横浜市長パワハラ疑惑、現職人事部長が異例の実名告発会見
はじめに
2026年1月15日、横浜市政に大きな波紋が広がりました。横浜市の久保田淳人事部長が記者会見を開き、山中竹春市長から「人間のクズ」「デブ」などの暴言や中傷を受けたと実名で告発しました。
現職の自治体幹部が首長を実名で告発するのは極めて異例のことです。久保田人事部長は「学校であればいじめに該当する。人権感覚を持って市長としてふさわしい言動を望む」と訴え、市に対してパワハラ調査の実施を求めました。
2025年の兵庫県知事パワハラ問題で公益通報者保護のあり方が大きく注目された中、この告発は自治体における首長と職員の関係、ハラスメント対策のあり方について改めて問題提起しています。本記事では、告発の内容と経緯、山中市長の反応、そして自治体ハラスメント問題の背景について解説します。
告発の内容と経緯
週刊文春の報道と人事部長の会見
今回の問題は、1月11日の週刊文春電子版で山中市長の暴言疑惑が報じられたことから始まりました。その4日後の1月15日、報道で言及された久保田淳人事部長(49歳)自身が横浜市内で記者会見を開き、実名・顔出しで市長を告発する異例の展開となりました。
久保田人事部長によると、告発に踏み切った理由は「市民に知ってもらうため」です。会見では音声録音も公開され、市長の言動を裏付ける証拠も提示されました。
告発された暴言の具体的内容
久保田人事部長の告発によれば、山中市長は2023年から2025年にかけて、以下のような言動を繰り返していました。
直接的な暴言・威圧行為:
- 深夜や休日を問わず私用スマホに業務連絡
- 怒鳴りながら紙を投げつける
- 「(国際会議を)誘致できなかったら切腹だ」という発言
- 外務省職員の視察報告が遅れた際に机を叩きながら怒鳴る
- 銃で撃つしぐさをする
他の市幹部・議員への陰口:
- 当時の市議会議長に対して「死ねよ」
- 副市長に対して「ダチョウ」「人間のクズ」
- 幹部職員の外見に対して「デブ」
また、前市長時代は一般職員でも市長室に入って説明できたものの、山中市長はこれを幹部職員に限定し、ミスなどを理由に「出禁」とすることが度々あったとされています。
告発者の心境
久保田人事部長は会見で「私自身も様々な被害を受けてきて、その時は感覚がマヒしていたと思うんですけれども、資料としてまとめて振り返ると、動悸がしたりとか、手が震えるとか。やっぱり恐怖心を味わっていたんだなと」と語りました。
現職の人事部長という立場でありながら、自らの処遇よりも市政の正常化を優先した告発は、大きな覚悟があったことをうかがわせます。
山中市長の反応と経歴
市長側の主張
山中市長は週刊文春の報道後、自身のホームページで「事実関係として承知、認識のない発言を一方的に公表されたことは極めて残念。外見や容姿について中傷するようなことはない」とコメントを掲載しました。
1月15日の時点で、市長は記者団の取材には応じておらず、直接的な説明は行われていません。告発内容を全面的に否定するのか、一部認めるのかは明らかになっていません。
山中竹春市長の経歴
山中竹春氏は1972年埼玉県秩父市生まれの52歳です。早稲田大学で政治経済学部と理工学部を卒業し、同大学院で博士(理学)を取得しました。
医師免許は持たないものの、データサイエンスの専門家として医学界に貢献し、九州大学、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、国立がん研究センターなどを経て、2014年から横浜市立大学で特命副学長、医学部教授、大学院データサイエンス研究科長等を歴任しました。2020年には日本癌治療学会で医師以外として初の最優秀演題賞を受賞しています。
市長就任と再選
2021年8月の横浜市長選挙に立憲民主党の推薦を受けて出馬し、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致反対を掲げて初当選しました。
2025年8月の市長選挙では、立憲民主党に加えて自民党や公明党の地方組織からも支持を受け、663,876票を獲得して再選を果たしました。2位候補との差は約40万票という圧勝でした。
中学校給食の全員制実現など、一定の実績も挙げていた中での今回の告発です。
自治体におけるハラスメント問題の背景
兵庫県知事問題の教訓
2025年に大きく報道された兵庫県知事のパワハラ疑惑では、告発した県幹部職員が公益通報者として保護されず、停職処分を受けた後に自ら命を絶つという痛ましい事態に発展しました。
この問題では、県が告発を公益通報として扱わず、知事が告発者の特定を指示したことが批判されました。県議会の百条委員会では専門家から「公益通報者保護法に違反している」との指摘もありました。
首長によるハラスメントの構造的問題
首長は選挙で選ばれた存在であり、その正当性を背景に強い権限を持ちます。一方で、職員は首長の指揮監督下にあり、告発には大きなリスクが伴います。
専門家は、首長が有権者の信任を背景に自らの主張の正当性を信じて疑わない場合、その指示に必要以上の「力」が込められ、部下職員がそれを強く感じることがあると指摘しています。
第三者調査の重要性
厚生労働省のパワハラ防止指針では、事実確認が困難な場合に中立な第三者機関に紛争処理を委ねることを推奨しています。自治体においても、首長によるハラスメントが疑われる場合、第三者調査委員会の設置が有効な対応策とされています。
池田市では前市長のパワハラ問題を受けて、市議会でハラスメント防止条例が全会一致で可決された事例もあります。
今後の展望と課題
横浜市としての対応
久保田人事部長は市に対してパワハラ調査の実施を求めています。横浜市がこれにどう対応するかが注目されます。第三者委員会の設置や独立した調査の実施が求められる可能性があります。
市長の説明責任
山中市長は再選を果たしたばかりであり、市民から負託を受けた立場です。今回の告発に対して、直接説明する責任があります。事実関係の確認と、仮に問題があった場合の改善策の提示が求められます。
公益通報者保護の観点
兵庫県の事例を踏まえ、今回の告発者である久保田人事部長が不利益な取り扱いを受けないよう注視する必要があります。公益通報者保護法の趣旨に沿った対応が、横浜市の姿勢を示すことになります。
まとめ
横浜市の久保田人事部長による山中市長への告発は、現職幹部が首長を実名で告発するという異例の事態です。「人間のクズ」「死ねよ」といった暴言や、深夜の業務連絡、物を投げつけるなどの行為が告発されています。
市長側は報道内容を否定していますが、音声録音も公開されており、事実関係の解明が急務です。2025年の兵庫県知事問題で公益通報者保護の重要性が改めて認識された今、横浜市の対応が問われています。
372万人の人口を擁する政令指定都市の首長に対する告発だけに、今後の展開は全国の自治体運営にも影響を与える可能性があります。
参考資料:
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