「イングランド銀行を破綻させた男」と日銀の関係を解説
はじめに
2026年1月26日の米国株式市場では、ハイテクや消費関連銘柄が先導し、ダウ工業株30種平均が300ドルを超える上昇を記録しました。今週はハイテク大手の決算やFOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエルFRB議長の発言など、市場を揺るがす可能性のある材料が目白押しです。
そうした中、「イングランド銀行を破綻に追い込んだ男が、日本銀行を救おうとしている」という興味深い見方が浮上しています。本記事では、1992年のポンド危機で世界にその名を轟かせたジョージ・ソロスの手法を振り返りながら、現在の日銀と円相場を取り巻く状況について解説します。
「イングランド銀行を破綻させた男」とは
1992年ポンド危機の概要
1992年9月16日、イギリスの通貨ポンドが急落し、翌日に英国は欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱を余儀なくされました。この出来事は「ブラック・ウェンズデー(暗黒の水曜日)」として知られています。
当時、イギリスはEC諸国の為替を一定の枠に収めようとするERMに参加していました。しかし経済悪化により失業率が10%近くまで上昇し、実体経済に比べてポンドが高く固定されている状態でした。
ジョージ・ソロスの攻撃
この状況に目をつけたのが、クォンタム・ヘッジファンドを率いるジョージ・ソロスでした。ソロスは「相場は必ず間違っている」という持論のもと、ポンドが実勢に合わないほど高止まりしていると判断しました。
ソロスは100億ドルに上る大規模なポンド売りを仕掛けました。イングランド銀行は固定相場を維持するため、公定歩合を1日で10%から15%にまで引き上げ、大規模なポンド買い支えを実施しましたが、最終的に資金が底を突き、固定相場を放棄せざるを得なくなりました。
ソロスが得た利益と評価
このポンド暴落により、ソロスの率いるヘッジファンドは10億〜20億ドル程度の利益を得たといわれています。以来、ソロスは「イングランド銀行を負かした男」としてその名を世界に轟かせることになりました。
皮肉なことに、ERM離脱後のイギリスはポンド安の恩恵で輸出が拡大し、実質GDP成長率は3年間で平均3.2%という驚異的な回復を遂げました。
2026年1月の日銀と円相場
円安から急転回した1月23日
2026年1月23日、日銀の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置くことが決定されました。植田和男総裁の会見中、円相場は一時159円台まで円安に振れましたが、その後劇的な反転が起きました。
会見終了からわずか10分間で、円は157円台前半まで2円ほど急騰。さらにニューヨーク時間には155円台後半まで上昇し、市場を驚かせました。
レートチェック疑惑の浮上
この円急騰の背景として、「レートチェック」の実施が疑われています。市場関係者によると、ニューヨーク連銀が主要銀行に対し、参考となる為替レートの提示を求めたとの情報が広がりました。
レートチェックは為替介入の準備段階とされ、市場には「日本政府と日銀が実弾介入の準備を進めている」との警戒感が広がりました。この観測だけでもドル売り・円買いの動きが強まる要因となります。
投機筋への圧力
2022年以降の為替介入の特徴として、市場の不意を突くタイミングで巨額の資金を一気に投入し、市場参加者を「疑心暗鬼」に陥らせることで、円売りを仕掛けづらい地合いを形成する手法があります。
過去のすべての介入後に投機筋の円売りポジションが縮小しており、レートチェックの実施だけでも同様の効果が期待できます。この点で、1992年のイングランド銀行とは異なる対応が功を奏している可能性があります。
ソロスと日銀の歴史的関係
2013年アベノミクスでの攻防
ソロスは日本の金融政策にも深く関わってきました。2013年のアベノミクスによる量的緩和政策では、円安相場で10億ドルの利益を得たとされています。同年、クォンタム・ファンドは55億ドルという史上最高の利益を上げました。
一方でソロスは黒田日銀の「大胆」な金融政策に警鐘を発し、「円安は雪崩となり、止められなくなるかもしれない。日本人の海外への資本逃避が始まる可能性がある」と警告していました。
中央銀行との戦い方の違い
1992年のイングランド銀行は、ERMの制約下で独自の金融政策を取れず、最終的にソロスに敗北しました。一方、現在の日銀は独自の金融政策を維持しながら、政府と連携した為替介入という選択肢も持っています。
この違いが、ヘッジファンドとの対峙において大きな差を生んでいます。
今後の展望と注意点
FOMC後の市場動向に注目
2026年1月27〜28日に開催されるFOMCでは、4会合ぶりに政策金利の据え置きがほぼ確実視されています。パウエルFRB議長の発言次第では、ドル円相場が大きく動く可能性があります。
また、パウエル議長に対する刑事捜査問題もあり、後任人事を含めたFRBの独立性に市場の関心が集まっています。
日銀の追加利上げ観測
市場では2026年7月の追加利上げが織り込まれており、日銀の利上げペースが円高への転換を左右する重要な要素となっています。植田総裁は「経済・物価の見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げていく」と表明しており、金融正常化路線の継続が見込まれます。
円高シナリオの現実味
毎年、年初には円相場のトレンドが大きく転換しやすいという経験則があります。野村證券は2026年末のドル円レートを140円と予想しており、円高への転換が現実味を帯びてきています。
ただし、日本の財政悪化懸念に市場の関心が向かう場合、日米金利差が縮小しても円高へ一本調子に戻すのは難しいとの見方もあります。
まとめ
「イングランド銀行を破綻に追い込んだ男」ジョージ・ソロスの1992年の攻撃は、中央銀行が政策の柔軟性を持たない場合の脆弱性を示す歴史的事例です。一方、現在の日銀は独自の金融政策と為替介入を組み合わせる選択肢を持ち、ヘッジファンドとの対峙において異なる立場にあります。
2026年1月23日の円急騰は、レートチェック疑惑と相まって、投機筋への牽制として機能した可能性があります。今後はFOMC後の市場動向、日銀の追加利上げペース、そして政府・日銀の為替政策が、円相場の行方を決定づける重要な要素となるでしょう。
参考資料:
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