NEXTユニコーン調査で見るLayerXとアスエネの成長戦略
はじめに
日本のスタートアップ市場が転換期を迎えています。日本経済新聞が毎年実施する「NEXTユニコーン調査」の2025年度版では、企業価値500億円以上1500億円未満の「ユニコーン予備軍」が減少傾向にあることが明らかになりました。
国内での資金調達環境が厳しさを増す中、成長を続ける企業には共通点があります。それは、海外投資家からの資金獲得や積極的なM&A(合併・買収)など、グローバルな視点での戦略展開です。
本記事では、この調査で注目を集めたLayerX(レイヤーX)とアスエネの2社に焦点を当て、それぞれの成長戦略と日本のスタートアップ市場への示唆を解説します。
LayerX:米名門VCから日本初の投資を獲得
150億円の大型調達とTCVの参入
LayerXは2025年9月、シリーズBラウンドで総額150億円の資金調達を実施しました。この調達でリード投資家を務めたのが、米国の名門ベンチャーキャピタルであるTCV(Technology Crossover Ventures)です。
TCVは、Netflix、Spotify、ByteDance、Revolut、Toastなど、世界を代表するテクノロジー企業への投資実績を持つグロース・エクイティ投資家です。注目すべきは、このLayerXへの投資がTCVにとって日本のスタートアップへの初めての投資案件だったという点です。
TCVは投資にあたり「LayerXは、日本の企業におけるファイナンス業務のあり方を大きく変革している。AIネイティブなプラットフォームにより、手作業の負担を大幅に削減するだけでなく、経理・財務部門にこれまでにない透明性・スピード・コンプライアンスを提供している」とコメントしています。
AIを活用したバックオフィスの変革
LayerXは2018年に創業し、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げています。主力プロダクトの「バクラク」は、経費精算、稟議、法人カード、請求書処理、勤怠管理といったバックオフィス業務を一元管理・自動化できるクラウドサービスです。
累計導入企業数は1万5000社を超え、AIを活用した業務効率化で着実に実績を積み上げています。特に、請求書のデータ入力や経費精算の自動化において、高い精度を実現していることが評価されています。
野心的な成長目標
LayerXは調達した資金を活用し、2030年度までにARR(年間経常収益)1000億円を目指す計画を発表しています。内訳として、AIエージェント事業で500億円の売上を想定しており、2028年度までに従業員数を1000人体制に拡大する方針です。
福島良典CEOは「SaaSは死なない」「AI時代だからこそ人を採る」と語り、AI技術の進化を追い風にしながらも、人材への投資を重視する姿勢を明確にしています。調達資金は、エンジニアを中心とした人材採用強化に充てられる予定で、将来的には世界でも競争力のある報酬体系の実現を目指しています。
アスエネ:積極的なM&Aでグローバル展開を加速
脱炭素テックのリーディングカンパニー
アスエネは2019年創業の気候テック(クライメートテック)スタートアップです。GHG(温室効果ガス)排出量算定ツール「ASUENE」を中心としたサービスを展開し、累計導入社数は国内トップの2万8000社以上に達しています。
創業者の西和田浩平CEOは、三井物産で日本・米州・欧州の脱炭素・再生可能エネルギー分野における投資・M&A・海外事業開発を担当した経験を持ちます。この経験が、アスエネのM&A主導の成長戦略の基盤となっています。
2025年に相次ぐ大型M&A
アスエネは2025年だけで複数の重要なM&Aを実行しました。5月には米国のクライメートテック企業「NZero」を買収し、7月には三井住友銀行が提供するGHG排出量算定クラウドサービス「Sustana」の事業承継を完了しました。さらに9月には、GHG排出量可視化とメタン漏洩管理SaaSを提供する米国企業「Iconic Air」も傘下に収めています。
特に注目されたのが、三井住友銀行の「Sustana」買収です。大企業が開発した事業をスタートアップが買収するという珍しい構図で、この取引を通じてSMBCはアスエネの株式の1割強を保有する大株主となりました。スタートアップとメガバンクの協業モデルとして、業界内で大きな話題を呼びました。
トランプ政権下での逆張り戦略
アスエネの海外M&A戦略には、明確な時代認識があります。トランプ政権の誕生により、米国のクライメートテックスタートアップは資金調達が厳しくなっています。アスエネはこの状況を「千載一遇のチャンス」と捉え、割安になった米国企業の買収を積極的に進めています。
累計115億円の資金調達を実施し、6件のM&Aを完了したアスエネは、現在6カ国に拠点を展開しています。今後は売上の5割以上を海外で獲得することを目標に掲げ、日本と海外の両方でM&Aを推進する方針です。
日本のスタートアップ市場が抱える構造的課題
ユニコーン予備軍の減少
日本経済新聞の調査によると、企業価値500億円以上でユニコーン(1500億円超)への成長が視野に入った有力企業は2025年9月時点で11社にとどまり、前年比3社減の3年ぶり低水準となりました。
背景には、新規株式公開(IPO)による投資回収の難易度上昇があります。国内では上場後の株価低迷が続くケースが多く、VCにとってリターンを確保しにくい環境となっています。結果として、投資先の選別が厳しくなり、資金調達環境が悪化しています。
米国との格差
2021年時点のデータでは、日本のスタートアップがVCから調達した資金の総額は90億ドルでした。一方、米国は1280億ドル、中国は1300億ドルと、10倍以上の差があります。
また、イグジット戦略にも大きな違いがあります。日本ではIPOとM&Aの比率が8対2程度であるのに対し、米国は3対7とM&Aが主流です。日本では上場のハードルが比較的低いため、成長途上での上場を選ぶ企業が多く、結果としてユニコーンになる前に上場してしまう傾向があります。
グローバル戦略が成長の鍵に
海外資金・海外市場へのアクセス
LayerXとアスエネに共通するのは、国内市場だけに依存しないグローバルな視点です。LayerXは米国の名門VCからの資金獲得により、グローバルな信用力と成長資金を得ました。アスエネはM&Aを通じて海外市場に直接進出し、売上基盤を多角化しています。
政府もこうした動きを支援しています。経済産業省の「グローバル・スタートアップ創出支援事業」では46億円の予算を計上し、海外からの資金調達や国内外での事業拡大が可能なユニコーン級スタートアップの創出を支援しています。
2027年ユニコーン100社の目標達成に向けて
政府は「スタートアップ育成5か年計画」で、2027年までにユニコーン企業を100社程度に増やす目標を掲げています。現状の日本のユニコーン数は3社にとどまっており、目標達成には大幅な加速が必要です。
LayerXやアスエネのような企業の成功事例が増えることで、海外投資家の日本市場への関心が高まる好循環が期待されます。TCVの日本初投資は、その第一歩として注目に値します。
まとめ
日本のスタートアップ市場は厳しい環境にありますが、LayerXとアスエネの事例は、グローバル戦略が成長の突破口になることを示しています。
LayerXは米国名門VCからの大型調達で、SaaS×AIの分野で世界水準の成長を目指します。アスエネは積極的なM&Aにより、脱炭素分野でグローバルプレイヤーとしての地位を確立しつつあります。
国内市場の限界を超えるためには、海外の資金や市場へのアクセスが不可欠です。両社の戦略は、今後の日本のスタートアップにとって重要な参考事例となるでしょう。
参考資料:
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