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by nicoxz

金融大手7社が相続手続き共通化へ 新会社設立の全容

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はじめに

銀行や証券会社など大手金融機関7社が、相続手続きを一括で対応できる新会社を2026年秋に設立する方針を固めました。これまで遺族が金融機関ごとに行っていた煩雑な書類提出が1回で完了するほか、故人が保有していた「隠れ口座」の照会も可能になります。

日本では年間の死亡者数が160万人を超え、相続に伴う金融資産の移転額は年間約46兆円規模にのぼるとされています。高齢化が加速するなかで、相続手続きの効率化は社会全体の課題です。本記事では、この新たな取り組みの詳細と、その背景にある制度改革の流れを解説します。

新会社設立の概要と参加企業

SMBC日興証券が主導する7社体制

今回の構想はSMBC日興証券が主導し、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が参加します。さらに銀行を含む計7社が共同で新会社を設立する計画です。三井住友フィナンシャルグループも関与するとみられています。

証券大手4社に銀行グループも加わることで、株式・投資信託だけでなく預金口座も含めた横断的な相続手続きが実現します。これは個別の金融機関単位では実現できなかった画期的な仕組みといえます。

ワンストップで完結する相続手続き

新会社が提供するサービスの最大の特徴は、書類提出の一元化です。従来、相続人は故人が口座を持つ金融機関ごとに、戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類を個別に提出する必要がありました。金融機関での処理だけで2〜3週間、書類収集を含めると1〜2か月を要するケースも珍しくありません。

新たな仕組みでは、新会社を窓口として1回の書類提出で複数の金融機関の手続きが完了します。相続人が複数の銀行や証券会社を回る負担が大幅に軽減されることになります。

「隠れ口座」問題の解消に期待

毎年700億円超の休眠預金

新会社のもう一つの重要な機能が、金融機関をまたいだ口座の横断照会です。故人がどの金融機関に口座を保有していたか、遺族がすべてを把握できているとは限りません。政府広報によると、10年以上取引のない「休眠預金」は毎年700億円以上にのぼります。

相続の場面では、遺族が知らなかった口座が後から発見されるケースが少なくありません。口座の存在に気づかないまま放置されると、いずれ休眠預金として扱われ、預金保険機構に移管される可能性もあります。新会社の照会機能により、こうした「隠れ口座」を効率的に発見できるようになります。

マイナンバーとの連携が進む口座照会

口座の把握については、制度面でも整備が進んでいます。2025年4月からは、マイナンバーと預貯金口座を紐づけることで、相続発生時に故人の口座所在を迅速に確認できる「相続時口座照会」制度が始まりました。相続人がどこか一つの銀行で照会を申請すれば、マイナンバーに紐づけられた故人のすべての口座を確認できます。

ただし、マイナンバーの登録は任意であるため、紐づけされていない口座は照会の対象外です。今回の金融大手7社による新会社は、マイナンバーの有無にかかわらず参加金融機関の口座を横断的に照会できる点で、制度を補完する役割が期待されます。

政府主導の相続DXと民間の動き

デジタル庁の「死亡・相続ワンストップサービス」

相続手続きの簡素化は、政府レベルでも長年の課題です。2018年から内閣府が中心となって「死亡・相続ワンストップサービス」の推進が行われてきました。現在はデジタル庁が主体となり、行政手続きの見直しや「おくやみコーナー」の設置を進めています。

一方で、戸籍情報のデータ化など技術的課題も残っており、民間サービスの活用を含めた改善検討はまだ途上です。こうした状況のなかで、金融機関が民間主導でワンストップサービスを実現する今回の構想は、政府の取り組みを補完する重要な動きといえます。

相続登記義務化と制度改革の波

2024年4月からは不動産の相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しなければ10万円以下の過料が科されるようになりました。金融資産の相続手続き共通化と合わせて、相続にまつわる制度改革が加速しています。

シンプレクス株式会社は2021年にSMBC日興証券向けに相続手続き業務システムを構築しており、被相続人の死亡連絡から資産の振替までをオンラインで完結できる仕組みを稼働させています。今回の新会社設立は、こうした技術基盤の上に複数金融機関を横断するサービスを構築する発展形と位置づけられます。

注意点・展望

対象範囲の限界

新会社に参加するのは現時点で7社であり、日本全体の金融機関のごく一部にすぎません。地方銀行やネット証券、保険会社など、参加しない金融機関については従来どおり個別に手続きが必要です。今後、参加金融機関がどこまで拡大するかが普及の鍵を握ります。

また、金融資産以外の相続手続き(不動産登記、自動車の名義変更、各種保険の請求など)は引き続き別途対応が必要です。あくまで銀行・証券口座に特化したサービスである点には注意が必要です。

多死社会への対応が急務

第一生命経済研究所の推計によると、相続に伴う資産移転額は2030年には約48.8兆円、2040年には約51兆円に拡大する見通しです。死亡者数も2040年頃まで増加が続くとされており、相続手続きの効率化は待ったなしの状況です。

金融機関にとっても、相続手続きの負担は経営課題です。手続きの遅延は顧客満足度の低下に直結し、隠れ口座の放置は資産の流出リスクにもなります。業界横断的な仕組みの構築は、金融機関自身にとっても合理的な判断といえます。

まとめ

銀行・証券大手7社による相続手続き共通化は、高齢社会が進む日本において金融インフラの大きな転換点となる可能性があります。書類提出の一元化と隠れ口座の照会機能により、遺族の負担は大幅に軽減されるでしょう。

2026年秋の新会社設立に向けて、対象金融機関の範囲やサービスの具体的な内容が今後明らかになっていく見込みです。相続に備えて、故人が利用していた金融機関の整理や、マイナンバーと口座の紐づけを進めておくことも有効な準備となります。

参考資料:

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