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by nicoxz

世界の投資家4割が米国資産を削減へ、広がる米国売り

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はじめに

世界の機関投資家の間で、米国資産への投資を見直す動きが加速しています。調査によれば、グローバルな機関投資家の約4割が米国資産への配分を削減した、もしくは今後の削減を計画していることが明らかになりました。

背景にあるのは、トランプ政権の予測困難な政策運営による米国債価格の急変動やドル安への警戒感です。2025年4月の「関税ショック」以降、株・債券・ドルの「トリプル安」が繰り返し発生し、「米国売り(Sell America)」という言葉が市場で定着しつつあります。

本記事では、世界で進む米国資産離れの実態と、その背景にある構造的な要因、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

北欧年金基金に見る「米国離れ」の象徴的な動き

スウェーデン・アレクタの米国債売却

「米国売り」を象徴する動きとして注目を集めたのが、スウェーデンの大手年金基金アレクタ(Alecta)による大規模な米国債売却です。アレクタは約280万人のスウェーデン国民の退職資金を運用する同国最大級の商業年金基金で、2025年初頭以降、77億〜88億ドル規模の米国債を売却しました。

アレクタのパブロ・ベルネンゴ最高投資責任者(CIO)は、売却の理由として「米国の政策の予測可能性の低下と、大規模な財政赤字および拡大する国家債務」を挙げています。つまり、米国政府の財政運営に対する信頼が揺らいでいることが、売却判断の根本にあります。

デンマーク年金基金も追随

スウェーデンに続き、デンマークの年金基金アカデミカーペンション(AkademikerPension)も約1億ドル相当の米国債の全量売却を発表しました。同基金は売却理由として「米国の脆弱な公的財政」を指摘しています。北欧の年金基金は長期的な視野で投資判断を行うことで知られており、これらの動きは一時的な相場観ではなく、構造的なリスク認識に基づくものと捉えられています。

各国中央銀行による米国債保有の削減

中国の戦略的な米国債削減

海外中央銀行による米国債保有の減少も、長期的なトレンドとして進行しています。中国は2025年8月に9,000億ドルを超える保有高を記録した後、同年11月には6,826億ドルまで減少させました。さらに2026年2月には、中国当局が金融機関に対して米国債の大量保有を避けるよう指導したとの報道もあり、戦略的なドル資産の縮小が進んでいます。

この背景には、米中間の貿易摩擦や技術規制の激化があります。中国にとって、米国債の大量保有は地政学的なリスクを伴うものとなっており、外貨準備の分散化は安全保障上の合理的な判断と位置づけられています。

日本の動向とBRICS諸国

日本は依然として米国債の最大の海外保有国ですが、過去3年間で2,200億ドル以上を売却しており、2025年4月だけでも200億ドルを手放しています。これは主に為替介入の原資確保が目的とみられますが、結果として米国債市場からの資金流出を加速させる一因となっています。

BRICS諸国全体でも保有削減の傾向は明確です。ブラジルは2024年11月の2,290億ドルから2025年11月には1,680億ドルへ、インドは2,340億ドルから1,865億ドルへとそれぞれ減少しています。IMFのデータによれば、世界の外貨準備に占めるドルの比率は2016年の65.3%から2024年第3四半期には約59.3%まで低下しています。

「Sell America」トレードの構造と市場への影響

トリプル安の再来

「Sell America」トレードとは、米国の株式・債券・ドルを同時に売却する動きを指します。通常、株が売られれば債券に資金が流入し(安全資産への逃避)、ドルは基軸通貨として底堅さを維持するのが従来のパターンでした。しかし、2025年4月のトランプ政権による「解放の日」関税以降、この常識が崩れています。

2026年1月にもこのトレードが再燃しました。トランプ大統領によるグリーンランド取得の動きやFRB(連邦準備制度理事会)の独立性への干渉懸念を受け、ドル指数は主要6通貨バスケットに対して約1%下落。10年物米国債利回りは急上昇し、金先物は1トロイオンスあたり4,600ドルを超える過去最高値を記録しました。

投資家心理の構造変化

Natixis Investment Managersが世界515の機関投資家を対象に実施した調査では、63%が「米国の制度の政治化が投資先としての魅力を弱める」と回答しています。米国内の投資家でさえ51%が同様の見方を示しており、これは単なる海外勢の動きではなく、米国自身の投資家も含めた構造的な信頼低下を反映しています。

一方で、米国内の投資家の63%は依然として「自国市場が他国をアウトパフォームする」と予想しており、半数近くが海外への分散投資を計画しているという、やや矛盾した状況も見られます。

注意点・展望

過度な悲観論への警戒

「米国売り」は確かに進行していますが、米ドルの基軸通貨としての地位がただちに脅かされるわけではありません。PIMCOのダン・イバシン最高投資責任者は投資家に米国資産の分散を推奨する一方で、ドルの下落は米国の金利低下とヘッジコストの変化によって徐々に進む可能性が高いと指摘しています。

J.P.モルガンの分析でも、脱ドル化は「時間をかけて進むプロセス」であり、急激な基軸通貨の交代は現実的ではないとの見方を示しています。ユーロや人民元がドルに代わる受け皿として十分な流動性と信頼性を確保するには、まだ相当な時間が必要です。

トランプ政権への打撃の可能性

政府部門の米国債離れが着実に進む中で、もし民間マネーまで大規模に米国から流出すれば、トランプ政権にとって深刻な問題となります。米国の財政赤字は拡大を続けており、国債の消化には海外投資家の参加が不可欠です。民間投資家がこれまで中央銀行の売却を吸収してきましたが、その民間マネーの流れが変われば、金利上昇と財政コストの増大という悪循環に陥るリスクがあります。

まとめ

世界の投資家による米国資産の見直しは、一過性のトレンドではなく構造的な変化の兆しです。北欧年金基金の大規模な米国債売却、各国中央銀行の保有削減、そして「Sell America」トレードの定着は、いずれもトランプ政権の政策不確実性と米国の財政悪化に対する懸念を反映しています。

個人投資家にとっても、ポートフォリオにおける米国資産の比率を再検討する時期が来ている可能性があります。ただし、ドルの基軸通貨としての地位は当面維持される見通しであり、過度な悲観は禁物です。重要なのは、地域や資産クラスの分散を進め、特定の国や通貨への過度な依存を避けることです。

参考資料:

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