トランプ氏、英国のチャゴス諸島返還を「大愚行」と批判
はじめに
トランプ米大統領は2026年1月20日、英国によるインド洋の要衝チャゴス諸島のモーリシャスへの返還を「大変な愚行だ」と批判しました。チャゴス諸島のディエゴガルシア島には、米英軍が艦艇や長距離爆撃機を配備する重要な軍事基地があります。
注目すべきは、トランプ政権が2025年5月にこの合意を支持していたという点です。従来の立場から一転して批判に回った背景には、グリーンランド取得への圧力という意図が透けて見えます。本記事では、トランプ大統領の方針転換と米英関係への影響について解説します。
チャゴス諸島とは
戦略的に重要な位置
チャゴス諸島はインド洋に位置する群島で、7つの環礁を中心とした60以上の島々で構成されています。最大の島であるディエゴガルシア島には、米英軍の重要な軍事基地が置かれています。
この基地は、中東やアフリカ、アジア太平洋地域への軍事作戦において戦略的な拠点となっています。約2,500人の軍人が駐留し、長距離爆撃機や艦艇が配備されています。
領有権をめぐる歴史
チャゴス諸島は19世紀よりイギリスが支配してきましたが、モーリシャスは長年にわたり領有権を主張してきました。1960年代以降、両国間で領有権をめぐる対立が続いていました。
2019年には国際司法裁判所(ICJ)がイギリスに対し、チャゴス諸島のモーリシャスへの返還を勧告しました。この判決を受け、イギリスは国際社会から批判を浴びる状況となっていました。
英国とモーリシャスの合意
2024年10月の返還発表
2024年10月3日、イギリス政府はチャゴス諸島の主権をモーリシャスに返還すると発表しました。ただし、ディエゴガルシア島の米英軍基地については、イギリスが99年間にわたり運用を続けることで合意しました。
イギリスはモーリシャスに対し、年間約1億ポンド(約190億円)のリース料を支払うことになりました。2025年5月22日、両国政府は正式な合意文書に署名しています。
トランプ政権の当初の支持
重要なのは、トランプ政権がこの合意を当初は支持していたという点です。2025年5月、マルコ・ルビオ国務長官は「包括的な省庁間レビューの結果、トランプ政権はこの合意がディエゴガルシアにおける米英軍施設の長期的、安定的かつ効果的な運用を確保すると判断した」と声明を発表しました。
ルビオ長官は「トランプ大統領はスターマー首相とのホワイトハウスでの会談で、この画期的な成果への支持を表明した」とも述べ、基地を「地域および世界の安全保障にとって重要な資産」と位置付けていました。
トランプ大統領の方針転換
「大愚行」と痛烈批判
2026年1月20日、トランプ大統領は自身のSNSプラットフォーム「Truth Social」で、英国のチャゴス諸島返還を痛烈に批判しました。
「驚くべきことに、我々の『優秀な』NATO同盟国である英国は現在、重要な米軍基地があるディエゴガルシア島をモーリシャスに譲渡しようとしている。しかも何の理由もなく」とトランプ大統領は投稿しました。
さらに「中国とロシアがこの完全な弱さを示す行為に気づいていることは間違いない」と述べ、「英国が極めて重要な領土を手放すことは大愚行であり、グリーンランドを取得しなければならない非常に長い国家安全保障上の理由の一つだ」と続けました。
グリーンランド取得との関連づけ
トランプ大統領の批判の狙いは明らかです。英国のチャゴス諸島返還を「弱さの象徴」として描き、自身のグリーンランド取得への野心を正当化しようとしているのです。
トランプ大統領はデンマーク自治領グリーンランドの取得を「何らかの方法で」実現すると公言しており、反対する欧州8カ国に10%の追加関税を課すと表明しています。チャゴス諸島問題を持ち出すことで、領土取得への意欲をさらに強調する形となっています。
英国政府の反応
国家安全保障を守る姿勢を強調
英国政府のスポークスマンは、英国は「国家安全保障で妥協することは決してない」と反論しました。モーリシャスとの合意は「裁判所の判決が我々の立場を損ない、基地が意図通りに運用できなくなる恐れがあったため」締結されたと説明しています。
ダレン・ジョーンズ閣僚は、この合意により「軍事基地が今後100年間確保される」と述べました。「条約はすでに署名されており、変更することはできない」とも強調しています。
変更は困難との立場
英国政府の立場は明確です。すでに署名された条約を覆すことは困難であり、トランプ大統領の批判にもかかわらず合意は維持されるという姿勢です。
ただし、英国内でもこの合意には反対意見があります。野党・保守党のケミ・バデノック党首は「この合意は英国の安全保障を弱め、主権領土を手放すものだ」と批判しています。
モーリシャスの反応
主権は議論の対象外と主張
モーリシャス政府もトランプ大統領の批判に反論しました。ガビン・グローバー法務長官は「モーリシャス共和国のチャゴス諸島に対する主権は、国際法のもとで曖昧さなく認められており、もはや議論の対象であるべきではない」と述べました。
この発言は、トランプ大統領がチャゴス諸島問題に介入しようとすることへの明確な拒否を示しています。
注意点・展望
米英同盟への影響
今回のトランプ大統領の批判は、NATO同盟国である英国に向けられたものです。グリーンランド問題でデンマークやフランスとも対立する中、西側同盟の結束がさらに揺らぐ可能性があります。
特に、かつて支持していた合意を一転して批判するという姿勢は、同盟国との信頼関係を損なう恐れがあります。英国政府が「条約は変更できない」と明言していることから、米英間の溝は深まる可能性があります。
中国・ロシアへの懸念
トランプ大統領が指摘したように、チャゴス諸島問題には中国とロシアの影響力拡大への懸念も絡んでいます。モーリシャスに主権が移れば、将来的に中国がこの地域で影響力を強める可能性を指摘する声もあります。
ただし、99年間のリース契約により米英軍基地は維持されることから、当面の軍事的な影響は限定的との見方もあります。
グリーンランド問題との関連
トランプ大統領がチャゴス諸島問題をグリーンランド取得の正当化に利用したことは明らかです。「領土を手放すことは弱さだ」というメッセージは、デンマークや欧州諸国への圧力となっています。
しかし、チャゴス諸島とグリーンランドは状況が全く異なります。チャゴス諸島は国際司法裁判所の勧告を受けた返還であり、グリーンランドはデンマークの自治領で住民が米国への編入を望んでいるわけではありません。両者を同列に扱う論法には無理があるとの批判もあります。
まとめ
トランプ大統領が英国のチャゴス諸島返還を「大愚行」と批判したことは、複数の意味で注目に値します。かつて支持していた合意を一転して非難し、グリーンランド取得の正当化に利用するという姿勢は、同盟国との関係に波紋を広げています。
英国政府は「条約は変更できない」と明言しており、トランプ大統領の批判が合意を覆すことにはならない見通しです。しかし、NATO同盟国間の信頼関係には影を落とす結果となりました。
グリーンランド問題と合わせ、トランプ政権と欧州同盟国との対立は深刻化しています。今後の西側同盟の結束がどうなるか、国際社会は注視しています。
参考資料:
- Trump says U.K. return of Chagos Islands to Mauritius is reason to acquire Greenland - NPR
- Trump blasts NATO ally, the UK, over Chagos Mauritius deal - CNBC
- Trump says UK’s Chagos Islands deal with Mauritius is an act of ‘great stupidity’ - Euronews
- Trump slams UK deal to hand over Chagos Islands after he previously supported it - PBS
- What to know about the Chagos Islands as Trump slams the UK’s sovereignty deal - ABC News
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