トランプ政権下で停滞する円相場の真相と今後の展望
はじめに
2026年1月、円相場が狭いレンジでの停滞を続けています。1ドル=155〜158円台を中心に上下を繰り返す展開は、市場参加者に第1次トランプ政権時代(2017〜2020年)の長期停滞相場を思い起こさせています。トランプ政権の「ドル高是正」の掛け声とは裏腹に、円相場は明確な方向性を失い、投資家は次の一手を見極めようと様子見姿勢を強めています。本記事では、現在の円相場が停滞している構造的要因と、今後の見通しについて詳しく解説します。
155〜158円レンジに閉じ込められた円相場
レンジ相場の実態
2026年1月上旬、円相場は1ドル=155円台から158円台の狭いレンジで推移しています。1月6日には156円台前半まで円高が進む場面もありましたが、その後は再び157円台に戻すなど、はっきりとした方向感が見られません。この動きは、米国景気の底堅さを背景にした円売り圧力と、日本政府の為替介入警戒による円買い圧力が拮抗している状況を反映しています。
為替介入の警戒ライン
市場関係者の間では、1ドル=158〜160円が日本政府による為替介入の警戒ラインと認識されています。2025年12月、日本の財務大臣は2日連続で円安牽制発言を行い、ドル円が158円に近づくと一時156円を下回る場面がありました。三村財務官も「為替の実際の動きと日米の国債の金利差の推移を見ると、最近はやや乖離が見られる」と述べ、介入の用意があることを示唆しています。
過去の経験則からも、日本政府は158円を超える円安に対して強い警戒感を示す傾向があり、このラインが実質的な上限として機能しています。
下値を支える円売り圧力
一方で、円相場の下値が堅いのも事実です。米国経済は2026年も底堅い成長を維持すると予想されており、連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の予想中央値によると、実質GDP成長率は2025年10-12月期の前年比1.7%から2026年10-12月期には同2.3%へ加速する見込みです。
パウエルFRB議長は、2026年の経済加速の要因として、財政政策による景気下支え効果に加え、人工知能(AI)関連の設備投資や底堅い個人消費の継続を挙げています。こうした米国経済の強さが、ドルの下値を支える要因となっています。
トランプ政権の「ドル高是正」は空疎なのか
トランプ政権のドル安志向
トランプ大統領は、米国の輸出競争力を高めるために弱いドルを望んでいると繰り返し表明してきました。トランプ氏は、次期FRB議長候補の「リトマス試験紙」として金利引き下げ意欲を挙げるなど、ドル安誘導の姿勢を鮮明にしています。
実現しないドル安
しかし、こうした政権の意向とは裏腹に、ドル高・円安圧力は根強く残っています。その最大の要因は、トランプ政権の経済政策そのものにあります。2026年に実施が予想される大型減税は、減税総額が2026〜35年度の10年間で10.4兆ドルに達するとされ、この財政拡大が米国経済を下支えし、結果的にドル高要因となります。
矛盾する政策
トランプ政権の経済政策には、ドル安を望みながらドル高を招くという矛盾が内在しています。減税や規制緩和は米国経済を刺激し、相対的に米国の魅力を高めることで資本流入を促し、ドルを押し上げます。さらに、トランプ政権が推進する関税政策は、貿易摩擦への懸念からリスク回避の動きを引き起こす可能性があり、安全資産としてのドルの需要を高める可能性もあります。
過去の教訓
第1次トランプ政権時代(2017〜2020年)を振り返ると、「トランプ・ラリー」と呼ばれた選挙直後のドル高は長続きせず、その後ドル円は概ね100〜120円のレンジ内で推移しました。2016年11月の大統領選勝利直後、期待から120円近くまで急上昇したドル円は、実際の政策実行段階では米中貿易摩擦やFRBの利下げなどでドル安・円高が進み、2020年のコロナ禍では一時100円割れ寸前まで下落しました。
この歴史は、政権の掛け声と実際の相場の動きが必ずしも一致しないことを示しています。
日米金利差の行方と相場への影響
金利差縮小の可能性
2026年の為替相場を左右する最大の要因は、日米金利差の動向です。現在の市場予想では、FRBが追加利下げを実施する一方、日本銀行(日銀)は緩やかな利上げペースを維持するシナリオが想定されています。
具体的には、米国の10年国債利回りは4%台前半での推移が見込まれる一方、日本の10年国債利回りは2.2%まで上昇する可能性が指摘されています。金利差が縮小すれば、理論的には円高圧力が高まります。
実質金利差の重要性
ただし、名目金利差だけでなく、実質金利差(名目金利からインフレ率を引いた値)も重要です。日本の実質金利は依然としてマイナス圏にあり、米国の実質金利はプラス圏にあるため、この実質金利差が円安・ドル高圧力を生み出しています。
日銀が政策金利を段階的に引き上げても、インフレ率が2%程度で推移する限り、実質金利が大幅にプラスに転じる可能性は低く、構造的な円売り圧力は継続すると見られています。
金利差以外の要因
さらに、為替相場は金利差だけで決まるわけではありません。2025年入り後の円安は日米金利差に逆行して進んでおり、これは「ファンダメンタルズで説明できない投機的な動き」と分析されています。高市政権の拡張的な財政政策と日銀の緩やかな利上げペースを材料とする投機的な円売りが、金利差縮小という基本的な要因を上回っている可能性があります。
2026年後半に向けた展望
段階的な円高シナリオ
多くのアナリストは、2026年の円相場について、目先はドル高・円安方向に振れやすいものの、時間の経過とともにドル安・円高の方向へ緩やかに転じていくと予想しています。三井住友DSアセットマネジメントは、年末着地水準を150円に設定しており、現在の水準から5〜7円程度の円高を見込んでいます。
円高を阻む要因
ただし、円高への転換ペースは極めて緩やかになる可能性が高いと指摘されています。日本の構造的な問題として、財政拡大期待や積極的な対外投資が円安圧力を生み出し続けるためです。
さらに、米国経済の底堅さが続く限り、ドルの魅力は維持され、急激な円高は考えにくい状況です。減税法案やこれまでの利下げによる景気刺激効果を背景に、米国の失業率上昇は抑制され、消費は富裕層を中心に堅調さを保つと予想されています。
レンジの拡大可能性
一部の予測では、2026年のドル円レンジを145〜160円と見る向きもあります。この15円幅のレンジは、上限が為替介入警戒ラインの160円付近、下限が日米金利差縮小による円高の限界である145円付近に設定されています。
年前半は155〜160円のレンジ、年後半は145〜155円のレンジといったように、徐々に円高方向にレンジがシフトしていく可能性があります。
注意点と投資家への示唆
介入リスクへの警戒
短期的には、1ドル=160円水準を意識しつつ、政府・日銀の為替介入の動きをにらんだ神経質な相場展開が見込まれます。急激に円安が進んだ場合には、ファンダメンタルズから急速に乖離するような動きを是正するための為替介入が実施される可能性があります。
政治リスク
日本国内では衆院解散を巡る観測が相場波乱要因としてくすぶっています。政治的不確実性が高まれば、一時的に円売りが加速する可能性もあり、注意が必要です。
トランプ政権の政策不確実性
トランプ政権の政策は、発言と実際の行動が必ずしも一致しないことが第1次政権時代に実証されています。関税政策や対中強硬姿勢がどこまで実行されるかによって、為替相場の方向性は大きく変わる可能性があります。
長期停滞相場への備え
第1次トランプ政権時代のような長期停滞相場が再来する可能性も念頭に置くべきです。明確なトレンドが出にくい相場環境では、レンジ取引戦略やボラティリティを活用した戦略が有効になる可能性があります。
まとめ
2026年の円相場は、155〜158円のレンジで停滞する展開が続いています。この膠着状態は、米国経済の底堅さによる円売り圧力と、日本政府の為替介入警戒による円買い圧力が拮抗していることが主因です。
トランプ政権は「ドル高是正」を掲げていますが、実際の経済政策はドル高を招く要素を含んでおり、政権の意向と市場の動きは乖離しています。日米金利差は徐々に縮小する見通しですが、実質金利差や投機的な動きも相まって、円高への転換ペースは極めて緩やかになると予想されます。
投資家にとっては、為替介入リスク、政治的不確実性、トランプ政権の政策実行度合いなど、複数のリスク要因を注視しながら、長期停滞相場に備えた戦略を検討することが重要です。年後半に向けて徐々に円高方向にシフトする可能性はあるものの、その道のりは平坦ではなく、レンジ相場の継続を前提とした柔軟な対応が求められます。
参考資料:
- Year Ahead 2026 – Will the US Dollar and Yen Continue to Defy Rate Expectations?
- Yen Bearish Voices Build for 2026 on Cautious BOJ Policy Path
- 2026年のドル円相場見通し | 三井住友DSアセットマネジメント
- 2026年「円高シナリオ」の現実味 年始には相場反転の経験則 | 日本経済新聞
- 2026年の米国経済見通し | 三井住友DSアセットマネジメント
- トランプ米政権の4年間を振り返る~ドル円と米長期金利はどう動いたか | 三井住友DSアセットマネジメント
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