中重希土類とは?中国が100%近く占有する戦略資源
はじめに
レアアース(希土類)の中でも「中重希土類」と呼ばれる元素群が、国際的な注目を集めています。ジスプロシウムやテルビウムなど、EV(電気自動車)のモーター用磁石や軍事技術に不可欠な素材であり、中国が生産のほぼ100%を占有しています。
2025年4月に中国が7種の中重希土類の輸出管理を開始し、2026年1月には日本向けの軍民両用品の輸出規制が強化されました。この動きはハイテク製品のサプライチェーンに大きな影響を与えています。
本記事では、中重希土類の基礎知識から中国の独占状況、日本への影響と対応策まで解説します。
中重希土類の基礎知識
レアアースの分類と特徴
レアアースは17種類の元素の総称です。このうち原子番号の大きいものを「中重希土類」と呼びます。代表的な元素には以下のものがあります。
- ジスプロシウム:EVモーター用のネオジム磁石に添加し、耐熱性を高めるために使用されます
- テルビウム:同じく磁石の耐熱性向上に不可欠で、光学材料にも利用されます
- サマリウム:戦闘機などの軍事用磁石に必要な元素です
- イットリウム:超電導体の材料として使われます
これらはハイテク製品の性能を左右する重要な素材であり、少量でも欠かせない存在です。
なぜ中重希土類が特に重要なのか
軽希土類(ネオジムやランタンなど)はオーストラリアやミャンマーなどでも生産されていますが、中重希土類の生産はほぼ中国に限られています。特にジスプロシウムやテルビウムは、経済的な採掘から精錬に至るまで中国の国際シェアが99%以上です。
EVや風力発電のモーターに使われる高性能ネオジム磁石には、耐熱性を確保するためにジスプロシウムやテルビウムの添加が必須です。これらの元素なしでは、高温環境で使用するモーターの性能が大幅に低下します。
中国の輸出規制と国際情勢
2025年4月からの輸出管理
中国政府は2025年4月4日、中重希土類7種(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)の関連品目に対し、輸出許可制を導入しました。これらの元素を含む製品(モーター用磁石、特殊合金部品など)も規制対象です。
規制の影響は即座に市場に表れました。欧州の取引価格では、ジスプロシウムが1キログラムあたり850ドルと規制前の約3倍に高騰し、テルビウムも3,000ドルで約3倍に跳ね上がりました。
日本向け軍民両用品の輸出規制
2026年1月6日には、中国商務省が日本向けの軍民両用品目の輸出管理強化を発表しました。レアアースを含む多くの品目が対象となり得るもので、即時発効とされています。
実際に、中国が2025年12月に日本に輸出したレアアース磁石は前月比で8%減少しました。ジスプロシウムなどの重希土類を使う高性能製品を中心に、輸出申請の半数程度しか許可が下りない状況が続いています。
日本経済への影響試算
みずほリサーチ&テクノロジーズや野村総合研究所の試算によると、レアアース輸出規制が3カ月続いた場合の経済損失は約6,600億円で、年間GDPを0.11%押し下げます。規制が1年間続けば損失額は約2.6兆円、GDPへの影響はマイナス0.43%に達する計算です。
自動車産業、電子部品、風力発電、医療機器(MRI)、航空宇宙の5分野が特に大きな打撃を受けると見られています。
日本の脱中国依存への取り組み
4つの柱で対策を推進
日本は2010年の尖閣諸島問題に伴う中国のレアアース輸出規制を教訓に、脱中国依存の取り組みを進めてきました。主な対策は以下の4つです。
1. 調達先の多様化:JX金属や大手商社がオーストラリア、カナダ、アフリカなど中国以外からの調達ルートを確保しています。経済産業省も2023年に日本として初めて重希土類の海外権益を獲得しました。
2. 代替技術の開発:プロテリアル(旧日立金属)などがレアアースを使わない永久磁石(鉄窒化物、高性能フェライトなど)の開発を進めています。ジスプロシウムの使用量を大幅に削減する技術も実用化されつつあります。
3. リサイクルの強化:使用済みのモーターや電子機器からレアアースを回収するリサイクル技術は、日本が世界トップレベルの技術力を持っています。
4. 南鳥島の海底資源開発:海洋研究開発機構は2026年1月、南鳥島近海の水深6,000メートルの海底に眠る大量のレアアースの試験掘削を開始しました。商業化は2028年以降の見通しです。
注意点・展望
短期的なリスクは依然として高い
日本の対策は着実に進んでいますが、中重希土類の中国依存度が劇的に低下するには時間がかかります。代替技術や南鳥島の資源開発が本格的に実用化されるまでの間、中国の輸出規制の動向が日本の製造業に大きな影響を与え続ける状況は変わりません。
特にEV産業は世界的に拡大しており、中重希土類の需要は増加の一途です。供給制約が長期化すれば、EVの生産コスト上昇や普及ペースの鈍化につながる可能性があります。
国際協調の重要性
レアアースの脱中国依存は日本だけの課題ではありません。米国、EU、オーストラリアなどの同志国とのサプライチェーン構築に向けた国際協調が加速しています。戦略物資の安定供給は、経済安全保障の最重要課題の1つです。
まとめ
中重希土類はEVモーターや軍事技術に不可欠な戦略資源であり、中国がほぼ100%の生産シェアを握っています。2025年以降の中国の輸出規制強化により、価格高騰やサプライチェーンの混乱が生じています。
日本は調達先の多様化、代替技術の開発、リサイクル強化、南鳥島の海底資源開発という4つの柱で脱中国依存を進めていますが、短期的には中国の動向に左右される状況が続きます。中重希土類の安定確保は、日本の産業競争力を左右する最重要課題です。
参考資料:
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