米代替関税15%へ引き上げ迫る、ベッセント長官が今週中を示唆
はじめに
米国のスコット・ベッセント財務長官は2026年3月4日、現在10%に設定されている代替関税を15%に引き上げる時期について「おそらく今週中」と発言しました。この代替関税は、2月20日に連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を違憲と判断したことを受けて、トランプ政権が急きょ発動した措置です。
1974年通商法第122条という、これまで一度も関税賦課に使われたことのない法的根拠を持ち出した異例の対応であり、150日間の時限措置という制約もあります。本記事では、代替関税の15%引き上げの背景、最高裁判決の経緯、そして日本をはじめとする各国への影響について詳しく解説します。
最高裁判決とIEEPA関税の終焉
Learning Resources事件の判決内容
2026年2月20日、米連邦最高裁判所は「Learning Resources, Inc. v. Trump」事件において、6対3の多数意見でIEEPAに基づく関税の違憲性を認定しました。ジョン・ロバーツ最高裁長官が執筆した多数意見には、ソトマイヨール、ケーガン、ゴーサッチ、バレット、ジャクソンの各判事が賛同しています。
判決の核心は、IEEPAの「輸入を規制する」という文言が関税の賦課を含まないという解釈にあります。最高裁は、関税を課す権限が合衆国憲法第1条に基づく「課税権」の一部であり、連邦議会に帰属するものであると明確に判示しました。IEEPAの条文には「関税」や「税」への言及が一切なく、「規制する(regulate)」という語は一般的な用法でも議会の用法でも「課税する」ことを意味しないと結論づけています。
IEEPA関税の撤廃までの流れ
トランプ大統領は2025年2月にIEEPAを法的根拠としてカナダ、メキシコ、中国への関税を発動し、同年4月には「解放の日」と称する全世界的な相互関税を実施していました。最高裁判決を受けて、IEEPA関税は2026年2月24日午前0時(東部時間)をもって全面的に終了しました。
この判決により、ほぼすべての国に10%の基本税率、特定の国々にはさらに高い税率が課されていた相互関税体制は崩壊しました。しかし、トランプ政権は判決からわずか数時間後に代替措置を発表し、関税政策の維持を図っています。
1974年通商法第122条と代替関税の仕組み
第122条の法的枠組み
最高裁判決を受けたトランプ政権は、1974年通商法第122条(19 USC 2132)を新たな法的根拠として選択しました。この条項は「国際収支上の基本的な問題」に対処するため、大統領に最大15%の一時的な輸入付加税を課す権限を認めています。
ホワイトハウスが発表したファクトシートでは、米国の1.2兆ドルに達する物品貿易赤字、2024年に初めてマイナスとなった第一次所得収支、そしてGDP比マイナス90%に達する対外純投資ポジションを、「深刻な国際収支問題」の根拠として挙げています。
注目すべきは、第122条がこれまで関税の賦課に使用されたことが一度もない点です。これは極めて異例の法的手段であり、今後法的挑戦を受ける可能性も指摘されています。
10%から15%への段階的引き上げ
代替関税は2026年2月24日午前0時1分から10%の税率で発効しました。トランプ大統領はその翌日のTruth Socialへの投稿で、第122条が認める上限の15%まで引き上げる意向を早くも表明していました。
ベッセント財務長官は3月4日のCNBCのインタビューで、15%への引き上げが「おそらく今週中」に実施されると述べ、この措置を「橋渡し(ブリッジ)」と位置づけています。同時に、「5か月以内に関税率は以前の水準に戻るだろうと強く確信している」とも発言しました。この発言は、150日間の時限措置の期間内に、より恒久的な関税措置へ移行する計画を示唆するものです。
150日間の期限と今後のシナリオ
第122条に基づく措置は最長150日間に限定されており、2026年7月24日が期限となります。期限の延長には議会の承認が必要です。この設計は、議会が「一時性」をデフォルトとして意図的に定めたものであり、大統領の関税権限に対する制約を組み込んでいます。
米通商代表部(USTR)と商務省は、この150日間を利用して通商法第301条などに基づく新たな調査を完了させ、より恒久的な関税措置を整備する方針です。一方で、措置失効後に新たな国際収支上の緊急事態を宣言して再度第122条を発動するという手法も理論上は可能とされていますが、これは重大な権力分立上の問題を提起するものです。
各国への影響と国際的な反応
日本:通商合意との複雑な関係
日本は2025年の日米通商合意において、5,500億ドルの対米投資を条件にIEEPA関税を15%に引き下げる取り決めを結んでいました。しかし最高裁判決により、この交渉で得た優遇措置の意味が根本から変化しました。代替関税が全世界一律で適用されるため、日本は「他国と同じ待遇を受けるために対価を支払った」状況に陥っています。
ただし、ベッセント長官が15%への引き上げを示唆していることは、結果的にIEEPA時代の日本向け税率と同水準に戻ることを意味します。日本の通商担当大臣とハワード・ラトニック米商務長官は電話会談で、昨年の通商合意を「誠実に遅滞なく」履行することを確認しています。
自動車産業への影響は深刻で、日本の主要自動車メーカー7社の2026年3月期の営業利益は前期比36.3%の減少が見込まれ、関税の影響額は合計約2.7兆円に達すると試算されています。
EU:10%据え置きの保証を獲得
EUは代替関税の15%引き上げからの除外を期待しており、米国側から10%の税率を維持するとの保証を受けたと報じられています。これは2025年夏に締結されたEU・米国通商合意に基づくものですが、2026年1月にはトランプ大統領のグリーンランド要求に抗議して欧州議会がこの合意の承認を一時停止しており、両者の関係は不安定な状態が続いています。
中国:短期的な恩恵と長期的な警戒
中国にとって、最高裁判決は一定の恩恵をもたらしました。IEEPA下では20%の関税が課されていたのに対し、第122条では15%(現時点では10%)に低下したためです。ただし、2018年以来の貿易戦争で平均約25%の関税を既に負担しており、根本的な改善とは言えません。中国商務省は一方的な関税引き上げに一貫して反対する立場を表明し、報復措置の可能性も警告しています。
注意点・展望
代替関税をめぐる今後の見通しには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、第122条そのものの合法性が今後争われる可能性があります。国際収支問題を根拠とする関税措置が適切かどうかについて、新たな法的挑戦が提起されることも十分に考えられます。第122条は「一律適用」が原則であり、特定の国を対象にした差別的措置は認められていないため、EU除外などの運用は法的整合性が問われるかもしれません。
次に、150日間の期限が近づくにつれて、議会の対応が焦点となります。議会が延長を承認するかどうかは不透明であり、延長が認められない場合、7月24日以降の関税政策に大きな空白が生じるリスクがあります。
また、IEEPA関税として既に徴収された関税の返還問題も未解決です。最高裁は関税が「当初から無効」であると判示していますが、具体的な救済措置には言及しておらず、輸入業者への払い戻しの行方は今後の訴訟に委ねられています。
まとめ
ベッセント米財務長官が示した代替関税15%への引き上げは、最高裁のIEEPA違憲判決を受けたトランプ政権の関税政策の再構築における重要な一手です。1974年通商法第122条という過去に使用例のない法的根拠に基づく150日間の時限措置であり、その間により恒久的な関税体制を整備するための「橋渡し」として位置づけられています。
日本企業やグローバルなサプライチェーンに関わる方々は、今週中にも実施される15%への引き上げの具体的な時期と適用範囲、EUなどへの除外措置の詳細、そして7月24日の期限に向けた米国議会の動向に注視する必要があります。米国の通商政策は流動的な状況が続いており、最新情報の継続的な確認が不可欠です。
参考資料:
- Bessent says global 15% tariff starts this week - CNBC
- Supreme Court strikes down tariffs - SCOTUSblog
- Supreme Court Strikes Down IEEPA Tariffs - Holland & Knight
- IEEPA Tariffs Terminated, Replacement Section 122 Tariffs Take Effect - Covington
- Section 122 as a Replacement for the IEEPA Tariffs - WorldTradeLaw
- EU Expects to Be Exempt from US Universal Tariff Boost to 15% - Bloomberg
- New US Tariffs, Same Problems for Japan, South Korea, and Taiwan - The Diplomat
- The Supreme Court Got It Right on IEEPA - Cato Institute
- China warns of retaliation as Trump unveils new tariff plan - Asia Times
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