米国のグリーンランド取得問題:軍事力行使示唆の背景と国際的影響

by nicoxz

はじめに

2026年1月6日、米ホワイトハウスはデンマーク自治領グリーンランドの取得に向けて「米軍の活用も常に選択肢の一つ」と表明しました。NATO同盟国に対して領土取得のために軍事的圧力をかけるという異例の姿勢は、国際社会に大きな波紋を広げています。

トランプ大統領は2025年の再選以来、グリーンランド取得への意欲を繰り返し示してきました。2026年に入り、ベネズエラへの軍事介入を成功させた直後にこの発言が行われたことで、単なる交渉カードではない本気度がうかがえます。

本記事では、なぜ米国がグリーンランドにこだわるのか、その戦略的重要性と国際関係への影響について、独自の調査に基づき詳しく解説します。

グリーンランドの戦略的価値

北極圏における軍事的重要性

グリーンランドは北米、欧州、北極圏の交差点に位置し、第二次世界大戦以来、北米防衛の要として機能してきました。現在もその重要性は変わらず、むしろ増大しています。

グリーンランド北西部のピツフィク宇宙基地(旧称:チューレ空軍基地)には、弾道ミサイル早期警戒システムと宇宙監視施設が設置されています。米国防総省は2024年に発表した北極戦略報告書で、この基地の能力強化を明言しており、気象レーダーサイトとしての機能も拡充中です。

また、グリーンランドは「GIUKギャップ」(グリーンランド・アイスランド・英国間の海域)の一角を担っています。冷戦時代に対潜水艦戦の要衝とされたこの海域は、現在もロシア海軍の北大西洋・北極海での動きを監視する上で極めて重要です。

資源と経済的価値

グリーンランドには世界有数のレアアース(希土類)が埋蔵されています。電気自動車、風力発電タービン、軍事装備品など、現代のハイテク製品に不可欠なこれらの鉱物資源は、気候変動による氷の融解に伴い、採掘がより容易になりつつあります。

さらに、北極海の海氷減少は北西航路の実用化を現実のものとしています。アジアと欧州を結ぶ新たな海上輸送ルートとして、この航路の商業的・軍事的価値は計り知れません。

米中露の北極圏覇権争い

ロシアの軍事的プレゼンス拡大

ロシアは近年、北極圏での軍事プレゼンスを急速に強化しています。2014年以降、旧ソ連時代の軍事拠点50カ所以上を再開し、475の冷戦期軍事施設の再建に着手しました。これらの基地には長距離戦闘機、対艦ミサイル、対ミサイルシステムが配備されています。

2022年のウクライナ侵攻後、ロシアと他の北極圏7カ国との関係は決裂しました。フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟したことで、ロシアを除く全ての北極圏国家がNATO加盟国となっています。

中国の「近北極国家」戦略

中国は2018年に自国を「近北極国家」と宣言し、北極圏への関与を強化しています。同年発表の北極白書では、一帯一路構想と並行した「氷上シルクロード」構想が示されました。

中国は2010年代にグリーンランドの港湾、インフラ、鉱業権への投資を試みましたが、米国の圧力もあり成功には至っていません。空港建設や旧デンマーク海軍基地の研究施設への転用といった計画も頓挫しています。

ただし、専門家の間では「北極海でのロシア・中国船舶の活動は、主にヤマル半島の液化天然ガス輸送に関連しており、グリーンランドから直接見える位置にはない」という指摘もあります。トランプ政権の主張する「グリーンランド周辺がロシア・中国船で溢れている」という表現には、誇張が含まれている可能性があります。

国際社会の反応と懸念

デンマーク・グリーンランドの強い反発

デンマークのフレデリクセン首相は、トランプ政権の姿勢に対して激しく反発しています。「米国にはデンマーク王国を構成する3カ国のいずれをも併合する法的根拠がない」と声明で述べ、「もし米国がNATO加盟国への軍事攻撃を選択すれば、NATOを含め第二次大戦後に築かれた安全保障のすべてが停止する」と警告しました。

グリーンランドのニールセン首相も、トランプ大統領の発言を「全く受け入れられない」と非難しています。グリーンランドは自治領として独自の外交・安全保障政策を持ち、独立への志向も強まっている状況で、米国への「併合」は到底受け入れられるものではありません。

米国内での反対意見

米国内でも批判の声が上がっています。ガレゴ上院議員(民主党・アリゾナ州)は、グリーンランドへの軍事力行使に防衛予算を使用することを禁じる修正案を提出しました。

共和党のジョンソン下院議長も「軍事力行使は適切ではない」と明言しており、与党内からも慎重論が出ています。

一方で、スティーブン・ミラー大統領上級顧問は「誰もグリーンランドの将来について米国と軍事的に争うことはない」と述べ、強気の姿勢を崩していません。

今後の展望と注意点

交渉と圧力の狭間で

トランプ政権が実際に軍事力を行使する可能性は低いとみる専門家が多いものの、この発言自体が外交的圧力として機能していることは確かです。2025年12月にはルイジアナ州知事のジェフ・ランドリー氏がグリーンランド特使に任命されており、水面下での交渉が進められている可能性もあります。

同盟関係への影響

最も懸念されるのは、NATO同盟国間の信頼関係への悪影響です。デンマークは70年以上にわたる米国の同盟国であり、グリーンランドの米軍基地提供もその一環です。同盟国への軍事的威嚇は、他のNATO加盟国にも不安を与えかねません。

ベネズエラ軍事介入の直後にこの発言が行われたことで、トランプ政権が国益のためなら同盟関係も軽視するという印象を国際社会に与えています。

日本への影響

北極圏をめぐる米中露の対立激化は、日本にとっても無関係ではありません。北極海航路は日本とヨーロッパを結ぶ新たな輸送ルートとなる可能性があり、その覇権争いの行方は日本の経済・安全保障にも影響を及ぼします。

また、レアアース供給源の多様化は日本のハイテク産業にとって重要課題であり、グリーンランドの資源開発の動向は注視すべきです。

まとめ

米国のグリーンランド取得をめぐる動きは、単なる領土拡張の野心ではなく、北極圏における米中露の覇権争いという大きな文脈の中で理解する必要があります。気候変動による北極海の変化は、この地域の戦略的価値を急速に高めており、今後も国際的な緊張が続く可能性があります。

しかし、NATO同盟国に対する軍事的威嚇は、戦後の国際秩序の根幹を揺るがしかねない深刻な問題です。トランプ政権がどのような手段でグリーンランド取得を追求するのか、そしてそれが国際関係にどのような影響を与えるのか、今後の動向を注視する必要があります。

参考資料:

関連記事

トランプ政権のグリーンランド取得構想:北極圏の資源と安全保障をめぐる攻防

トランプ政権が軍事力行使も辞さない姿勢でグリーンランド取得を推進。バンス副大統領が欧州首脳に警告する背景には、レアアース資源と北極圏の地政学的価値があります。デンマークやNATO同盟国との緊張が高まる現状を解説します。

最新ニュース