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by nicoxz

トランプ口座とは?400万人が開設した新制度の全貌

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はじめに

米国で2025年7月に成立した大型減税法「One Big Beautiful Bill Act」に盛り込まれた子ども向け投資口座「トランプ口座(Trump Accounts)」が、大きな注目を集めています。IRS(内国歳入庁)の発表によると、すでに400万人以上の子どもが口座に登録され、うち100万家庭以上が政府からの1,000ドルの拠出を受ける手続きを完了しました。2026年7月の運用開始を前に、企業による従業員向けマッチング拠出の動きも広がっています。

本記事では、トランプ口座の仕組みと将来の成長見通し、日本の「こどもNISA」との比較、そして新たに生まれる投資家層の潜在力について解説します。

トランプ口座の基本設計と仕組み

制度の概要

トランプ口座は、米国の子どもを対象とした税制優遇付きの投資口座です。正式名称は当初「Invest America Accounts」、その後「MAGA Accounts(Money Accounts for Growth and Advancement)」を経て、最終的に「Trump Accounts」に決定しました。

制度の骨格は以下の通りです。対象は0歳から18歳未満の米国市民で、2025年1月1日から2028年12月31日に生まれた子どもには、連邦政府から1回限り1,000ドルが拠出されます。年間の追加拠出上限は5,000ドルで、親族だけでなく雇用主も拠出が可能です。運用先はS&P 500などの米国株式指数に連動する低コストのインデックスファンドやETFに限定されており、年間手数料は残高の0.1%以下という条件が設けられています。

口座開設と運用の流れ

口座の開設は、確定申告時にIRSフォーム4547を提出することで手続きが完了します。当初は自動登録方式が検討されていましたが、最終的には保護者によるオプトイン(自主申請)方式が採用されました。

運用は2026年7月5日、米国建国250周年の翌日から開始される予定です。18歳になるまで原則として引き出しは不可で、18歳以降は通常のIRA(個人退職勘定)として扱われます。引き出し時には通常の所得税が課されるため、完全な非課税制度ではない点には注意が必要です。

400万口座の背景と企業の参入

急速な普及の実態

IRSの発表では、2026年の確定申告シーズン開始からわずか数日で約50万件の申請があり、その後も申請は加速しています。400万口座超という数字は、対象となる新生児の多くが登録されていることを示しています。

この普及を後押ししているのが、企業によるマッチング拠出の広がりです。雇用主は従業員1人あたり年間最大2,500ドルまで、従業員の子どものトランプ口座に非課税で拠出できます。CNBCの報道によれば、Fidelity、Charles Schwab、Uber、Mastercard、Visa、JPMorgan、Intel、IBMなど大手企業が続々とマッチング拠出プログラムを発表しています。

口座管理の受け皿

口座を管理する金融機関(受託者)としては、Fidelity、Vanguard、Charles Schwab、Bank of Americaなどが承認されています。なかでもFidelityはS&P 500連動ファンド(FXAIX)の経費率が0.015%と最も低く、多くの家庭に選ばれているとされています。

将来の成長見通しと専門家の評価

楽観的な試算

トランプ政権は、この制度の長期的な資産形成効果を強くアピールしています。Fortune誌の試算によると、1,000ドルの初期拠出のみで追加拠出がなくても、S&P 500の過去の年平均リターン(約10%)で運用した場合、18歳時点で約6,000ドルに成長します。

さらに毎年5,000ドルの上限まで拠出を続けた場合、年8%のリターンを前提とすると、18歳時点で19万ドル(約2,800万円)を超えるとの試算もあります。60歳まで運用を続ければ200万ドル(約3億円)に達する可能性も指摘されています。

慎重な見方

一方で、専門家からは慎重な意見も出ています。まず将来のリターンについて、主要投資会社6社の今後10年間の米国株式リターン予測は年3.1%から6.7%にとどまり、過去の年10%超のリターンが今後も続く保証はありません。

またインフレを考慮すると実質的な資産価値は大きく目減りします。年10%の名目リターンからインフレ率2%を差し引いた実質8%で計算した場合、55年後の実質価値は約8万1,000ドルにとどまるとの指摘もあります。加えて、引き出し時に通常の所得税が課される点も、手取り額を減少させる要因です。

日本の「こどもNISA」との比較と示唆

制度設計の違い

日本でも2027年1月から、0歳から17歳を対象とした「こどもNISA」がスタートします。年間投資枠60万円、生涯非課税保有限度額600万円という設計で、18歳到達時には自動的に成人のNISA口座に移行します。

両制度を比較すると、いくつかの違いが浮かび上がります。トランプ口座には政府からの1,000ドル拠出がありますが、こどもNISAにはありません。一方、こどもNISAは売却益・分配金が完全非課税であるのに対し、トランプ口座は引き出し時に課税されます。また、トランプ口座は米国株インデックスに限定されますが、こどもNISAは幅広い投資信託が対象です。

「投資家の卵」を育てる競争

両国に共通しているのは、子ども時代からの資産形成を国策として推進する姿勢です。日本では新NISA制度の導入以降、口座数が2025年6月末時点で約2,696万口座に達していますが、政府目標の3,400万口座(2027年末まで)にはまだ700万口座以上の開きがあります。

トランプ口座が短期間で400万口座を集めた背景には、政府拠出という強いインセンティブに加え、企業の福利厚生としてのマッチング拠出が普及したことがあります。日本のこどもNISAが同様の推進力を得られるかどうかは、制度の周知と利便性の向上にかかっています。

注意点と今後の展望

制度をめぐるリスク

トランプ口座にはいくつかの懸念も指摘されています。第一に、政治的なブランディングが制度の持続性に影響する可能性です。大統領の名前を冠した口座が、政権交代後にどう扱われるかは不透明です。

第二に、米国議会合同租税委員会の試算によると、トランプ口座は2034年までに約150億ドルの財政コストが見込まれています。財政負担をめぐる議論が今後激しくなる可能性があります。

第三に、運用先がS&P 500などの米国株インデックスに限定されている点です。分散投資の観点からは、国際分散が図れないリスクを認識しておく必要があります。

新たな投資家層の意味

それでもトランプ口座が持つ最大の意義は、生まれながらにして投資家となる世代を制度的に創出する点にあります。子どもが成長する過程でアプリを通じて自分の資産残高や株価推移をリアルタイムで確認できる仕組みが設けられており、金融リテラシーの向上にも寄与すると期待されています。

まとめ

トランプ口座は、政府拠出・企業マッチング・税制優遇を組み合わせた子ども向け投資制度として、すでに400万口座を超える登録を集めています。2026年7月の運用開始を控え、米国では「生まれた瞬間から投資家」という新しい時代が始まろうとしています。

一方、日本でも2027年のこどもNISA開始に向けた準備が進んでおり、子ども世代の資産形成は世界的な潮流になりつつあります。長期投資のリターンには不確実性がつきものですが、早期からの資産形成の習慣づけと金融教育という観点では、両制度とも大きな可能性を秘めています。投資家としての第一歩を踏み出す400万人の子どもたちが、将来の市場をどう変えていくのか、注目が集まります。

参考資料:

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