東京海上が「非保険」事業部を新設、4月に組織刷新
はじめに
東京海上ホールディングス(HD)は2026年4月、本社の組織体制を大幅に刷新します。防災や脱炭素、ヘルスケアなど保険にとどまらない事業を統合した「ソリューション事業部」を新設し、非保険分野の成長を加速させる方針です。
同社は中期経営計画(2024〜2026年度)で「保険+α」のリスクソリューション提供を掲げており、今回の組織再編はその具体化です。小宮暁社長が掲げる「保険の再定義」のもと、有事の保険金支払いだけでなく、平時から顧客の課題を解決するビジネスモデルへの転換が進んでいます。
この記事では、ソリューション事業部の構成と狙い、損保業界全体の非保険シフトの動向について解説します。
ソリューション事業部の概要
分散していた組織を統合
新設されるソリューション事業部は、これまで別々に運営されていた脱炭素事業開発部やヘルスケア事業開発部などの組織を一つに統合するものです。従来は担当役員や販売戦略がそれぞれ異なり、部署間の連携が取りにくい構造でした。
統合により、防災、脱炭素、ヘルスケア、サイバーセキュリティ、中小企業向けソリューションなど、多岐にわたる非保険事業を一元的に管理・推進できるようになります。リソースの重複を排除し、クロスセル(複数サービスの組み合わせ販売)の機会も拡大する狙いがあります。
M&A権限の拡大
組織再編に合わせて、ソリューション事業部にはM&A(合併・買収)に関する権限が拡大されます。非保険分野での成長を加速するためには、既存事業の有機的な成長だけでなく、技術やノウハウを持つ企業の買収が不可欠です。意思決定のスピードを上げることで、競合に先んじた投資判断が可能になります。
東京海上グループはこれまでもM&Aを積極的に活用し、特に海外保険事業で規模を拡大してきた実績があります。この手法を非保険分野にも本格的に適用するための体制整備です。
国内事業の連携強化
ソリューション事業部の新設と同時に、国内事業の企画を担うチームも「部」に格上げされます。損害保険と生命保険など、グループ内の事業間連携を深めることが目的です。
保険契約者に対して、保険商品だけでなく防災コンサルティングや脱炭素支援、健康経営のアドバイスなどを包括的に提供することで、顧客との接点を広げ、収益基盤を多角化する戦略です。
重点分野の詳細
脱炭素(GX)
東京海上は脱炭素経営支援や太陽光発電導入支援などのサービスを展開しています。企業が脱炭素に取り組む際には、再生可能エネルギーの導入リスクや排出量の算定、サプライチェーン全体のCO2削減計画の策定など、保険に隣接した領域で多くのニーズが存在します。
保険会社はリスク評価のプロフェッショナルであり、その知見を脱炭素プロジェクトのリスクマネジメントに活用することは自然な事業拡張です。再生可能エネルギー施設への保険提供と、導入支援コンサルティングを組み合わせることで、顧客にとってワンストップのサービスが実現します。
ヘルスケア
健康経営や従業員のウェルビーイング向上への関心が高まる中、ヘルスケア領域は保険会社にとって大きな成長機会です。東京海上は、企業向けの健康経営支援サービスや、データを活用した健康リスクの可視化などに取り組んでいます。
生命保険事業との連携により、医療保険の引き受けだけでなく、疾病予防や健康増進のプログラム提供まで事業領域を拡大できるポテンシャルがあります。
防災・レジリエンス
自然災害の激甚化が進む日本において、防災・減災は社会的に重要なテーマです。損害保険会社は災害データの蓄積という独自の強みを持っており、このデータを活用した防災コンサルティングや、企業のBCP(事業継続計画)策定支援は高い付加価値を持ちます。
保険金支払いという「事後対応」から、災害リスクの軽減という「事前対応」へとビジネスの軸を移すことで、社会的な価値と経済的な収益の両立を目指しています。
損保業界全体の非保険シフト
SOMPOのヘルスケア戦略
東京海上だけでなく、損保大手3グループはそれぞれ独自の非保険戦略を展開しています。SOMPOホールディングスは介護・ヘルスケア事業に注力し、上場介護事業者の中で第2位の売上を誇ります。高齢化社会を見据えた先行投資として、グループの収益の柱の一つに成長させています。
MS&ADの環境対応
MS&ADインシュアランスグループは、保険やコンサルティングの提供を通じて脱炭素社会の実現を支援しています。環境負荷の低減につながる商品の開発・提供にも取り組み、気候変動リスクへの対応を事業機会として捉えています。
注意点・展望
非保険事業への参入には、いくつかのリスクと課題があります。まず、保険業界の組織文化と非保険ビジネスの運営に必要なスピード感やスキルセットは異なります。人材の確保・育成や、既存の保険営業網との効果的な連携が成功の鍵を握ります。
また、M&Aによる成長戦略は、買収先の選定や統合後のマネジメントに大きなリスクを伴います。特に新興分野では、事業の成熟度が低い企業も多く、投資リターンの見極めが重要です。
損保業界全体として、自然災害の増加やリスクの複雑化により保険料収入は拡大傾向にありますが、長期的な成長のためには保険の枠を超えた事業展開が不可欠とされています。東京海上の今回の組織再編は、業界全体の変革の方向性を示すものといえます。
まとめ
東京海上ホールディングスが2026年4月に新設するソリューション事業部は、脱炭素、ヘルスケア、防災などの非保険事業を統合的に推進するための組織です。M&A権限の拡大や国内事業間の連携強化と合わせ、「保険の再定義」を具体化する重要な一歩となります。
損保大手3グループがそれぞれ独自の非保険戦略を展開する中、東京海上の動きは業界のトレンドを代表するものです。保険会社がリスク評価の知見を生かして社会課題の解決に取り組む姿は、保険業界のビジネスモデルの進化を象徴しています。今後の事業成果に注目が集まります。
参考資料:
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