高市首相が通常国会冒頭解散を検討、その狙いと課題
はじめに
高市早苗首相が、2026年1月23日に召集される通常国会の冒頭で衆議院を解散する案を検討していることが明らかになりました。首相は自民党幹部に対し「選択肢のひとつ」と伝えており、政界に緊張が走っています。
高市内閣は2025年10月に発足し、日本初の女性首相として高い支持率を維持しています。一方で、衆参両院において少数与党という不安定な議会構成を抱えており、この状況を打開するための早期解散という見方が強まっています。本記事では、冒頭解散の狙いと、それに伴う政治的・政策的な課題を解説します。
高市政権の現状と解散検討の背景
自民・維新連立政権の発足経緯
高市早苗氏は2025年10月4日の自民党総裁選決選投票で小泉進次郎氏を破り、女性初の自民党総裁に就任しました。同月21日には衆参両院の本会議で第104代内閣総理大臣に指名され、日本史上初の女性首相が誕生しました。
高市政権の大きな特徴は、約25年続いた自公連立が解消され、日本維新の会との新たな連立政権が発足したことです。公明党との連立解消は、企業・団体献金の規制強化や裏金問題をめぐる意見の相違が原因とされています。維新は「閣外協力」という形で与党に加わり、閣僚ポストは全て自民党議員で占められる異例の布陣となりました。
高支持率と少数与党のジレンマ
日本経済新聞の世論調査によると、発足時の高市内閣支持率は74%を記録し、その後も70%台を維持しています。前任の石破内閣発足時の51%を大きく上回り、国民からの期待の高さがうかがえます。
しかし、議席数では厳しい状況が続いています。与党である自民党と維新は、衆院で定数465議席のうち過半数をわずかに上回る233議席を確保しているに過ぎません。参院ではさらに少数であり、いわゆる「ねじれ国会」の状態にあります。この不安定な議会構成が、早期解散を検討する最大の動機とみられています。
野党の準備不足を突く狙い
早期解散のもう一つの狙いは、野党の選挙準備が整わないうちに選挙戦に持ち込むことです。通常国会冒頭での解散は「奇襲」的な性格を持ち、野党は候補者調整や政策立案の時間を十分に確保できないまま選挙戦に突入することになります。
特に2月投開票となれば「真冬の決戦」となり、投票率の低下も予想されます。一般的に、投票率が低い選挙では組織票を持つ与党に有利に働くとされています。
冒頭解散の歴史と今回の位置づけ
過去の冒頭解散事例
国会召集日に論戦を経ずに衆院を解散する「冒頭解散」は、現行憲法下で4例あります。1966年の「黒い霧解散」、1986年の「寝たふり解散」などが知られており、いずれも自民党が善戦もしくは勝利という結果に終わっています。
衆議院解散は憲法第7条に基づく天皇の国事行為ですが、実質的には内閣総理大臣の専権事項とされ、「首相の大権」「伝家の宝刀」と呼ばれています。解散のタイミングは首相の政治判断に委ねられており、今回のような早期解散も法的には可能です。
今回の解散が持つ意味
高市首相が冒頭解散に踏み切れば、政権発足から約3カ月での解散総選挙となります。これは戦後の解散の中でも極めて短い期間であり、1954年の「天の声解散」(組閣から45日)に次ぐ記録的な早さとなる可能性があります。
少数与党からの脱却という明確な目的がある点では、過去の冒頭解散とは異なる性格を持っています。高市首相としては、高支持率を議席に転換し、安定した政権基盤を築くことが最優先課題といえます。
冒頭解散がもたらす影響と課題
2026年度予算審議への影響
冒頭解散の最大の問題は、2026年度予算案の審議が大幅に遅れることです。通常、政府予算案は3月末までに成立しますが、解散により審議は完全に中断され、成立は4月以降にずれ込むことが確実視されています。
政府関係者によると、予算不成立による行政機能の停滞を防ぐため、数カ月分の必要経費のみを盛り込んだ「暫定予算」の編成検討がすでに始まっています。暫定予算は新規事業の着手を困難にし、国民生活や経済活動に影響を及ぼす可能性があります。
「解散の大義」への疑問
与野党からは「解散の大義がない」との批判も出ています。通常、衆院解散は重要な政策転換や国民の信を問うべき重大事項がある場合に行われるものとされています。しかし今回は、高支持率を背景に議席増を狙うという「党利党略」的な側面が強いとの指摘があります。
高市首相が冒頭解散に踏み切る場合、何を争点として国民に信を問うのか、明確な説明が求められます。対中政策、経済安全保障、少子化対策など、国民に選択肢を示す重要なテーマは数多く存在します。
総務省の準備態勢
早期解散論の浮上を受け、総務省は1月10日、各都道府県の選挙管理委員会事務局に対し事務連絡を発出しました。最速で「1月27日公示、2月8日投開票」という日程を念頭に、準備を進めるよう呼びかけています。
選挙日程の候補としては、「1月27日公示―2月8日投開票」や「2月3日公示―15日投開票」などが挙げられています。いずれにしても、有権者にとっては寒さの厳しい時期の選挙となります。
今後の展望と注目点
首相の最終判断
高市首相は現時点で冒頭解散を「選択肢のひとつ」と位置づけており、最終判断には至っていません。予算審議への影響や国民の反応、連立パートナーである維新との調整など、考慮すべき要素は多岐にわたります。
また、国際情勢も判断材料となります。中国との関係が緊張する中での選挙戦は、外交・安全保障政策が争点として浮上する可能性があり、高市首相の持論である対中強硬路線が国民にどう受け止められるかも注目されます。
野党の対応
立憲民主党をはじめとする野党各党は、冒頭解散への批判を強めつつも、選挙準備を急いでいます。野党共闘の枠組みや統一候補の擁立など、短期間での調整が求められる状況です。
解散総選挙となれば、有権者は高市政権の継続か、政権交代かという選択を迫られることになります。わずか3カ月の実績で国民の審判を仰ぐことの是非も、論点のひとつとなりそうです。
まとめ
高市早苗首相による通常国会冒頭解散の検討は、高支持率と少数与党という政権の現状を反映したものです。解散に踏み切れば、日本政治は「真冬の決戦」に突入し、2026年度予算の成立遅延という代償を払うことになります。
冒頭解散の歴史を振り返れば、与党に有利な結果をもたらしてきた傾向がありますが、今回は解散の大義が問われる異例の状況です。高市首相が何を争点に国民の信を問うのか、その説明と判断に日本中の注目が集まっています。
参考資料:
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