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by nicoxz

中国の米国債保有抑制報道で円高進行、155円台の背景

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はじめに

2026年2月9日のニューヨーク外国為替市場で、円相場が一時1ドル=155円台半ばまで円高・ドル安が進みました。きっかけとなったのは、米ブルームバーグ通信が同日未明に報じた「中国当局が中国の銀行に米国債保有を抑制するよう指示した」というニュースです。

ドル資産に対する需給不安がドル売りにつながり、円は対ドルで前週末から約2円上昇する場面がありました。ドルはユーロに対しても下落しており、世界的なドル売りの流れが強まっています。

本記事では、中国の米国債保有抑制の背景と意図、為替市場への影響、そして今後の円ドル相場の見通しについて詳しく解説します。

中国当局の米国債保有抑制指示の内容

ブルームバーグ報道の詳細

ブルームバーグは2月9日、複数の関係者への取材をもとに、中国の規制当局が国内の大手銀行数行に対して口頭で米国債の新規購入を抑制するよう指示したと報じました。すでに米国債の保有比率が高い銀行には、ポジションを縮小するよう求めています。

指示の理由として挙げられたのは、米国債市場への集中リスクと市場のボラティリティ(価格変動)への懸念です。つまり、米国債に資金が偏りすぎることで、市場が急変した際に大きな損失を被るリスクを軽減する狙いがあります。

重要なのは、この指示が中国政府自体の米国債保有(国家外貨準備としての保有)には適用されないという点です。対象はあくまで中国の商業銀行であり、国家レベルの外貨準備政策とは切り離されています。

地政学的意図か、リスク管理か

市場では、今回の動きが米中対立を背景とした「脱ドル戦略」の一環ではないかとの見方もあります。しかし、関係者によれば、今回の措置は金融リスクの分散を目的としたものであり、地政学的な意図や米国への信頼喪失を示すものではないとされています。

ただし、市場参加者の間では額面通りに受け取る向きばかりではありません。米中間の関税を巡る緊張が高まる中、中国が「ドル資産離れ」の姿勢を見せること自体が、交渉カードとしての意味合いを持つとの分析もあります。

中国の米国債保有額の長期的な減少傾向

13年間で半減した保有額

中国の米国債保有額は、長期的に見て明確な減少傾向にあります。2013年のピーク時には1兆3,000億ドル超を保有していましたが、2025年9月時点では約6,887億ドルにまで減少しました。ピーク時の約半分の水準です。

2025年3月には190億ドルの米国債を売り越し、特に長期債の売越額は275億ドルと、比較可能な2023年2月以降で最大を記録しています。保有ランキングでも、かつての首位から日本、英国に次ぐ第3位にまで後退しました。

脱ドル・デリスキング戦略の背景

中国が米国債保有を減らしてきた背景には、いくつかの要因があります。

第一に、米中覇権競争の中でのドル依存度の低減です。米国による経済制裁のリスクを踏まえ、ドル建て資産への依存を下げる戦略が進んでいます。

第二に、資産の多様化です。報道によると、中国の中央銀行や財政省は2022年に国内外の銀行幹部を集め、制裁リスクに備えた海外資産の分散について議論しました。円建てやユーロ建てへの分散が検討されたとされています。

第三に、金(ゴールド)の積極的な購入です。「安全資産」としての金の保有を増やし、ドル建て資産の代替としています。また、ケイマン諸島などの第三国を通じた「隠れ保有」の可能性も指摘されています。

為替市場への影響

ドル売り・円買いが加速

ブルームバーグの報道を受けて、9日のニューヨーク為替市場ではドル売りが優勢となりました。円は一時155円53銭近辺まで上昇し、前週末の2月6日と比べて約2円の円高・ドル安が進みました。

ドルは円だけでなくユーロに対しても下落しており、「中国がドル資産を減らす」という報道が、世界的なドル需要の減退懸念を呼び起こした形です。米国債市場では、10年物国債の利回りが0.04ポイント上昇して4.25%となり、国債価格の下落(利回りの上昇)が確認されました。

市場の反応は冷静との見方も

一方で、市場アナリストの中には、今回の報道の影響は限定的だとの見方もあります。Newedge証券のアナリストは「中国が米国債保有を削減すること自体は新しいことではない」と指摘しています。

過去数年間にわたり中国は着実に保有を減らしてきたため、市場はある程度この動きを織り込んでいるという見方です。ただし、公式な「指示」として報じられたことで、一時的にドル売りが加速した面はあります。

今後の円ドル相場の見通し

2026年は円高方向への転換点か

2026年の円ドル相場については、多くの市場関係者が年後半にかけて円高方向に進むと予想しています。

野村證券は日米金利差の縮小を主因に、2026年末のドル円レートを140円と予測しています。三井住友DSアセットマネジメントは年末150円、みずほリサーチ&テクノロジーズは前半150円台前半、後半に150円台後半を予想しています。

日銀の利上げペースが焦点

為替の方向性を左右する最大の要因は、日本銀行の金融政策です。市場では日銀が半年に1回程度のペースで利上げを進めるとの見方が有力で、2026年7月の利上げが次のタイミングとして注目されています。

日銀が着実に利上げを進めれば日米金利差は縮小し、円高圧力が強まる構図です。一方、米国のFRBも2026年中に少なくとも2回の利下げが見込まれており、双方から金利差縮小が進む可能性があります。

注意点・展望

今回の中国の米国債保有抑制報道については、いくつかの注意点があります。

まず、報道の信頼性です。「関係者」への取材に基づく報道であり、中国当局が公式に確認したものではありません。中国側が否定する可能性もあるため、続報を注視する必要があります。

次に、実際の影響の大きさです。今回の指示は商業銀行向けであり、中国の国家外貨準備には適用されません。中国の商業銀行の米国債保有額は、国家全体の保有額と比べれば限定的であり、米国債市場全体への影響は大きくない可能性があります。

ただし、この報道が「ドル離れ」の象徴として市場心理に与える影響は軽視できません。米中対立が深まる中、ドル資産の安全性に対する疑問が定期的に浮上する構造は今後も続くと考えられます。

まとめ

中国当局による米国債保有抑制指示の報道は、ドル売り・円買いを加速させ、一時155円台半ばまで円高が進みました。中国の米国債保有額が長期的に半減している事実と合わせると、「脱ドル」の流れは確実に進んでいます。

しかし、今回の措置は商業銀行向けのリスク管理的な性格が強く、米国債市場への直接的な打撃は限定的とみられます。今後の円ドル相場は、日銀の利上げペースとFRBの利下げ動向、そして米中関係の行方が鍵となります。

参考資料:

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