大手ブランドに若者離れの兆候、世代間ギャップの実態
はじめに
日本を代表する強力なブランドの一部に、若年層での評価低下という意外な兆候が現れています。日経BPコンサルティングが発表した「ブランド・ジャパン2026」調査では、全世代で高いブランド力を持つ製品やサービスが、20代以下の世代では大きく順位を落とすケースが確認されました。
ブランド力の世代間ギャップは、企業の採用活動や将来的な市場拡大に直結する重要な経営課題です。本記事では、調査結果の背景にあるZ世代の消費行動の変化と、企業が取るべきブランド戦略について解説します。
ブランド・ジャパン2026が映し出す世代間ギャップ
26年目を迎えた国内最大級のブランド調査
「ブランド・ジャパン」は、日経BPコンサルティングが毎年実施するブランド価値評価プロジェクトです。26年目となる2026年版は、2025年11月に約5万8,000人の一般生活者とビジネスパーソンを対象に実施されました。
2026年版の一般生活者編では、サントリーが「総合力」ランキングで初の首位を獲得し、87.4ポイントのスコアを記録しました。前回の25位から24ランクアップという大躍進です。YouTube、ダイソー、パナソニック、無印良品がトップ5に入り、チキンラーメンやロピアといったブランドも上昇ランキングの上位に名を連ねています。
全世代と若年層で大きく異なる評価
注目すべきは、全世代と20代以下で大きな順位差が生じているブランドの存在です。トヨタ自動車は全世代では26位と高い評価を得ていますが、20代以下に限定すると149位まで順位が下がります。
こうした世代間ギャップは、ブランドの将来的な競争力を考える上で見過ごせない警告シグナルです。現在の主力顧客層における強さが、次世代の顧客獲得を保証するわけではないことを示しています。
Z世代の消費行動はなぜ違うのか
「リキッド消費」の台頭
Z世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)の消費行動には、従来の世代と異なる特徴があります。その一つが「リキッド消費」と呼ばれる流動的な消費パターンです。
インテージの調査によると、Z世代にあたる15〜24歳では、ブランドへの興味が流動的に変化する「リキッドクラスター」が約4割を占めています。特定のブランドに長期的なロイヤルティを持つのではなく、そのときどきの体験価値やストーリーに共感して消費を行う傾向が強いのです。
モノからコト・トキへの価値観シフト
Z世代は「モノ消費」よりも「コト消費」(体験の消費)や「トキ消費」(仲間と特別な時間を共有する消費)を重視します。ブランド品を所有すること自体よりも、そのブランドがどのような体験や共感を提供してくれるかが選択基準となっています。
デロイト トーマツの「国内Z世代意識・購買行動調査」でも、Z世代は環境負荷低減を目的とした認証ラベルや具体的なサステナビリティの取り組みに注目する割合が増加しています。企業の社会的責任や透明性が、ブランド選択の重要な要素になっているのです。
情報接点の根本的な変化
Z世代のブランドとの接点は、テレビCMや新聞広告からSNSやYouTubeへと大きくシフトしています。ブランド・ジャパン2026でYouTubeが総合力2位にランクインしていることは、デジタルプラットフォーム自体がブランドとして高い評価を得ている現状を反映しています。
企業側から一方的に発信されるブランドメッセージよりも、インフルエンサーの推薦や口コミ、実際のユーザー体験といった双方向のコミュニケーションが信頼されやすい傾向にあります。
企業が直面する課題と対応策
採用活動への影響
ブランド力の世代間ギャップは、採用活動にも直接的な影響を及ぼします。若年層にブランドが浸透していなければ、就職先の選択肢として認知されにくくなります。人手不足が深刻化する中で、優秀な若手人材の確保はすべての企業にとって最重要課題の一つです。
Z世代が企業を「応援したいと思わない」理由として、「情報開示されていない」「理解できない」という回答が上位に挙がっているのは示唆的です。企業の事業内容やビジョンがZ世代に伝わっていない可能性があります。
自動車業界に見るブランド戦略の転換
トヨタは「安心・信頼」のブランドイメージで長年高い評価を得てきましたが、若年層ではデザインや先進性を重視するユーザーが多く、従来の訴求だけでは響かなくなっています。
自動車業界全体では、10〜20代の運転免許保有者数がここ10年で1割以上減少しています。一方で、将来的にクルマがほしいという意向を持つZ世代は都市部で7割、地方で8割と高い水準にあり、「クルマ離れ」は単純な需要減退ではなく、購入体験やサービスのあり方に対する不満の表れとも読み取れます。
トヨタのサブスクリプションサービス「KINTO」や、Z世代向けの「クルマの進路相談室」企画など、所有ではなく利用を起点とした新しい接点づくりが始まっています。
サントリー躍進に学ぶブランド刷新のヒント
ブランド・ジャパン2026で首位に立ったサントリーの事例は、ブランド戦略の転換に成功したモデルケースと言えます。サントリーは「イノベーティブ(革新性)」と「コンビニエント(利便性)」の評価が急上昇し、「フレンドリー(親和性)」ランキングでも1位を獲得しました。
世代を問わず支持されるブランドの条件として、親しみやすさと革新性の両立、日常的な利便性の提供、そして消費者との情緒的なつながりの構築が重要であることを示しています。
まとめ
ブランド・ジャパン2026の調査結果は、全世代で強いブランドが必ずしも若年層で支持されているわけではないという現実を浮き彫りにしました。Z世代の消費行動は「所有」から「体験」へ、「一方通行の訴求」から「双方向の共感」へと変化しています。
企業にとって重要なのは、従来のブランド資産に安住するのではなく、次世代の消費者が何を求めているかを理解し、コミュニケーション手法や提供価値を柔軟に見直すことです。ブランドの世代間ギャップを放置すれば、将来の市場シェアと人材確保の両面でリスクとなり得ます。
参考資料:
関連記事
トヨタ「チームサラマッポ」に学ぶ外国人定着の新戦略
トヨタ自動車の元町工場で始まったフィリピン人従業員の定着策「チームサラマッポ」。製造業の深刻な人手不足に対応する外国人活用の最前線と、多文化共生の具体策を解説します。
サーティワンが35年ぶりにロゴ刷新、大人層開拓の狙い
B-Rサーティワンアイスクリームが35年ぶりにロゴを全面リニューアル。グラデーションを採用した新デザインで大人や男性層への客層拡大を狙います。ブランド戦略の背景と今後の展望を解説します。
トヨタが5.9兆円TOBで始めるグループ大再編の全貌
豊田自動織機のTOBが成立し、日本企業同士で過去最大の5.9兆円規模の資本再編が実現しました。トヨタグループ再構築の狙いと今後の課題を解説します。
豊田自動織機TOB成立 国内最大5.9兆円買収の全容
トヨタグループによる豊田自動織機のTOBが成立し、買収総額は国内M&A最大の約5.9兆円に。エリオットとの攻防、2度の価格引き上げの経緯、非公開化の狙いを詳しく解説します。
トヨタが米2工場に1600億円投資の狙い
トヨタ自動車が米ケンタッキー州とインディアナ州の2工場に総額10億ドルを投資。EV新車種の生産準備とHV増産を同時に進めるマルチパスウェイ戦略の全貌を解説します。
最新ニュース
アクティビストの標的が変化、還元から再編へ
割安株の減少でPBR1倍超え企業も標的に。アクティビストの投資戦略が株主還元から事業再編へとシフトする背景と今後の展望を解説します。
アームが初の自社製チップ発表、AI半導体市場に本格参入
ソフトバンクグループ傘下の英アームが35年の歴史で初めて自社製チップ「AGI CPU」を発表。メタやOpenAIを顧客に迎え、5年で年間150億ドルの売上を目指す戦略転換の全容を解説します。
Armが半導体自前開発に参入、AI向けCPUで事業転換
ソフトバンク傘下の英Armが35年間のIPライセンスモデルを転換し、自社開発チップ「AGI CPU」でメタやオープンAIにAI半導体を直接供給する戦略の背景と影響を解説します。
イビデン大幅続伸の背景と半導体銘柄上昇の全貌
2026年3月25日、イビデンが特別利益491億円の計上発表で大幅続伸。半導体関連銘柄が軒並み上昇した背景には、米イラン停戦期待による原油下落と投資家心理の改善がありました。
イラン強硬派「3人組」の実権と米15項目和平案の行方
ハメネイ師亡き後のイランで実権を握る革命防衛隊出身の強硬派3人組と、トランプ政権が提示した15項目の和平案の内容・交渉の行方を詳しく解説します。