東京エレクトロンが一転最高益、AI装置復調と政策株売却
はじめに
半導体製造装置大手の東京エレクトロンが、2026年3月期の業績見通しを大幅に上方修正しました。連結純利益は前期比1%増の5500億円となり、従来の10%減益予想から一転して最高益を更新する見通しです。従来予想から620億円の上振れとなりました。
この上方修正の背景には、二つの要因があります。一つはAI需要の拡大による半導体製造装置の販売復調、もう一つは政策保有株の売却益760億円の計上です。本記事では、東京エレクトロンの業績改善の実態と、半導体製造装置市場の展望を解説します。
上方修正の内容
純利益5500億円で最高益更新
東京エレクトロンが2月6日に発表した修正後の通期連結業績予想は、売上高2兆4100億円、営業利益5930億円、経常利益6010億円、純利益5500億円です。当初は純利益4880億円(前期比10%減)を見込んでいたため、一転して増益に転じた形です。
修正後の純利益はQUICKコンセンサス(市場予想の平均)の4996億円を上回っており、ポジティブサプライズとなりました。年間配当予想も1株当たり533円から601円に引き上げられています。
営業利益も上方修正
本業の稼ぎを示す営業利益も上方修正されています。AI需要の拡大を背景に半導体製造装置の受注が回復しており、装置販売の復調が営業利益の改善に寄与しています。売上高についても見通しが引き上げられ、全社的な業績改善が進んでいます。
政策保有株の売却益760億円
純利益押し上げの最大要因
今回の上方修正で最も大きなインパクトを持つのが、政策保有株の売却益760億円です。これは営業外収益として計上されるもので、純利益を大きく押し上げる要因となりました。
政策保有株(持ち合い株)の売却は、近年のコーポレートガバナンス改革の流れの中で多くの日本企業が進めている取り組みです。東京証券取引所が上場企業に対して資本効率の改善を求める中、政策保有株の縮減は投資家からもポジティブに評価されます。
本業の実力をどう見るか
ただし、政策保有株の売却益は一時的な利益であり、来期以降の継続性はありません。本業の実力を測るには営業利益に注目する必要があります。営業利益も上方修正されている点は評価できますが、装置販売の回復がどの程度持続するかが中長期的な焦点です。
AI需要が半導体装置市場を押し上げる
WFE市場は過去最高を更新へ
半導体製造装置の前工程向け市場(WFE: Wafer Fab Equipment)は、2026年に過去最高を更新する見通しです。SEMIの予測によると、2026年のWFE市場は前年比約10%増の1350億ドル規模に達すると見込まれています。さらに2027年には1560億ドルまで拡大する予測です。
この成長を牽引しているのは、AIアクセラレーターやHBM(高帯域メモリー)の製造に必要な先端ロジック・メモリー向けの設備投資です。NVIDIAのAIチップ増産や、Samsung・SK Hynix・MicronによるHBM生産能力の拡大が、装置メーカーへの発注増加につながっています。
東京エレクトロンCEOの強気な見通し
東京エレクトロンの河合利樹CEOは「まさにAI時代の到来だ」と強調し、AIサーバー関連の需要について「かなり強い引き合いがある」と述べています。同社は中期経営計画で2027年3月期に総収入3兆円以上を目標に掲げており、AI需要がその達成を後押しする構図です。
先端パッケージングの追い風
AIチップは従来のチップよりも複雑なパッケージング技術を必要とします。先進パッケージング向けの装置需要が新たな成長領域として浮上しており、東京エレクトロンにとっても重要な事業機会です。半導体の微細化に加え、チップレット技術や3Dパッケージングへの投資が装置市場を多角的に支えています。
注意点・展望
中国市場の不確実性
東京エレクトロンにとって中国市場は重要な収益源であり、2025年3月期には総収入の約4割を占めていました。しかし、米国の対中輸出規制の影響で中国向けの伸び悩みが懸念されています。中国市場の動向は業績全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、東京エレクトロンの子会社が輸出管理に関連して起訴されるケースもあり、地政学リスクへの対応が経営上の重要課題となっています。
AI一本足のリスク
半導体装置業界全体がAI需要に依存する構造が強まっています。AI投資が一巡した場合や、AIバブルが弾けた場合には、装置市場が急激に縮小するリスクがあります。車載半導体向けなど非AI分野の需要が伸び悩んでいる点も「AI一本足」のリスクとして指摘されています。
来期以降の持続的成長に注目
政策保有株の売却益を除いた実質的な成長力が来期以降の焦点です。中期経営計画で掲げた2027年3月期の総収入3兆円達成には、AI需要の持続と中国市場の安定が不可欠です。装置メーカーとしての技術力と、変化する地政学環境への対応力が試される局面が続くでしょう。
まとめ
東京エレクトロンの一転最高益は、AI需要による装置販売の復調と政策保有株の売却益という二つの要因が重なった結果です。半導体製造装置市場は2026年に過去最高を更新する見通しで、AI関連投資が業界全体を押し上げています。
投資家にとっては、政策保有株売却による一時的な利益を差し引いた本業の成長力を見極めることが重要です。中国市場リスクやAI依存の構造にも注意しつつ、半導体産業のメガトレンドの恩恵を受ける装置メーカーとしての中長期的なポテンシャルに注目が集まります。
参考資料:
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