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by nicoxz

イランのネット遮断が長期化、抗議デモと情報統制の実態

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はじめに

2026年1月、イランでは政府による大規模なインターネット遮断が続いています。2025年12月末から始まった反政府デモへの対応として、1月8日以降、国内のインターネット接続がほぼ完全に遮断されました。

この事態は単なる通信障害ではありません。経済危機に端を発した国民の抗議活動を封じ込めるための情報統制であり、国際社会からも人権侵害として強い批判を受けています。本記事では、イランで何が起きているのか、その背景と影響を詳しく解説します。

抗議デモの発端:経済危機と通貨暴落

リヤル急落が引き金に

今回の大規模デモの直接的な引き金となったのは、イラン通貨リヤルの急激な下落です。2025年3月時点で1ドル約102万リヤルだった為替レートは、12月28日には1ドル140万リヤルまで暴落しました。

核交渉の進展で一時は回復の兆しを見せていた通貨価値でしたが、イラン・イスラエル紛争後の国際的な制裁強化により、再び下落に転じていました。特に8月末に欧州諸国が対イラン国連安保理制裁決議の復活手続きを開始したことで、経済への打撃が深刻化しました。

生活を直撃する物価高騰

通貨安はインフレを加速させ、国民の生活を直撃しています。2025年12月のインフレ率は42.2%に達し、食料品価格は前年同月比で72%も上昇しました。

具体的な影響として、食用油は1年前の2倍以上、鶏卵は3倍に値上がりしています。一般家庭では羊肉はおろか、鶏肉すら購入が困難な状況に陥っています。保健・医療関連品も50%の価格上昇を記録し、市民の生活基盤が根本から揺らいでいます。

テヘランから全国へ拡大

デモは2025年12月28日、首都テヘランのグランドバザール(大市場)で商店主や商人が声を上げたことから始まりました。経済的困窮への不満は急速に広がり、大学生や一般市民を巻き込みながら全国規模の運動へと発展しました。

報道によれば、抗議活動は27州92都市の285カ所以上で確認されています。これは2022年のマフサ・アミニさん死亡事件をきっかけとした「女性・命・自由」運動以来、最大規模の騒乱となっています。

インターネット遮断の実態

1月8日、突然の接続断絶

2026年1月8日午後8時30分(イラン時間)、イラン全土でインターネット接続が突然遮断されました。デモ開始から12日目、抗議活動が激化する中での措置でした。

サイバーセキュリティ専門家の分析によれば、イランの国内情報ネットワーク自体が完全に切断され、国内通信すら困難な状態になりました。テヘランを中心に、イスファハン、シーラーズ、ケルマーンシャーなど主要都市で広範な通信障害が報告されています。

遮断の手法と徹底ぶり

イラン当局が用いている情報遮断の手法は多岐にわたります。携帯電話の基地局アンテナの無効化、電話回線の切断、大容量データ送受信の制限などが実施されています。さらに、反体制活動家のSIMカードを個別に停止する措置も取られています。

治安部隊は戸別訪問を行い、衛星放送用のパラボラアンテナを押収しているほか、デモ参加者を特定するために民間の監視カメラ映像も没収しています。これは単なる通信遮断を超えた、組織的な情報統制といえます。

一時復旧後も不安定な状況

1月18日時点で、10日間続いた通信遮断の後、一時的にインターネット接続が回復しました。しかし、復旧は束の間で、すぐに再び途絶えたと監視団体が報告しています。

国際電話は1月12日から、SMSは17日から再開していますが、完全な正常化には程遠い状況です。イランの携帯電話事業者第2位であるイランセルのCEOが、政府のネット遮断命令に従わなかったとして解任されたとの報道もあり、通信事業者への圧力も強まっています。

国際社会の反応とスターリンクの役割

人権団体からの強い批判

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、今回のインターネット遮断を厳しく批判しています。「イラン当局は再び意図的にインターネットアクセスを遮断し、2022年の『女性・命・自由』運動以来最大の全国規模の抗議活動を鎮圧するために行っている重大な人権侵害の実態を隠そうとしている」と声明を発表しました。

また、「この包括的なインターネット遮断は人権侵害を隠すだけでなく、それ自体が深刻な人権侵害に該当する」と指摘しています。

スターリンクによる情報の突破口

インターネット遮断が続く中、一部の市民は衛星インターネットサービス「スターリンク」を使って外部との通信を維持しています。推定約5万台のスターリンク端末がイラン国内に存在し、海外から密輸されて闇市場で取引されています。

イーロン・マスク氏率いるスペースX社は1月14日からイラン向けのスターリンク利用料を無料化しました。ドナルド・トランプ米大統領もマスク氏に対し、イラン市民のインターネットアクセス回復への協力を要請しています。

イラン政府の対抗措置

イラン議会は昨夏、スターリンクの使用を違法化しており、端末所持には6か月から2年の禁固刑が科される可能性があります。1月8日以降、政府はGPS信号の大規模な妨害を開始し、スターリンク接続の通信損失率は推定30%、地域によっては80%に達しています。

治安部隊による衛星機器の戸別押収も続いており、情報へのアクセスを完全に遮断しようとする当局の意図が明確に表れています。

深刻化する人道的懸念

確認困難な犠牲者数

インターネット遮断により、抗議活動での犠牲者数の正確な把握が極めて困難になっています。ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は3,428人の死亡を報告していますが、実際の数はさらに多い可能性があると指摘しています。

一部の報道では死者5,000人以上、最大で2万人に達する可能性があるとされています。イラン・インターナショナルは政府・治安筋からの情報として、少なくとも1万2,000人が死亡したと報じており、その多くが1月8日と9日のインターネット遮断中に発生したとしています。

外国勢力の介入疑惑

状況をさらに複雑にしているのが、外国勢力の介入です。1月6日、イラクのシーア派民兵組織約800人がイランでの抗議活動鎮圧を支援するために派遣されたとの報道がありました。

ハメネイ最高指導者は演説で「破壊者」を非難し、米国がデモを煽っていると主張しています。一方、トランプ米大統領はデモ隊を「支援する準備がある」と表明し、米国とイランの対立構図も鮮明になっています。

今後の展望と注意点

長期化する情報統制

イラン政府報道官は1月15日、国際ウェブサイトへのアクセスは少なくともイラン暦の新年(3月下旬)まで制限されると発表しました。インターネット監視団体Filterwatchは、イラン政府が「完全なデジタル隔離」を目指す長期計画を進めていると報告しています。

この計画では、イランのインターネットインフラを「兵舎インターネット」に変換し、セキュリティクリアランスを持つ個人や組織のみが外部世界にアクセスできるようにするとされています。

国際社会の対応が焦点に

日本の外務省もイランの危険レベルを引き上げており、渡航には十分な注意が必要です。現地との連絡手段が限られる中、在イラン邦人や関係者への影響も懸念されます。

国際社会がこの人道危機にどう対応するか、また情報統制が市民生活に与える影響がどこまで深刻化するかが、今後の焦点となります。

まとめ

イランで続くインターネット遮断は、経済危機に端を発した市民の抗議活動を封じ込めるための情報統制です。通貨暴落と物価高騰に苦しむ国民の声を封殺しようとする政府と、情報へのアクセスを求める市民との対立は、解決の糸口が見えない状況が続いています。

スターリンクなど代替手段を通じた情報発信は続いていますが、政府の取り締まりも強化されています。国際社会は人権侵害への批判を強めていますが、具体的な打開策は見出せていません。この問題の行方は、デジタル時代における情報の自由と国家統制の在り方を問う重要な事例として、今後も注視が必要です。

参考資料:

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