高市首相が施政方針で打ち出す複数年度予算の狙いと課題
はじめに
高市早苗首相が2026年2月20日にも国会で行う施政方針演説の原案が明らかになりました。最大の注目点は、成長・危機管理投資の予算を「多年度で別枠管理する仕組み」の導入を表明する点です。
日本の予算制度は憲法第86条に基づく「単年度主義」が原則です。毎年度ごとに予算を編成・議決する仕組みは財政の民主的コントロールを確保する一方、中長期的な投資には不向きという指摘がありました。高市首相は「責任ある積極財政」を掲げ、研究開発や設備投資を促進するための予算制度改革に踏み込む構えです。本記事では、施政方針演説の主要ポイントと、その政策的な意義を解説します。
複数年度予算の導入——単年度主義からの転換
なぜ複数年度予算が必要なのか
高市首相は施政方針演説で、事業者が研究開発や設備投資に取り組みやすくするため「複数年度予算や長期的な基金による投資促進策を大胆に進める」と訴える方針です。
現行の単年度主義のもとでは、予算は原則として当該年度内に使い切る必要があります。しかし、半導体の研究開発やAI関連の設備投資など、成果が出るまでに数年を要するプロジェクトでは、年度ごとに予算の確保が不透明になることが事業者にとって大きなリスクとなります。
実際、財政法には単年度主義の例外として「継続費」(第14条の2)や「国庫債務負担行為」(第15条)といった仕組みが存在します。しかし、これらの活用は限定的で、成長分野への戦略的投資を後押しするには不十分との声がありました。
「成長投資」と「危機管理投資」の別枠管理
施政方針演説の原案では、予算を「成長投資」と「危機管理投資」の2軸で整理し、通常の予算とは別枠で管理する仕組みを導入するとしています。
成長投資には、AI・半導体などの先端技術分野が含まれます。2025年11月に始動した「日本成長戦略本部」では、AI・半導体など17項目が戦略分野に設定されており、これらの分野への重点配分が想定されます。
危機管理投資には、経済安全保障、食料安全保障、エネルギー安全保障、健康医療安全保障、国土強靱化などが含まれます。いずれも短期では成果が見えにくいものの、中長期的に国の基盤を支える投資です。
給付付き税額控除と社会保障改革
「国民会議」で年内に結論
施政方針演説のもう一つの柱が、社会保障と税の一体改革です。高市首相は、給付付き税額控除の制度設計を含む改革について「国民会議」で結論を出すと強調する方針です。
給付付き税額控除とは、税負担が少ない低所得者に対して、減税しきれない分を現金給付として支給する仕組みです。所得税の課税最低限以下の人にも恩恵が届くため、従来の減税よりも幅広い層をカバーできます。
国民会議には自民党、日本維新の会、公明党、立憲民主党、国民民主党の5党が参加する見通しで、超党派の枠組みで制度設計を進めます。2026年中に具体案をまとめる方針が示されています。
「責任ある積極財政」の全体像
高市首相が掲げる「責任ある積極財政」とは、戦略的な財政出動によって経済成長を促し、その成長によって政府債務残高のGDP比を引き下げるという考え方です。
2025年度の補正予算案は17.7兆円に達し、減税分を含めた経済対策の規模は総額21.3兆円となりました。積極的な財政出動を行いながらも、成長を通じて財政の持続可能性を確保するという二兎を追う政策です。
注意点・展望
複数年度予算の導入にはいくつかの課題があります。まず、財政規律の維持が挙げられます。予算の単年度主義は「毎年国会の審議を受ける」という民主的コントロールの仕組みでもあります。複数年度にわたる予算を別枠管理することで、国会によるチェック機能が弱まる可能性を指摘する声があります。
また、基金の運用に関する透明性の確保も課題です。過去にはコロナ禍で設立された基金の使途が不透明であるとの批判がありました。「別枠」の予算が適切に使われているかを検証する仕組みの整備が求められます。
給付付き税額控除についても、制度設計の詳細が今後の議論に委ねられています。所得把握の精度やマイナンバーとの連携など、実務面でのハードルは少なくありません。国民会議での議論の行方が注目されます。
今後は2月20日の施政方針演説の全文公表を経て、具体的な制度設計の議論が本格化する見通しです。「責任ある積極財政」が日本経済にどのような成果をもたらすか、その真価が問われる局面に入ります。
まとめ
高市首相の施政方針演説原案は、成長・危機管理投資への複数年度別枠予算の導入と、給付付き税額控除を含む社会保障と税の一体改革を2本柱としています。単年度主義の制約を超えた戦略的投資と、超党派での社会保障改革という野心的な政策です。
AI・半導体をはじめとする17の戦略分野への重点投資は、日本の産業競争力の強化に向けた重要な一手です。一方で、財政規律の維持や制度の透明性確保といった課題にどう向き合うかが、政策の成否を左右するでしょう。
参考資料:
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