判者は、「高市総裁誕生にリベラルもフェミニストも激昂。自陣営の主義とは異なる女性の活躍を認めぬ『多様性』に逆行する噴飯モノの理念」と指摘しています。

多様性を重視するリベラル派が、自らの思想と異なる保守派女性の活躍を認めないという矛盾は、運動の理念と実践のギャップを示しています。

日本のジェンダー平等の現状

政治分野での女性参画の遅れ

高市首相誕生という歴史的出来事にもかかわらず、日本の政治分野における女性参画は依然として遅れています。

2024年2月時点で、日本の女性国会議員の割合はわずか16.0%で、世界191カ国中148位です。世界平均の26.5%を大きく下回っています。

グローバル・ジェンダーギャップ指数では、日本の政治分野のジェンダーギャップは146カ国中113位と、G7諸国の中で最低水準です。

有権者のジェンダーステレオタイプ

日本の有権者は、男性政治家に対して「合意形成能力」「決断力」「リーダーシップ」が優れていると認識し、女性政治家に対しては「思いやり」「誠実さ」「知性」があると認識する傾向があります。

このようなステレオタイプは、女性政治家が安全保障や経済政策といった「ハード政策」よりも、福祉や教育といった「ソフト政策」を担当すべきという固定観念を強化します。

女性の政治参加を阻む障壁

女性の政治参加を阻む主要な障壁には、以下のようなものがあります。

第一に、「政治は男性の領域」という根強い観念です。第二に、議員や有権者からのハラスメントです。第三に、女性候補者育成システムの欠如です。第四に、男性中心で女性に不利な選挙制度です。

これらの構造的問題を解消しない限り、一人の女性首相誕生だけでは、真のジェンダー平等は実現しません。

注意点と今後の展望

「象徴」と「実質」の乖離

高市首相誕生は「象徴的な前進」ではありますが、「実質的なジェンダー平等」とは別物です。むしろ、一人の女性リーダーが誕生したことで、「もう問題は解決した」という誤った認識が広がるリスクがあります。

国際社会は、女性の政治参画率でその国の国際的な強さを評価する時代になっています。日本が真の意味でジェンダー平等を実現するには、女性国会議員の割合を少なくとも30%以上に引き上げる必要があります。

「ガラスの崖」現象

「ガラスの天井」を破った女性リーダーが直面する新たな課題として、「ガラスの崖」という概念があります。これは、女性が危機的状況下で初めてリーダーに選ばれるが、失敗のリスクが高く、責任を負わされやすいという現象です。

高市首相は、自民党と日本維新の会による連立政権で、衆参両院とも会派別の合計議席が過半数に満たない少数与党という困難な状況でスタートしました。この状況で成果を上げられなければ、「女性リーダーは使えない」という偏見を強化するリスクがあります。

フェミニズムの再定義が必要

今回の論争は、フェミニズムが「リベラル派の専有物」ではなく、多様な政治的立場の女性を包摂する運動であるべきことを示しています。

保守派の女性リーダーであっても、その活躍を認め、建設的な対話を行うことが、運動の健全性を保つために重要です。批判すべきは個々の政策であり、女性であることそのものではありません。

まとめ

高市早苗氏の首相就任は、日本が「女性が自分自身の力でトップに立てる国」であることを示した歴史的出来事です。しかし、一人の女性リーダーが誕生したことと、社会全体のジェンダー平等が実現することは別問題です。

リベラル派フェミニストと保守派女性リーダーの対立は、フェミニズム内部の多様性と分断を浮き彫りにしました。「多様性を認める」という理念と、「自らの思想と異なる女性の活躍を認めない」という実践の矛盾は、運動の課題を示しています。

日本が真のジェンダー平等を実現するには、女性国会議員の割合を大幅に引き上げ、構造的な障壁を取り除く必要があります。高市首相がどのような成果を上げるのか、そしてその評価が今後の女性政治家にどう影響するのか、注視していく必要があります。

参考資料:

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