中国がレアアース対日輸出規制を発動、EV・電機産業に打撃懸念
はじめに
2026年1月6日、中国商務部は軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出を即日禁止する措置を発表しました。レアアース(希土類)も対象に含まれるとの指摘があり、日本の自動車・電機産業への影響が懸念されています。
日本のレアアース輸入における中国依存度は約60%と依然として高く、特にEV用モーターに使用されるジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類はほぼ100%を中国に依存しています。経済安全保障上の構造的な脆弱性が改めて浮き彫りになっています。
中国の輸出規制の内容
規制の発表
中国商務省は2026年1月6日、「防衛目的で使用される全てのデュアルユース(軍民両用)品の日本向け輸出を即時禁止する」と発表しました。具体的な対象品目リストは明示されていませんが、レアアースを含む幅広い品目が対象になる可能性があります。
規制の背景
中国側は、日本の高市早苗首相が台湾問題に関して「公然と誤った発言を行い、台湾海峡への武力介入の可能性を示唆した」と主張しています。
今回の措置は、台湾問題に関する日本政府の姿勢を牽制する「経済的威圧」の一環とみられています。中国は2010年の尖閣問題や2025年の対米レアアース規制で一定の成果を上げた経験があり、同様の手法を日本にも適用しようとしている可能性があります。
過去の事例
2010年9月、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が発生した後、中国の対日レアアース輸出が事実上停滞する事態が起きました。
また、2025年4月には米国による相互関税への報復措置として、中国政府はジスプロシウムやテルビウムなど7種類のレアアースについて対米輸出管理を強化し、米国の自動車産業に影響が及びました。
レアアースとは
定義と特性
レアアース(希土類)は、周期表上の17元素の総称で、強力な永久磁石や蛍光体、触媒などの製造に不可欠な材料です。「レア」と名付けられていますが、地殻中の存在量は比較的多く、採掘・精製の難しさから「レア」と呼ばれています。
主要な用途
レアアースの代表的な用途は以下の通りです。
- 永久磁石:EV・HVの駆動モーター、風力発電タービン
- 蛍光体:LED照明、液晶ディスプレイ
- 触媒:自動車排ガス浄化、石油精製
- 電池材料:ニッケル水素電池
- 光学ガラス:カメラレンズ、光ファイバー
特に電気自動車(EV)の普及に伴い、駆動モーター用の永久磁石需要が急増しています。
EV用永久磁石への依存
ネオジム磁石は、鉄に加えて約30%のレアアースで構成されています。ネオジムは非常に強力な磁場を発生させ、ジスプロシウムは高温でも磁力を維持する働きがあります。
ハイブリッド車(HV)やEVの駆動用永久磁石式同期モーターには、これらのレアアースが不可欠です。レアアースを使用することで耐熱性が向上し、高い駆動力や発電力を得ることができます。
日本への経済的影響
試算される損失規模
野村総合研究所の試算によれば、レアアース輸出規制が3カ月続くと仮定した場合の生産減少額・損失額は約6,600億円程度で、年間の名目・実質GDPを0.11%押し下げる計算です。
仮に輸出規制が1年間続く事態となれば、損失額は2.6兆円程度、年間GDPの押し下げ効果は-0.43%に達する計算となります。
影響を受ける産業
レアアース規制の影響を最も受けるのは以下の産業です。
- 自動車産業:EV・HVの駆動モーター、排ガス浄化触媒
- 電機産業:産業用モーター、家電製品
- 再生可能エネルギー:風力発電タービン
- 電子機器:スマートフォン、パソコン
特に日本の自動車産業は電動化を加速しており、レアアース調達の安定性は死活問題となります。
サプライチェーンの脆弱性
日本が輸入するレアアースの中国依存度は、2010年の90%から現在は60%程度に低下しました。しかし、精製・加工工程において中国は世界市場の91%を占有しており、採掘地点に関わらず中間加工段階で中国への依存が不可避となる構造が最大の脆弱性です。
日本の対応策
調達先の多様化
日本政府はレアアースの調達先多様化を進めています。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて、フランス企業による重希土類の生産事業に約1億ユーロ(約162億円)を出資し、将来的には国内需要の2割相当の調達が見込まれています。
オーストラリアやベトナム、カザフスタンなどからの調達拡大も検討されています。
国内資源の開発
2026年1月11日には、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」が南鳥島沖EEZ海域において、世界初となる深海レアアース泥の試掘を開始する予定です。
南鳥島周辺EEZ海底には、国内需要の数百年分に相当するレアアースの埋蔵量が確認されています。商業化までには技術的課題がありますが、長期的な資源確保の観点から期待されています。
技術開発による使用量削減
自動車メーカーや素材メーカーは、レアアース使用量の削減やレアアースフリー技術の開発を進めています。
- 日産自動車:SUVタイプのEV「アリア」で永久磁石を使用しない巻線界磁式を実用化
- プロテリアル:レアアースを使わないフェライト磁石を使ったモーターを試作、2030年代前半の実用化を目指す
- テスラ:2023年に「将来的にレアアース使用量をゼロにする」と発表
経済産業省も、重希土類の使用量を削減できる磁石とEV駆動用モーターの技術開発を支援しています。
リサイクルの推進
使用済み製品からのレアアース回収(都市鉱山)の取り組みも進んでいます。廃棄されるEVバッテリーやモーター、電子機器からレアアースを回収・再利用することで、新規調達への依存度を下げることが期待されています。
今後の展望
経済的威圧への対応
今回の中国の措置は「経済的威圧」の典型例とされています。日本には「毅然と対応するとともに、国際社会に対する情報発信と外交努力を一層強化する必要がある」との指摘が出ています。
同盟国・友好国との連携を強化し、サプライチェーンの多元化を進めることが重要です。
需要拡大への備え
国際エネルギー機関(IEA)は、レアアースの需要が2040年に2020年の3.4倍に達するとの予測を示しています。脱炭素社会に向けたEVや風力発電の普及により、レアアース需要は今後も拡大する見通しです。
長期的な視点での資源確保戦略がますます重要になっています。
まとめ
中国が軍民両用品の対日輸出禁止措置を発動し、レアアースも対象となる可能性が指摘されています。EV用永久磁石などに不可欠なレアアースの中国依存度は依然として高く、日本の自動車・電機産業への影響が懸念されます。
日本は調達先の多様化、国内資源の開発、技術開発による使用量削減、リサイクルの推進など、複合的な対策を進める必要があります。経済安全保障上の構造的脆弱性を克服し、サプライチェーンの強靭化を図ることが急務です。
参考資料:
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