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by nicoxz

英国の肥満損失年20兆円、痩せ薬で経済再建へ

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はじめに

英国で「痩せ薬」と呼ばれるGLP-1受容体作動薬の活用が急速に広がっています。その背景には、肥満による社会全体の経済損失が年間1,260億ポンド(約20兆円)にのぼるという深刻な現実があります。英国政府は、公的医療制度(NHS)を通じて肥満治療薬を無償提供することで、医療費や生産性損失を含む社会全体のコストを抑え込もうとしています。

本記事では、英国の肥満問題の実態、政府の薬剤活用戦略、そして経済効果の見通しについて、最新の調査データをもとに解説します。

深刻化する英国の肥満問題

成人の約3分の2が「過体重」

英国では成人の約64.5%が過体重または肥満に該当します。2023〜2024年のデータによると、イングランドでは成人の28%が肥満、さらに36%が過体重という状況です。スコットランドでは肥満率が32%と英国内で最も高い水準にあります。

男女別に見ると、過体重(肥満含む)の割合は男性が69.7%、女性が59.2%です。また、最も貧困な地域では過体重率が71.2%、肥満率が37.4%に達しており、社会的格差との関連も指摘されています。

経済損失は年間1,260億ポンド

英国のイノベーション機関Nestaとフロンティア・エコノミクスの分析によると、肥満と過体重が英国社会にもたらす経済損失は年間約1,260億ポンド(約20兆円)に達します。その内訳は以下の通りです。

  • 生活の質の低下: 714億ポンド(体重関連疾患による健康寿命の損失)
  • 生産性の低下: 308億ポンド(欠勤・業務効率の低下など)
  • NHS治療費: 126億ポンド(直接的な医療コスト)
  • 非公式介護費用: 105億ポンド(家族による介護の経済的負担)
  • 公的介護費用: 12億ポンド(社会福祉サービス)

生産性損失だけで310億ポンドに達しており、これは所得税率を3ペンス引き下げるのに相当する規模です。さらに、2035年までにはこの総コストが年間1,500億ポンドに膨らむと予測されています。

政府の「痩せ薬」戦略

NHSによるGLP-1薬の無償提供

英国では公的医療制度(NHS)が原則無料であるため、承認された薬剤は患者に無償で提供されます。2024年12月、英国の医療技術評価機関NICEは、GLP-1受容体作動薬の一つであるチルゼパチド(商品名モンジャロ)を、肥満治療薬として推奨する技術評価を発表しました。

これにより、BMIが35以上で体重関連の合併症がある成人などが、NHSを通じて無償で治療を受けられる道が開かれました。ただし、NICEは最初の3年間で対象者を22万人に制限しています。適格人口は約340万人とされており、段階的な拡大が計画されています。

2億7,900万ポンドの臨床試験投資

英国政府は2億7,900万ポンド(約560億円)を投じ、マンチェスターを拠点とした5年間の大規模臨床試験を実施しています。この試験では、チルゼパチドの体重減少効果に加え、糖尿病予防や肥満関連合併症の抑制効果を評価します。薬剤購入費は増加しますが、肥満が引き起こす糖尿病や心臓病などの治療コストを長期的に削減できるとの見立てです。

160万人がすでに利用

ロンドン大学(UCL)が2025年1〜3月に実施した調査によると、過去1年間に英国で痩せ薬を使用した成人は約160万人に達しました。成人の4.5%が何らかのGLP-1薬を使用し、2.9%が体重減少目的で使用していました。

ただし、利用者の95%は民間の医療機関を通じて自費で購入しているのが現状です。民間での費用は月額約200ポンド(約4万円)で、モンジャロは2025年9月から月額330ポンド(約6.6万円)に値上げされる見通しです。利用者は女性が男性の2倍多く、45〜55歳の中年層に集中しています。

期待される経済効果と課題

2050年までに520億ポンドの節約効果

トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所の分析によると、1,470万人の成人に肥満治療薬を提供した場合、2050年までに520億ポンド(約10兆円)の経済節約効果が見込まれます。具体的には、5年以内にGDPが0.74%、10年以内に0.98%押し上げられ、年間198〜263億ポンドの経済効果が期待されています。

これは人々がより健康で長く働けるようになることによる生産性向上と、医療費・福祉支出の削減によるものです。同研究所は、肥満が社会全体にもたらすコストを年間約980億ポンドと試算しており、その3分の2は個人が負担し、残りがNHS治療費や福祉支出、生産性低下として社会全体にのしかかっています。

制度設計の課題

一方で、NHSでの本格的な展開には課題もあります。NICEの推奨に基づき、初年度に適格者全員が治療を開始した場合、薬剤費・専門クリニック・栄養士・看護師の人件費などを含めた費用は31億ポンドに達する可能性があります。

また、NHSの提供体制は地域によって差があり、段階的な導入が進む中で、民間と公的医療のアクセス格差が「健康格差」を広げるリスクも指摘されています。WHO(世界保健機関)も2025年12月にGLP-1薬の使用に関する初のグローバルガイドラインを発表し、適切な処方と長期的なフォローアップの重要性を強調しています。

まとめ

英国は肥満による年間20兆円規模の経済損失に対し、GLP-1受容体作動薬の公的提供という大胆な戦略で挑んでいます。160万人がすでに利用し、政府は大規模臨床試験に560億円を投じるなど、本腰を入れた取り組みが進んでいます。

日本でも肥満や生活習慣病による医療費増大は深刻な課題です。英国の「予防投資」としての薬剤活用戦略は、日本の医療政策にも示唆を与えるものといえます。今後は薬剤の費用対効果や健康格差への影響を注視しながら、この「痩せ薬革命」の行方を見守る必要があります。

参考資料:

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