トランプ政権の新たな盟友、NVIDIA CEO ファン氏の影響力
はじめに
トランプ第2期政権において、テクノロジー業界の影響力を持つキーマンが変化しています。イーロン・マスク氏に代わり、NVIDIA(エヌビディア)のCEOであるジェンスン・ファン氏が、トランプ大統領の政策決定に大きな影響を与える存在として浮上しました。
2025年12月、ファン氏はワシントンでトランプ大統領や共和党議員らと相次いで会談し、AI半導体の対中輸出政策について協議しました。この記事では、ファン氏とトランプ政権の関係強化、H200チップの対中輸出承認、そして米国のAI・エネルギー政策の変化について詳しく解説します。
ジェンスン・ファン氏の急速な台頭
イーロン・マスク氏を超える影響力
2025年、NVIDIAのCEOジェンスン・ファン氏は、アップルのティム・クック氏やテスラのイーロン・マスク氏を抜き、トランプ政権で最も影響力のあるテクノロジー企業経営者となりました。
マスク氏は2025年6月にトランプ大統領と公然と対立し、X(旧Twitter)上で税制・歳出削減法案を巡って批判を展開しました。マスク氏は政府効率化省(Department of Government Efficiency)から夏に退任し、9月のホワイトハウス晩餐会で初めて公の場に姿を現しましたが、以前のような中心的な立場は失われています。
一方、ファン氏はAI革命における成功により、グローバルな影響力を持つ人物となり、2025年には何度もトランプ大統領と会談し、5月には大統領の中東訪問にも同行しました。
互いに称賛する関係
トランプ大統領とファン氏は、公の場で互いに称賛し合う関係を築いています。トランプ大統領はファン氏を「brilliant man(聡明な男)」と評し、ファン氏はトランプ大統領を「America’s unique advantage(アメリカの独自の強み)」と呼んでいます。
ファン氏はトランプ大統領について「誰よりも一生懸命働いている。この大統領はアメリカを偉大にし、アメリカが勝つために狂ったように働いている」と述べており、両者の緊密な関係が窺えます。
戦略的な関係構築
ファン氏は華々しいイベントを避け、一対一の直接会談を好む傾向があります。2025年1月のトランプ大統領の就任式や9月のテクノロジー業界の晩餐会には姿を見せませんでしたが、その代わりにホワイトハウスでの個別会談を重ねています。
この戦略的なアプローチにより、ファン氏はトランプ政権の政策決定に直接的な影響を与えることに成功しています。
H200チップの対中輸出承認
バイデン政権からの政策転換
2025年12月、トランプ大統領はNVIDIAのH200チップを中国の「承認された顧客」に販売することを許可すると発表しました。これは、バイデン政権が設けた輸出制限を大幅に緩和する政策転換です。
トランプ政権は5月にもバイデン時代の制限を撤回し、NVIDIAなどのチップメーカーが幅広い国々にチップを輸出することを可能にしていました。H200の承認は、この流れをさらに進めるものです。
売上の25%を米国政府が徴収
ただし、この輸出承認には条件が付いています。各取引は省庁間の承認を必要とし、米国政府が売上の25%を徴収するという仕組みです。当初は15%の徴収率が発表されていましたが、最終的には25%に引き上げられました。
この収益分配スキームは、8月に発表された際には、NVIDIAとAdvanced Micro Devices(AMD)を対象としていましたが、中国市場での販売において米国政府が直接的な利益を得る異例の措置です。
H200の位置づけ
重要な点として、H200は2022年に初めてリリースされたHopperアーキテクチャに基づいており、NVIDIAの最先端チップではありません。現在の最新チップであるB100やB200は、Blackwellアーキテクチャに基づいており、H200よりも大幅に性能が向上しています。
また、今回の承認はH200に限定されており、BlackwellやRubinといった次世代GPUには適用されません。つまり、中国は最新技術へのアクセスを制限されたままです。
政治的な反応
この決定に対しては、議会の超党派グループが反対を表明しています。民主党のグレゴリー・ミークス下院議員とエリザベス・ウォーレン上院議員は、「H200の輸出ライセンスを承認する大統領の指示は、わが国の安全保障を損なう深く懸念すべきパターンの一部である」とする書簡を送りました。
一方で支持者は、中国への輸出を認めることで、中国の競合企業から米国企業に資金が流れ、次世代チップの研究開発に投資され、中国の主要AI企業が米国技術に依存し続けることを確実にすると主張しています。
トランプ政権のAI・エネルギー政策
AI行動計画の発表
2025年7月23日、ホワイトハウスは「Winning the Race: America’s AI Action Plan」(勝利への競争:アメリカのAI行動計画)を発表しました。トランプ大統領は、連邦政府機関に対し、データセンター開発のための許可審査の迅速化、財政支援の提供、連邦用地の活用を指示する大統領令に署名しました。
データセンター開発の促進
この行動計画の対象となる「データセンタープロジェクト」とは、AIの推論、トレーニング、シミュレーション、または合成データ生成に専念する100メガワット(MW)以上の新規負荷を必要とする施設と定義されています。
エネルギー省(DOE)は、AI利用を促進するためのデータセンター開発を進める4つのサイトを選定しました:
- アイダホ国立研究所
- テネシー州オークリッジ保留地
- ケンタッキー州パデューカ・ガス拡散工場
- サウスカロライナ州サバンナリバーサイト
財政支援と規制緩和
商務長官は、科学技術政策局長および関連機関と協議の上、適格プロジェクトに対する財政支援イニシアチブを立ち上げることになっています。支援には、融資・融資保証、助成金、税制優遇措置、電力購入契約などが含まれます。
2025年8月2日までに、すべての関連連邦機関は、データセンターおよび支援インフラプロジェクトに適用可能な既存の国家環境政策法(NEPA)のカテゴリー別除外を特定することが求められました。
化石燃料重視への転換
トランプ政権は、風力や太陽光発電に関する政策を変更し、化石燃料由来の電力への回帰を望んでいます。大統領は、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に対する連邦政府の支援を強化し、再生可能エネルギーよりも優先する方針を示しています。
ファン氏は、気候変動否定論者として知られるトランプ政権のエネルギー長官について、「科学への情熱」があると称賛しており、政権のエネルギー政策を支持する姿勢を見せています。
ワシントンでの影響力行使
共和党議員との非公開会談
2025年12月4日、ファン氏はワシントンで、トランプ大統領および上院銀行委員会の共和党議員らと別々に会談しました。これらの非公開会談は、AI産業にとって有利な連邦政策を確保しようとするテクノロジー企業経営者のロビー活動が激化する中で行われました。
ファン氏は、トランプ大統領との会談で輸出管理について協議したと述べています。
議員の反応
会談に出席した共和党上院議員の多くは会談内容の議論を避けましたが、少数の議員は会談を「前向きで生産的」と評しました。マイク・ラウンズ上院議員は、ファン氏とAIの現状について「一般的な議論」を行い、上院議員は幅広い政策に対してオープンな姿勢を保っていると述べました。
ただし、すべての共和党議員が好意的だったわけではありません。上院銀行委員会に所属するルイジアナ州のジョン・ケネディ上院議員は、会談を完全にスキップしました。
民主党の批判
会談から完全に排除された民主党議員は、ファン氏の議会訪問に不満を表明しました。マサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン上院議員は、ファン氏が「説明するよりも、秘密裏に共和党議員にロビー活動をすることを望んでいる」と批判しています。
AI規制に関する立場
連邦レベルの規制を主張
ファン氏は、州ごとのAI規制に強く反対しています。「州ごとのAI規制は、この業界を停止させ、国家安全保障上の懸念を引き起こすだろう」と述べ、代わりに「連邦レベルのAI規制が最も賢明である」と主張しています。
この立場は、テクノロジー業界全体の利益を代弁するものであり、統一された規制枠組みを求める業界の声を代表しています。
中国の反応と地政学的影響
中国の自制的姿勢
興味深いことに、トランプ政権がH200チップの輸出を承認したにもかかわらず、中国政府は国内企業によるH200チップの購入を制限する可能性があると報じられています。これは、米国技術への依存を減らそうとする中国の戦略的判断を示唆しています。
準備される大規模出荷
NVIDIAは中国への8万2,000個のAI GPUの出荷を準備しており、25%の税金が課されるH200の出荷が始まると報じられています。これは米国が制限を緩和したことで、チップ戦争の境界線が曖昧になっていることを示しています。
安全保障から貿易へのシフト
この政策転換について、専門家は「NVIDIAの次世代チップが中国に向かう中、米国は優先事項を安全保障から貿易へとシフトさせている」と分析しています。バイデン政権が重視していた国家安全保障上の懸念よりも、経済的利益を優先する姿勢が明確になっています。
注意点と今後の展望
技術流出のリスク
H200は最先端チップではないものの、中国のAI開発に利用される可能性があります。軍事転用の懸念も完全には払拭できず、長期的な安全保障リスクについては慎重な監視が必要です。
米中関係の不安定性
トランプ政権の対中政策は一貫性を欠いており、「on-again, off-again(つかず離れず)」の貿易戦争が続いています。今後、政策が再び転換される可能性も否定できません。
国内政治の分断
AI半導体輸出を巡っては、共和党と民主党の間で意見が分かれています。2026年の中間選挙を控え、この問題が政治的な争点となる可能性があります。
エネルギー政策の持続可能性
トランプ政権の化石燃料重視政策は、気候変動対策の観点から国際的な批判を受ける可能性があります。また、再生可能エネルギーからの転換が、長期的なエネルギー安全保障にどう影響するかも注視が必要です。
まとめ
トランプ第2期政権において、NVIDIAのCEOジェンスン・ファン氏は、イーロン・マスク氏に代わる新たな「相棒」として影響力を拡大しています。2025年12月の非公開会談を通じて、ファン氏は対中AI半導体輸出政策やAIインフラ整備に関する政策決定に深く関与しています。
H200チップの対中輸出承認は、バイデン政権の安全保障重視から、トランプ政権の経済利益優先へという政策転換を象徴しています。米国政府が売上の25%を徴収する仕組みは異例であり、新たな貿易モデルとして注目されます。
また、トランプ政権のAI行動計画は、データセンター開発の大規模な促進と化石燃料重視のエネルギー政策を組み合わせたものです。この政策方向性は、気候変動対策や国際関係に長期的な影響を与える可能性があります。
今後、米中間の技術競争とファン氏の政治的影響力がどのように展開するか、注視していく必要があります。
参考資料:
- Nvidia CEO Jensen Huang strikes alliance with Donald Trump - The Hill
- Nvidia’s Jensen Huang meets behind closed doors with Trump, then Republican senators | Fortune
- Trump greenlights Nvidia H200 AI chip sales to China if U.S. gets 25% cut - CNBC
- Trump Administration Gets H200 Chip Sales to China Right and Wrong | ITIF
- Energy, Data Centers, and the Trump Administration’s AI Action Plan - Nelson Mullins
- Clout wars: Jensen Huang eclipses Elon Musk and Tim Cook in Washington - CNBC
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