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by nicoxz

日本のユニコーン予備軍が3年ぶり低水準、選別が加速

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はじめに

国内スタートアップ企業の成長が踊り場を迎えています。日本経済新聞の調査によると、推計企業価値が500億円を上回り、1500億円超のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)への到達が視野に入った有力企業の数は2025年9月時点で11社となりました。前年比3社減で、3年ぶりの低水準です。

新規株式公開(IPO)による投資回収の難易度が上がり、企業の選別が進んでいます。東京証券取引所が「上場ゴール」を防ぐため上場維持基準を厳しくする方針を打ち出したことが背景にあります。

本記事では、日本のユニコーン企業の現状、IPO審査の厳格化、そして海外マネーを活用した成長戦略について解説します。

日本のユニコーン企業の現状

世界との差が拡大

日本のユニコーン企業数は2025年3月時点で9社にとどまっています。世界全体では約1300社のユニコーン企業が存在しており、その大半は米国と中国に集中しています。日本のシェアは1%にも満たない状況です。

日本政府は「スタートアップ創出元年」を宣言し、「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。5年後のスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、将来的にユニコーン企業100社、スタートアップ企業10万社の創出を目指しています。しかし、2023年のスタートアップへの投資額は約7500億円と前年とほぼ横ばいで、目標達成への道のりは険しいといえます。

主要なユニコーン企業

現在、日本の主なユニコーン企業には以下があります。

Preferred Networks(推計企業価値約2838億円)は、機械学習や深層学習などの人工知能技術の研究開発と実用化を行い、自動運転、ロボット、バイオ・ヘルスケア、製造業など幅広い分野で事業を展開しています。

スマートニュース(推計企業価値約2838億円)は、独自のアルゴリズムでユーザーの好みに合わせたニュースを配信するアプリ「SmartNews」を運営しています。

SmartHR(推計企業価値約2270億円)は、クラウド型の人事労務ソフトを提供し、登録企業数は5万社を超えています。煩雑な人事労務業務のデジタル化・自動化を支援しており、同業態で4年連続シェアNo.1を誇っています。

IPO審査の厳格化が選別を加速

東証グロース市場の改革

東京証券取引所は2022年4月の市場区分見直し以降、上場維持基準の未達企業に適用してきた経過措置を2025年3月で終了しました。これにより、本来の上場維持基準が厳格に適用されるようになっています。

さらに東証は、グロース市場が「高い成長を目指す企業が集う市場」となるよう、2030年から上場維持基準のさらなる見直しを行う方針を示しています。機関投資家の投資対象となり得る規模への早期成長を促すとともに、企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する狙いがあります。

IPO件数の急減

新興企業のIPOが急減しています。東証グロース市場の新規上場は2025年4〜9月に9社と、前年同期より7割減少しました。「上場ゴール」を防ぐための審査厳格化により、選別が効き始めた形です。

市場の活性化につながれば海外マネーを呼び込みやすくなるという期待がある一方、短期的にはスタートアップの資金調達環境が厳しくなる側面もあります。

「スモールIPO」文化からの脱却

日本でユニコーン企業が生まれにくい背景には、スタートアップが成長途上で早期に上場する「スモールIPO(小規模な新規株式公開)」を目指す文化が影響しているとされています。

「未上場」かつ「評価額10億ドル以上」という条件を満たすには、ベンチャーキャピタルからの多額の出資が必要ですが、日本はベンチャーキャピタルの数が圧倒的に少ないという課題があります。

海外マネーに活路を求める動き

海外VCの日本市場進出が加速

海外のベンチャーキャピタル(VC)による日本市場への進出が加速しています。2025年5月現在、シリコンバレー発のVCから東南アジアの新興ファンドまで、様々なプレイヤーが日本のスタートアップエコシステムに注目しています。

海外VCが日本に関心を持つ背景には、日本政府によるスタートアップ支援策の強化や、グローバル市場での日本企業の技術力への再評価があります。また、米国市場の過熱感や中国市場の不確実性が高まる中、安定した法制度と高い技術力を持つ日本市場の相対的な魅力が増しています。

政府・行政の取り組み

東京都は「Global Innovation with STARTUPS」戦略に基づき、東京発ユニコーン数を5年で10倍、東京の起業数を5年で10倍を目指す「10×10×10のイノベーションビジョン」を掲げています。

経済産業省は2025年9月末までに、投資家が新興企業と結ぶ契約のガイドラインを改定しました。IPOの努力義務を課す日本固有の慣行を改め、M&A(合併・買収)も投資回収の選択肢に含めるよう促しています。これにより、海外VCが日本のスタートアップに投資しやすい環境を整備しています。

具体的な動き

2025年4月、シリコンバレー発のPlug and Play Japanが「Plug and Play Japan Fund I」を設立し、総額50億円規模のファンド運用を目指しています。三菱UFJ銀行や中小企業基盤整備機構などの日本の主要機関からも出資を受けました。

ジェトロも海外プレシード投資家・アクセラレーター誘致に加え、シリーズA調達済スタートアップ向けの資金調達・海外展開支援を新たにスタートしています。

ユニコーン予備軍の注目分野

AI・SaaSが2大分野

日本における最近のユニコーン予備軍には「AI」と「業務用SaaS」が2大分野として注目されています。

AIの注目株には、Edtechの「atama plus」やAI契約審査プラットフォームを運営する「LegalForce」などがあります。業務用SaaSの注目株には、マニュアル作成・共有システムを提供する「スタディスト」などが挙げられます。

新素材・宇宙分野も成長

「新素材」「食品・ヘルスケア」「宇宙」分野においても著しい成長が見られます。民間企業による無人月面着陸を目指す宇宙系スタートアップ「ispace」は2020年から大きく評価額を増やしました。プラスチックの代替素材となるLIMEX(ライメックス)を開発した素材系スタートアップ「TBM」も評価を伸ばしています。

注意点・今後の展望

投資市場の調整局面

投資市場全体を見ると、2025年はコロナ以降続いた「スタートアップ・バブル」の調整局面が終わり、より実質的な事業価値と筋肉質な経営が求められるフェーズに入ったとされています。

2026年は、AIやディープテック、グローバル展開など、特定の強みを持つスタートアップがより高く評価される傾向が強まると見込まれています。選別度合いは強くなっていますが、確かな技術力や事業モデルを持つ企業にとってはVCからの資金調達は引き続き有力な選択肢となります。

グローバル展開の重要性

AIの発展を背景に、国境を越えて成長するサービスがこれまで以上に増えていくと予想されています。日本発のサービスが海外へ展開するだけでなく、海外発の優れたAIプロダクトが日本市場に流入する動きも一層強まるでしょう。

ユニコーンを目指すスタートアップにとっては、創業初期からグローバル市場を視野に入れた事業戦略が不可欠になりつつあります。

PE課税特例の見直し

国内VCが海外投資家からのLP出資を受け入れるにあたり、PE(恒久的施設)課税特例の要件・手続きが課題として指摘されています。諸外国とのレベルプレイングフィールドを確保するため、特例の要件や手続き等について見直しが検討されています。

まとめ

日本のユニコーン予備軍が11社に減少し、3年ぶりの低水準となったことは、スタートアップエコシステムの転換点を示しています。東証のIPO審査厳格化により「上場ゴール」型の企業は淘汰され、真に成長力のある企業が選別されるフェーズに入りました。

一方で、海外VCの日本進出が加速し、政府も投資環境の整備を進めています。AI、SaaS、宇宙、新素材といった分野で技術力を持つスタートアップには、海外マネーを活用した成長の道が開かれています。

ユニコーン企業100社という政府目標の達成には課題が山積していますが、厳しい選別を経て生き残った企業が日本のイノベーションを牽引していくことが期待されます。

参考資料:

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