トランプ政権、グリーンランド購入を「活発に議論」住民に1500万円支給も
はじめに
トランプ米政権がデンマーク自治領グリーンランドの購入に向けて本格的な動きを見せています。ホワイトハウスは「活発に議論している」と認め、来週にはルビオ国務長官がデンマーク高官と会談する予定です。
住民に最大10万ドル(約1500万円)の一時金を支給する案も検討されていると報じられています。軍事力の行使も「選択肢のひとつ」と異例の圧力をかけるトランプ政権の狙いと、国際社会の反応を解説します。
トランプ政権の動き
ホワイトハウスが購入を認める
レビット大統領報道官は2026年1月7日の記者会見で、グリーンランドの購入を「トランプ大統領と国家安全保障チームが活発に議論している」と明言しました。
1月8日には、米国家安全保障会議(NSC)高官とデンマーク駐米大使、グリーンランド自治政府の代表者がホワイトハウスで協議を行いました。
住民への一時金支給を検討
ロイター通信は1月8日、トランプ政権がグリーンランド住民に対し、1人当たり最大10万ドル(約1500万円)の一時金支給を検討していると報じました。
金額は1万〜10万ドルの間で検討されており、グリーンランドの人口は約5万7000人のため、総額は最大60億ドル(約9400億円)近くに上る可能性があります。
軍事力行使も「選択肢」
レビット報道官は1月6日、グリーンランドを獲得する目標の実現へ「米軍の活用は常に選択肢のひとつだ」と表明しました。NATO加盟国であるデンマークに対してこのような圧力をかけるのは極めて異例です。
バンス副大統領も1月8日の記者会見で、欧州側はトランプ大統領の発言を「真剣に受け止めるべきだ」と警告しました。
グリーンランドの戦略的価値
北極圏の軍事的重要性
グリーンランドはカナダ北東部沖に位置し、領土の3分の2以上が北極圏内にあります。第二次世界大戦以降、北米防衛にとって重要な役割を果たしてきました。
NATOが北大西洋におけるロシア海軍の動きを監視する「GIUKギャップ」(グリーンランド・アイスランド・英国間の海域)の一部を押さえており、地政学上の要衝となっています。
豊富なレアアース資源
グリーンランドには、米国の国家安全保障や経済安定に不可欠な50種類の鉱物のうち約39種類があるとされています。特にレアアース、黒鉛、ニオブなどが豊富です。
レアアースの埋蔵量は酸化物換算で約150万トンと推定され、未開発地域としては世界最大規模のポテンシャルを持っています。これらの鉱物は携帯電話やコンピューター、電池などのハイテク機器に不可欠です。
中露の北極圏進出への対抗
トランプ政権がグリーンランド取得を急ぐ背景には、中国とロシアの北極圏進出への警戒があります。
ロシアは北極圏に軍事基地を新設し、中国はアイスランドなどに研究所を設置。2024年には中露の海上警備機関が合同で北太平洋にて監視活動を行うなど、両国の地域進出が加速しています。
ロンドン大学の専門家は「グリーンランド取得の真の目的は、中国の締め出しにあるのだろう」と指摘しています。
デンマークと欧州の反応
デンマークの強い反発
デンマークとグリーンランドは、島は売り物ではないとして困惑と苛立ちを示しています。
フレデリクセン首相は「米国には、デンマーク王国を構成する3カ国のいずれをも併合する権利はない」との声明を発表し、これまでで最も強い反発を示しました。
欧州主要国の共同声明
英国、フランス、ドイツなど欧州7カ国は共同声明を発表し、「グリーンランドとデンマークの問題を判断するのは住民らだけだ」と強調。北極圏の安全保障のためにはNATO加盟国が連携しなければならないとして、米国を牽制しました。
グリーンランド自治政府の立場
グリーンランドは1979年に自治権を獲得し、2009年にはさらに高度な自治を認められています。独立を求める声も根強くありますが、米国への編入については住民の間でも意見が分かれています。
歴史的経緯
過去の購入提案
グリーンランド購入の構想を持った米大統領はトランプ氏が初めてではありません。
1867年、当時のアンドリュー・ジョンソン大統領はアラスカを購入した際、グリーンランドの購入も検討していました。第二次世界大戦末期には、トルーマン政権がデンマークに対し1億ドルでのグリーンランド購入を申し出ています。
2019年の騒動
トランプ氏は第1期政権の2019年にもグリーンランド購入に言及し、物議を醸しました。当時も「ばかげた話だ」と一蹴されましたが、第2期政権では具体的な交渉に入っています。
資源開発の課題
開発コストの問題
グリーンランドのレアアース開発には課題もあります。気象・地理的な要因により、開発は非常に高コストとなり、時間も要し、巨額の投資が必要です。
現時点でグリーンランドでの商業的な鉱物生産はほぼゼロであり、資源のポテンシャルと実際の開発には大きな隔たりがあります。
放射性元素の問題
レアアース採掘では放射性元素が出てくる可能性があり、グリーンランド自治政府は「放射性元素が出てきたら開発をしないでください」との方針を示しています。環境規制も開発のネックとなっています。
今後の展望
交渉の行方
トランプ政権は購入に向けた圧力を強めていますが、デンマークと欧州諸国の反発は強く、交渉は難航が予想されます。
来週予定されているルビオ国務長官とデンマーク高官の会談が、今後の方向性を占う重要な機会となります。
国際秩序への影響
NATO加盟国であるデンマークに対して軍事力の使用を示唆する発言は、同盟関係に亀裂を生じさせる可能性があります。国際法や主権の原則を無視した領土取得の試みは、戦後国際秩序への挑戦とも受け止められています。
まとめ
トランプ米政権がグリーンランド購入に向けた具体的な動きを見せています。住民への一時金支給や軍事力行使の示唆など、異例の圧力をかける背景には、レアアース資源と北極圏における中露への対抗という戦略的な狙いがあります。
デンマークと欧州諸国は強く反発しており、交渉の行方は不透明です。NATO同盟国間の緊張を高めるこの問題は、国際秩序全体に影響を及ぼす可能性があります。
参考資料:
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