イオン、クスリのアオキと提携解消―ガバナンス対立の構図

by nicoxz

はじめに

イオンは2026年1月9日、クスリのアオキホールディングス(HD)との業務提携を解消したと発表しました。両社は2003年から20年以上にわたり提携関係を築き、イオンのプライベートブランド(PB)商品の供給などで協力してきましたが、企業統治をめぐる姿勢の違いが決定的な対立を生みました。

この提携解消の背景には、香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」によるアクティビスト活動と、イオンがツルハHDとウエルシアHDを統合して進めるドラッグストア再編戦略があります。本記事では、提携解消の経緯と今後の業界動向を詳しく解説します。

提携解消に至った経緯

オアシス・マネジメントの台頭

クスリのアオキをめぐる対立の発端は、香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」が2025年9月に筆頭株主(保有比率11.12%)となったことにあります。オアシスは「物言う株主」として知られ、ドラッグストア業界に対して積極的な再編提案を行ってきました。

オアシスはクスリのアオキの企業統治に重大な欠陥があると主張し、創業家である青木兄弟(社長の青木宏憲氏と副社長の青木貴憲氏)に対して約72億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を提起しました。訴訟の焦点は、両氏に対して市場価格の99%以上のディスカウント率で発行されたストックオプションであり、行使されれば既存株主の持分が11%希薄化する可能性があるとされています。

イオンとクスリのアオキの対立構造

イオンは2025年12月1日、ツルハHDとウエルシアHDの経営統合を完了させ、ツルハHDを連結子会社としました。この結果、イオングループ全体のクスリのアオキHDに対する議決権比率は約15%に達し、クスリのアオキは会計上イオンの持分法適用関連会社となる見込みでした。

しかし、クスリのアオキ側は独立路線を重視し、イオンに対して議決権比率の引き下げを一方的に要求しました。さらに、クスリのアオキの社外取締役を務めていたイオンの岡田元也会長に対して退任を求めるなど、関係は急速に悪化しました。

ガバナンス問題への懸念

イオンは提携解消の理由として、クスリのアオキのガバナンス姿勢が「社会的責任や透明性のある経営に関するイオンの理念と相いれない」と明言しました。具体的には以下の問題を指摘しています。

まず、クスリのアオキが東証スタンダード市場への市場区分変更を申請したことについて、株主への説明が不十分であると批判しました。プライム市場からスタンダード市場への変更は、流動性や情報開示の基準が低くなることを意味し、株主にとって重大な影響があります。

また、臨時株主総会の招集基準日を設定しながら、付議予定の議案内容を明らかにしないまま開示したことも問題視されました。イオンはこうした一連の対応が株主への説明責任を欠いていると判断し、提携継続は自社株主にとってリスクであると結論づけました。

イオンのドラッグストア再編戦略

ツルハ・ウエルシア統合の意義

イオンは2025年12月1日、ツルハHDとウエルシアHDの経営統合を完了させました。この統合により、売上高2兆3000億円超、店舗数3000以上という国内最大規模のドラッグストアチェーンが誕生しました。

ツルハHDは北海道・東北・中四国地域に強みを持ち、ウエルシアHDは関東・関西地域での展開が中心であるため、出店エリアが相互補完的です。イオンは統合後6年間で売上高3兆円、営業利益率7%、営業利益額2100億円という中長期目標を掲げています。

シナジー創出の計画

統合によるシナジーは商品調達、物流、食品、サプライチェーン、間接コスト、店舗開発などの領域で期待されています。3年後には500億円のシナジー創出を目指しており、1店舗あたりの収益性を高める戦略です。

イオンはスーパーなど食品小売り、ドラッグストアを中心とするヘルス&ウエルネス、ショッピングモールを手掛けるデベロッパー・エンターテインメントの3つを主軸に据える複合経営戦略を進めています。今後3分野で収益全体の7割を稼ぐ体制を築き、得た利益は海外投資に振り向ける計画です。

クスリのアオキとの提携は「誤算」

イオンはドラッグストア再編を加速する中で、クスリのアオキとの提携も強化する方向で検討していたと見られます。しかし、オアシス・マネジメントの株主行動を契機に、クスリのアオキ経営陣が独立路線を鮮明にしたことで、イオンの戦略は「誤算」を迎えました。

現時点でイオンはクスリのアオキHD株式の10.2%を保有していますが、この株式の扱いは保留となっています。今後、株式を売却するのか、あるいは別の形で関係を再構築するのかが注目されます。

クスリのアオキの今後

独立路線の維持

クスリのアオキは創業家主導の経営を維持し、イオンなど大手小売グループの傘下に入らない独立路線を貫く姿勢を示しています。しかし、オアシス・マネジメントが提案した社長・副社長の解任案は2024年の株主総会で否決されており(賛成率は17%前後)、現経営陣は一定の支持を得ています。

一方で、東証スタンダード市場への市場区分変更申請は、市場からの監視が緩くなることを意味し、ガバナンス改革への意欲に疑問符が付く動きとも言えます。

ガバナンス改革の課題

クスリのアオキは2023年12月に任意の指名報酬委員会を設置し、コーポレートガバナンスの充実を図るとしています。しかし、オアシスが指摘したストックオプションの問題や、社外取締役への事前説明が不十分だったとされる取締役会の運営など、改善すべき課題は多く残されています。

イオンが提携を解消したことで、クスリのアオキは資本面での支援や商品調達でのメリットを失う可能性があります。独立を維持するためには、自力での成長戦略と透明性の高いガバナンス体制の構築が不可欠です。

注意点と展望

ドラッグストア業界の再編圧力

ドラッグストア業界では規模の経済を追求するM&Aが活発化しており、独立系企業は厳しい競争環境に置かれています。イオン・ツルハ・ウエルシア連合の誕生により、クスリのアオキは業界3位から脱落し、規模の差がさらに拡大することが予想されます。

今後、クスリのアオキが独立を維持できるかは、地域密着戦略や独自のサービス展開にかかっています。また、オアシス・マネジメントをはじめとする株主との対話を深め、ガバナンス改革を進めることも重要な課題です。

イオンの株式売却の可能性

イオンが保有するクスリのアオキHD株式10.2%の扱いは今後の焦点となります。提携解消を発表した以上、株式を保有し続ける理由は乏しく、売却される可能性が高いと見られます。

ただし、大量の株式を市場で一度に売却すれば株価に悪影響を与えるため、段階的な売却や第三者への譲渡など慎重な対応が求められます。売却先として、オアシス・マネジメントや他の投資ファンドが取得する可能性も考えられます。

まとめ

イオンとクスリのアオキHDの業務提携解消は、企業統治をめぐる価値観の違いと、ドラッグストア業界の再編圧力が交錯した結果です。オアシス・マネジメントの株主行動が対立を表面化させ、イオンは「ガバナンス姿勢が相いれない」として提携を断ち切る決断をしました。

イオンはツルハHDとウエルシアHDの統合により、売上高3兆円を目指す巨大ドラッグストアチェーンの構築を進めています。一方、クスリのアオキは独立路線を貫くものの、ガバナンス改革と自力での成長戦略が問われる局面を迎えています。

今後の注目点は、イオンが保有する株式の扱いと、クスリのアオキが独立企業として競争力を維持できるかどうかです。ドラッグストア業界の再編は今後も続くと見られ、各社の戦略から目が離せません。

参考資料:

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