トランプ氏、対イランで「強力な選択肢を検討」軍事介入も視野
はじめに
2026年1月11日、トランプ米大統領はイランで治安当局によるデモ隊の鎮圧で多数の死者が出ている事態を受け、「非常に強力な選択肢を検討している」と述べました。米メディアによると、サイバー攻撃、追加の経済制裁、軍事攻撃などが検討されています。
イランでは2025年12月下旬から経済危機を発端とする大規模な反政府デモが全国に拡大し、治安部隊との衝突で500人以上が死亡したと報告されています。この記事では、米国の対イラン政策の選択肢、イラン国内の抗議活動の実態、そして今後の中東情勢への影響について詳しく解説します。
イランで激化する反政府デモ
デモの発端と拡大
2025年12月28日、テヘランのグランドバザールで商人たちがイラン・リアルの急落に抗議して店舗を閉鎖したことがきっかけでデモが始まりました。当初は物価高騰や生活費の上昇に対する経済的な不満でしたが、急速にイスラム聖職者体制全体への反対運動へと発展しました。
2026年1月9日までの約2週間で、デモは全国31州180都市以上に拡大しています。これは2022〜2023年のマフサ・アミニ氏の拘束中死亡をきっかけとした抗議活動以来、最大規模の反政府運動となっています。
死者数と弾圧の実態
人権団体によると、抗議参加者側で少なくとも496人、治安部隊側で48人の合計544人以上が死亡したと確認されています。一部の報道では、インターネット遮断が行われた48時間の間に2000人以上が死亡した可能性があるとも伝えられています。
逮捕者は1万人以上に達し、このうち169人は未成年者です。イラン検事総長のモハンマド・モバヘディ・アザド氏は、デモ参加者は「神の敵」とみなされ、死刑に値する可能性があると警告しています。
インターネット遮断と情報統制
イラン政府は抗議活動の拡大を抑えるため、大規模なインターネット遮断を実施しています。インターネット監視団体Cloudflareによると、1月9日時点でイラン国内のインターネットは政府により完全に遮断された可能性があります。NetBlocksの報告では、48時間以上にわたりインターネットが使用できない状態が続きました。
イラン経済危機の背景
通貨リアルの歴史的暴落
イラン・リアルは記録的な暴落を続けています。2025年12月29日に1ドル=145万リアルの最安値を記録した後、1月6日にはさらに150万リアルまで下落しました。
比較として、2015年に核合意が実施された時点では、リアルは1ドル=約3万2000リアルで取引されていました。約10年で通貨価値が約50分の1にまで下落したことになります。
インフレと生活苦
経済危機により、インフレ率は2025年10月に48.6%、12月に42.2%に達しました。特に食品価格のインフレは70%を超えています。貧困線以下で生活するイラン国民の割合は22〜50%と推計され、2022年から大幅に悪化しています。
制裁の影響
トランプ政権は「最大圧力」政策を復活させ、イランの金融セクターとエネルギー輸出を標的とした制裁を拡大しています。中国へのイラン産原油の割引販売に関与する企業も制裁対象となっています。
さらに2025年9月には、国連が「スナップバック」メカニズムを通じて核関連制裁を再発動しました。これによりイランの海外資産は凍結され、武器取引は停止され、弾道ミサイル計画に関連する罰則が課されています。
トランプ政権が検討する選択肢
軍事攻撃オプション
トランプ大統領は1月13日に国家安全保障会議を招集し、イランへの対応策について協議する予定です。ホワイトハウスのレビット報道官は「外交は常に第一の選択肢」としつつも、軍事攻撃は「テーブルの上にある」と述べています。
ただし、検討されている選択肢には地上軍の投入は含まれていないと、ホワイトハウス高官は明らかにしています。
サイバー攻撃オプション
イラン軍やイラン政府関連施設に対するサイバー兵器の展開も選択肢として検討されています。この手段は、デモ弾圧を妨害する効果が期待される一方、直接的な軍事衝突を避けられるメリットがあります。
追加経済制裁
石油輸出や軍事部品に対する既存の制裁に加え、追加制裁の検討も進んでいます。目標は、イランとの海上・航空貿易を最小限に抑え、特に輸出を完全に麻痺させることでイラン経済を完全に締め付けることです。
反政府情報発信の強化
インターネット上での反政府情報の発信強化も選択肢の一つです。政府によるインターネット遮断を回避して、抗議者や国際社会に情報を届けることを目的としています。
政権内の慎重論と懸念
軍事介入への慎重意見
政権内では軍事攻撃が逆効果になる可能性について懸念が出ています。具体的には、攻撃によってイラン国民が政府支持に転じたり、イランが軍事力で報復したりするリスクが指摘されています。
ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、ペンス副大統領を含む政権幹部の一部は、軍事攻撃に代わる外交努力や、より穏やかな選択肢を検討するようトランプ大統領に進言しています。
地域情勢の複雑さ
現在の米軍の中東展開は、広範なイランの報復攻撃リスクや地域戦争への拡大可能性を考えると、理想的な状態ではありません。この現実が米国の作戦範囲を制限しており、トランプ大統領の意思決定における重要な考慮事項となっています。
イランの反応と交渉の可能性
軍事報復の警告
イラン議会のガリバフ議長は「米国がイランや占領地域に対して軍事行動を取れば、米軍と海運拠点は正当な標的となる」と警告しています。「我々は行動が取られてから反応するだけに限定しない」とも述べ、先制攻撃の可能性も示唆しています。
トランプ大統領は、イランが米軍基地を攻撃した場合の対応について「これまでにないレベルで攻撃する」と述べています。
交渉の兆し
一方でトランプ大統領は、軍事行動の脅威を受けてイラン指導部が「交渉を求めて連絡してきた」と述べ、「会談が設定されつつある」と明らかにしています。ただし「会談の前に行動を起こす必要があるかもしれない」とも付け加えています。
国際社会の反応
日本の立場
日本では1月11日、高市早苗首相がSNSで「日本政府として情勢の悪化を深く懸念している」「平和的なデモ活動に対するいかなる実力行使にも反対の立場だ」と表明しました。
その他の国際的反応
人権団体アムネスティ・インターナショナルは、イラン当局による「抗議活動への新たな流血の連鎖」を非難する声明を発表しています。国連人権機関もイランの人権状況に深刻な懸念を示しています。
注意点・展望
軍事介入のリスク
米国がイランへの軍事攻撃に踏み切った場合、地域全体への戦火拡大のリスクがあります。イランは中東各地に親イラン民兵組織のネットワークを持ち、米軍基地やイスラエルへの報復攻撃能力を持っています。
イラン体制の行方
一部のアナリストは、イランが「体制崩壊の初期段階」に入った可能性を指摘しています。ニューヨーク・タイムズによると、イラン当局者は政府が「生存モード」にあると述べています。ただし、最高指導者ハメネイ師と革命防衛隊は依然として強力な統制力を維持しており、体制転換の時期を予測することは困難です。
石油市場への影響
中東の緊張激化は国際石油市場にも影響を与えます。イランへの軍事攻撃が行われた場合、原油価格の急騰や供給不安が生じる可能性があり、世界経済への波及効果も懸念されます。
まとめ
トランプ大統領の「強力な選択肢」発言は、イラン情勢が新たな局面を迎えていることを示しています。経済危機を発端とした反政府デモは、イスラム体制への根本的な反発へと発展し、治安当局による激しい弾圧にもかかわらず収束の兆しは見えません。
米国はサイバー攻撃から軍事攻撃まで幅広い選択肢を検討していますが、地域戦争への拡大リスクや、軍事介入がかえって体制を強化する可能性など、複雑な要因を考慮する必要があります。
今後数日から数週間の間に、米国がどのような決定を下すかが、イランの将来だけでなく、中東地域全体の安定に大きな影響を与えることになりそうです。
参考資料:
- Trump says US considering ‘very strong options’ for Iran - Al Jazeera
- Trump weighs potential military intervention in Iran - CNN
- What a U.S. intervention in Iran could look like as Trump weighs options - CNBC
- Iran: Deaths and injuries rise amid authorities’ renewed cycle of protest bloodshed - Amnesty International
- How Iran Sanctions and a Currency Crash Triggered Mass Protests - Bloomberg
- Iran’s currency plummets to new low, sparking fears of higher food prices - PBS News
関連記事
トランプ政権、イラン反政府デモ介入を強化
イランで大規模な反政府デモが続く中、トランプ政権が軍事介入を示唆し圧力を強めています。ベネズエラ攻撃に続く体制変革への動きに、中東情勢が緊迫しています。
イラン反政府デモ死者3000人超:体制揺るがす危機
イランで2025年12月末から続く反政府デモの死者が3000人を超えたと報じられています。経済危機を発端に全土に拡大した抗議活動と、国際社会の対応を解説します。
イラン反政府デモで死者500人規模:体制存続を問う歴史的岐路
2025年末から続くイランの抗議デモで、人権団体は死者490人、拘束者1万人超と報告。経済危機から始まった抗議は体制批判に発展し、トランプ政権は軍事介入を示唆。イラン・イスラム体制は最大の試練に直面しています。
イラン史上初のスターリンク遮断、ネット封鎖100時間超
反政府デモが激化するイランで、インターネット遮断が100時間を超える異例の事態となりました。史上初となるスターリンクへの妨害も確認され、国際社会の注目が集まっています。
イラン政権が米攻撃に反撃警告、全土デモで体制崩壊危機
イランで経済危機を背景に反政府デモが全土に拡大し、死者540人超、逮捕者1万人超の事態に。トランプ米大統領が介入を示唆する中、イラン政権は攻撃された場合の反撃を警告。1979年のイスラム革命以来の体制崩壊危機を詳しく解説します。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。