竹中工務店が描くDX戦略:図面内製化と業務自動化
はじめに
建設業界は国土強靱化や大型再開発などで旺盛な需要が続く一方、深刻な人手不足に直面しています。この課題に対応するため、竹中工務店の佐々木正人社長は、図面の内製化や人事・財務業務の自動化を進める方針を明らかにしました。
本記事では、竹中工務店のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略と、建設業界全体が取り組むデジタル変革の動向について解説します。
建設業界が直面する人手不足
100万人規模の離職が予想される
建設業界の人手不足は年々深刻化しています。日本建設業連合会(日建連)は、2025年度までの10年程度で技能労働者が100万人規模で離職すると試算しています。就業者数の30%減少と高齢化が急速に進み、人手に頼った従来の施工方法では限界が見えてきました。
国土交通省の試算では、2025年には約128万人の労働者が不足すると予想されています。若年層の入職が減少する一方、熟練技術者の退職が続いており、技術やノウハウの継承も大きな課題となっています。
働き方改革による制約
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、限られた労働時間内で同等の成果を出すことが求められ、生産性向上は待ったなしの状況です。デジタル技術を活用した業務効率化が、企業の競争力を左右する時代になっています。
竹中工務店のDX戦略
図面の内製化で効率向上
佐々木社長が掲げる「図面内製化」は、従来外部に委託していた図面作成業務を、デジタル技術を活用して社内で効率的に行う取り組みです。BIM(Building Information Modeling)を活用することで、設計から施工までの情報を一元管理し、手戻りや修正作業を大幅に削減できます。
竹中工務店は2022年までに全業務をデジタル化し、2025年までにデータ活用の仕組みやデジタル機能の整備を目指してきました。その後はデータ蓄積とAIモデルの高度化により、業務レベルの成熟度を上げていく方針です。
人事・財務の自動化
人事や財務といった間接部門の業務自動化も重要な柱です。営業、設計、見積もり、工務、施工管理、ファシリティマネジメント支援、人事、経理といった事業に関するあらゆるデータを統合管理し、BIで可視化したり、AIで予測したりする仕組みを構築しています。
同社は200以上の既存業務アプリケーションをオンプレミスからAWSに移行させる計画を進めており、ITインフラにかかるコストを25%以上削減できると試算しています。
デジタルツインの活用
竹中工務店は施工管理にデジタルツイン技術を活用する試行を進めています。IoTやAIとの連携により、施工管理の効率化や安全性向上、生産性向上を同時に実現できることを実証しました。今後は設計や運用フェーズにも適用範囲を拡大する予定です。
デジタルツインとは、現実の建物や施設をデジタル空間上に再現する技術です。リアルタイムでデータを収集・分析することで、問題の早期発見や効率的な維持管理が可能になります。
建設業界全体のDX動向
政府が推進するi-Construction
国土交通省は「i-Construction」を推進し、建設業界のデジタル化を後押ししています。BIM/CIMの活用やICT施工、ドローン・3Dスキャナなどの導入を通じて、調査・設計・施工・維持管理のすべての工程でデジタル連携による生産性向上を目指しています。
政府は「未来投資戦略2017」において、AIやロボットの活用によって建設現場の生産性を2025年までに2割向上させることを目標に掲げました。
大手ゼネコンの取り組み
竹中工務店以外の大手ゼネコンもDXを加速させています。鹿島建設はグループ従業員2万人を対象に専用対話型AI「Kajima ChatAI」の運用を開始。清水建設は建物状況に応じてロボットが自律的に作業を行う「SHIMZ Smart Site」を実用化しています。
大成建設は「AI設計部長」という設計ツールを開発し、顧客の希望条件をもとに最適な設計案を短時間で提供できる仕組みを構築しました。各社が競うようにAI活用を進めている状況です。
建設ロボットの共同開発
2024年から2025年にかけて、竹中工務店と鹿島建設、大林組、フジタの大手ゼネコン4社は、建設RXコンソーシアムの枠組みの中で、建設ロボットシステムの研究開発に共同で着手しました。ソフトウェア標準化技術を活用し、異なるメーカーのロボットでも連携できる仕組みづくりを目指しています。
課題と今後の展望
中小企業への普及が課題
大手ゼネコンやデベロッパーはBIMデータの統合管理やクラウド基盤の整備を進めていますが、中小建設業では「コスト・人材・ノウハウ」の不足により、導入が進みにくい現状があります。建設業界全体の生産性向上には、中小企業へのDX普及が不可欠です。
セキュリティ対策の重要性
建設現場特有の通信環境の制約とセキュリティ対策の不足が、DX推進の大きな障害となっています。2024年から2025年にかけて複数の建設企業がランサムウェア攻撃の被害を受けており、デジタル化と同時にセキュリティ強化が求められています。
人材育成の取り組み
竹中工務店は役員を含む全従業員のデジタルリテラシーやDXマインドの向上に取り組んでいます。デジタル人材評価・教育サービスを導入し、約8,000人の全従業員が活用しています。技術の導入だけでなく、それを使いこなす人材の育成が成功の鍵となります。
まとめ
竹中工務店の佐々木社長が示した「図面内製化」と「人事・財務の自動化」は、建設業界の人手不足に対応するDX戦略の具体例です。BIMやデジタルツイン、AIを活用した業務効率化は、業界全体で加速しています。
人手不足と働き方改革という二重の課題に直面する建設業界において、DXは生き残りをかけた必須の取り組みとなっています。大手ゼネコンの先進的な取り組みが、業界全体の生産性向上につながることが期待されます。
参考資料:
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