高市トレード逆回転の兆候、円安・株高トレンドに変調か
はじめに
2026年1月28日の東京株式市場で、日経平均株価は一時500円を超える下落を見せました。外国為替市場での円高・ドル安進行が主因であり、海外投資家が進めてきた「日本株買い・円売り」の投資戦略に変調の兆しが見えています。
この動きは「高市トレード」と呼ばれる投資戦略の逆回転を示唆するものです。高市早苗首相の積極財政・金融緩和継続への期待から始まったこのトレンドは、日経平均を史上最高値へと押し上げてきました。しかし今、その持続性に疑問符が付き始めています。
本記事では、高市トレードのメカニズムと現在の転換点、今後の日本株・為替相場の見通しについて詳しく解説します。
高市トレードとは何か
アベノミクス継承者としての経済政策
高市早苗首相は自らの経済政策を「サナエノミクス」と名付け、基本路線は「ニュー・アベノミクス」であると公言しています。かつてのアベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢を掲げ、強烈な円安・株高インパクトを生み出しました。
アベノミクス相場では、ドル円は70円台後半から一時125円付近へ、日経平均株価は8000円台から一時2万4000円まで上昇しました。高市政権への期待は、この成功体験の再現を市場が織り込んだ結果といえます。
市場が期待した財政・金融政策
2025年10月の自民党総裁選で高市氏が勝利すると、市場は即座に反応しました。日経平均は4万8000円台へ2000円以上上昇し、ドル円は147円台から150円台へ円安が進行しました。
2026年1月に入り、高市首相が早期の衆議院解散に意向を示したとの報道が流れると、「高市トレード」は再燃しました。1月13日には日経平均が取引時間中に初めて5万3000円台に乗せ、史上最高値を更新しています。同日のドル円は158円90銭台と、2024年6月以来の円安水準を記録しました。
円安・株高トレンドの構造
海外投資家の存在感
日本の株式市場において、海外投資家は売買金額の6〜7割を占める圧倒的な存在感を持っています。2024年度における外国法人等の日本株保有比率は32.4%と、投資部門の中で最も高い水準です。
海外投資家が買い越しであれば株価は上昇傾向に、売り越しであれば下落傾向になります。仮に国内の個人投資家が買いに転じても、海外投資家が売り越しであれば日本株は下がるのが一般的です。
「日本株買い・円売り」の同時進行
高市トレードの特徴は、日本株の買いと円の売りが同時に進行する点にあります。これは為替ヘッジを行いながら日本株に投資する海外投資家の行動パターンを反映しています。
円安は輸出比率の高い日本企業の収益改善期待を高めます。トヨタやソニーなど海外売上高比率の高い銘柄は、円安メリットを享受できるため、海外投資家の買いが集中しやすい構造があります。
インフレ期待と財政拡張
高市政権の積極財政への期待は、インフレ予想の上昇を通じて円安・株高を促進してきました。インフレ下での財政拡張がさらにインフレ予想を高め、それが円安・株高の予想を強めるという循環構造が形成されていました。
しかし、この構造には脆弱性も内包されています。円安が進みすぎれば輸入物価の上昇を通じて家計を圧迫し、政治的な反発を招く可能性があるからです。
逆回転の兆候と背景
160円の「防衛ライン」
政府は1ドル160円を概ね防衛ラインと考えているとみられています。この水準に近い円安のもとでは、政府がいつドル売り円買い介入を実施してもおかしくない状況です。
1月28日に円高が進行した背景には、この心理的な節目への接近があります。158円台後半まで円安が進んだことで、介入警戒感が高まり、円売りポジションの巻き戻しが起きた可能性があります。
日銀の利上げ観測
高市首相は日銀の利上げに慎重な姿勢を示してきましたが、物価高対策への国内の期待が高まる中、従来ほど強く利上げ反対を主張することは難しくなっています。
また、トランプ政権のベッセント米財務長官が「米国の貿易不均衡拡大を助長するマクロ経済政策は容認しない」と警告していることも、高市政権の政策余地を狭めています。市場では日銀が2026年前半に追加利上げを実施するとの見通しが広がっており、これが円高圧力の一因となっています。
年初の相場転換パターン
過去の経験則として、毎年年初には円相場のトレンドが大きく転換しやすいという傾向があります。2026年もこのパターンが当てはまる可能性が指摘されており、年初からの円相場の下値が堅いことがその兆候として注目されています。
ASML決算と半導体関連銘柄
決算内容への注目
1月28日、オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングは日本時間15時に決算を発表しました。EUV露光装置で圧倒的なシェアを持つ同社の業績は、半導体関連銘柄全体のセンチメントに大きな影響を与えます。
モルガン・スタンレーやUBSは目標株価を1,400ユーロに引き上げており、JPモルガンは1,518ドルに設定しています。UBSは2026年と2027年の利益予想が市場コンセンサスを約25%上回ると予測しています。
日本市場への波及
ASML決算を受けて半導体関連銘柄の一角が買われ、日経平均は一時の500円超安から持ち直し、プラス圏に浮上しました。東京エレクトロンやアドバンテストなど、日本の半導体製造装置メーカーは海外投資家からの注目度が高く、こうしたセクターの動向が指数全体を左右する展開が続いています。
今後の注目点と展望
総選挙の行方
高市首相が解散総選挙に打って出た場合、選挙結果次第で相場の方向性が大きく変わる可能性があります。自民党が勝利し、高市政権が安定すれば株価にはプラス材料となりますが、敗北すれば政策の不透明感から売り圧力が強まる恐れがあります。
調整局面への警戒
専門家の中には、予想PERでみて日米ともに株価は割高であり、2026年の早い段階において主要国の株価指数が直近高値から2割程度下落する可能性を指摘する声もあります。2月下旬から3月にかけての調整局面に警戒が必要です。
ただし、海外投資家は日本企業の緩やかだが着実な経営改善を好感しており、世界的な株価調整局面でも日本株の下落率は他国に比べて小さくなるとの見方もあります。
海外投資家の買い余力
海外勢は年初から11月末までで3.7兆円を買い越していますが、グローバル株に対する時価総額比では日本株は依然として大幅にアンダーウェイトの状況です。2015年時点の水準まで投資意欲が回復した場合、25〜30兆円の買い越し余力が残っているとの試算もあります。
まとめ
高市トレードは日本株市場を史上最高値に押し上げてきましたが、現在は転換点を迎えつつあります。160円に接近する円安水準への介入警戒感、日銀の利上げ観測、年初の相場転換パターンなど、複数の要因が円高・株安方向への圧力として働いています。
一方で、半導体関連銘柄の好調や海外投資家の潜在的な買い余力など、下支え要因も存在します。投資家としては、円安・株高トレンドの一方的な継続を前提とせず、為替と株価の連動性に注意を払いながらポートフォリオを点検することが重要です。
参考資料:
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