企業型DC制度拡充で変わる老後資金の備え方
はじめに
「NISAとiDeCo、どちらを優先すべきか」という議論が定番化しています。しかし、この問いには重要な選択肢が抜け落ちています。それが確定拠出年金(DC)の「企業型」です。
2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年4月以降、企業型DCは大幅な制度拡充を迎えます。拠出限度額の引き上げやマッチング拠出の要件緩和など、勤め先に制度がある人にとっては老後資金準備の最有力候補となります。
この記事では、改正の具体的な内容とNISA・iDeCoとの使い分け方を整理し、最適な資産形成戦略を考えます。
確定拠出年金(DC)制度の基本
企業型DCとiDeCoの違い
確定拠出年金(DC)は、毎月一定額を拠出し、自らの運用次第で成果が変わる私的年金制度です。大きく「企業型DC」と「個人型DC(iDeCo)」の2種類があります。
企業型DCは、会社が掛金を拠出する仕組みです。運用商品の選択は加入者自身が行いますが、掛金は原則として事業主が負担します。一方、iDeCoは個人が自ら加入し、掛金を拠出する制度です。
企業型DCの最大のメリットは、会社が掛金を出してくれる点です。加入者は追加の自己負担なく、老後資金を積み立てることができます。さらに「マッチング拠出」を利用すれば、会社の掛金に加えて自分でも上乗せ拠出が可能です。
加入者数の推移
企業型DCの加入者数は約805万人に達しています。iDeCoの加入者数は約330万人で、両制度を合わせると1,100万人以上が確定拠出年金を利用しています。DC制度全体の資産残高は今後10年間で60兆円規模に成長すると見込まれています。
2026年4月からの制度改正ポイント
マッチング拠出の要件緩和
現行制度では、マッチング拠出において「加入者掛金は事業主掛金を超えてはならない」というルールがあります。たとえば会社の掛金が月額1万円の場合、本人も1万円までしか上乗せできません。
2026年4月1日施行の改正により、このルールが撤廃されます。改正後は、会社掛金が少ない場合でも、本人掛金は法令上限(55,000円から会社掛金を差し引いた額)まで自由に設定できるようになります。これにより、会社掛金が低い企業の従業員でも、自助努力で老後資金を増やしやすくなります。
拠出限度額の引き上げ
企業型DCの拠出限度額は、月額55,000円から62,000円へ引き上げられます。この引き上げは2027年1月から実施される見込みです。年間では84万円まで拠出可能となり、長期的な資産形成の幅が広がります。
iDeCoの加入可能年齢の拡大
2026年12月1日施行(2027年1月引落分から適用)で、iDeCoの加入可能年齢が65歳未満から70歳未満へ引き上げられます。ただし、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していないことが条件です。
さらに、iDeCoの拠出限度額も大幅に変わります。第1号被保険者(自営業者等)は月額68,000円から75,000円に、企業年金がない会社員は月額23,000円から62,000円に引き上げられます。
NISA・iDeCo・企業型DCの使い分け
3つの制度の比較
資産形成の3つの柱であるNISA・iDeCo・企業型DCには、それぞれ異なる特徴があります。
NISAは運用益が非課税で、いつでも引き出せる流動性の高さが魅力です。2025年6月末時点でNISA口座数は2,696万口座、累計買付額は63兆円に達しています。政府目標の3,400万口座(2027年末まで)に向けて着実に成長しています。
iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税です。ただし、原則60歳まで引き出せない「ロック」がかかる点に注意が必要です。
企業型DCは、会社の掛金負担に加えて、マッチング拠出分が所得控除となります。会社が制度を導入していれば、実質的に「無料で」老後資金が積み上がっていく仕組みです。
優先順位の考え方
最も効率的な順番は、まず企業型DCのマッチング拠出を最大限活用することです。会社の掛金という「タダのお金」を受け取りつつ、自分の上乗せ分で所得控除も得られます。次にiDeCoで所得控除のメリットを活かし、余裕があればNISAで流動性の高い運用を行うのが合理的です。
ただし、住宅購入や教育費など、60歳前に必要な資金がある場合は、NISAを優先すべきケースもあります。ライフプランに応じた柔軟な判断が大切です。
注意点・展望
運用商品の選択が重要
DC制度では、約30%の資産が元本確保型の預金商品に配分されているという課題があります。資産残高のうち約6.6兆円が預金、約2.5兆円が保険商品に眠っています。長期的な資産形成の観点からは、投資信託を活用した分散投資の検討が重要です。
退職所得控除の見直しに注意
近年、退職所得控除制度の見直しが議論されています。DC資産の受け取り方によっては税負担が変わる可能性があるため、制度改正の動向を注視する必要があります。
今後のスケジュール
改正は段階的に実施されます。2026年4月にマッチング拠出要件の緩和が施行され、2026年12月にiDeCoの加入可能年齢が引き上げられます。拠出限度額の引き上げは2027年1月からの適用です。勤め先の担当部門に制度変更の対応状況を確認しておくことをおすすめします。
まとめ
確定拠出年金の制度改正は、老後資金準備のあり方を大きく変える可能性を秘めています。特に企業型DCは、会社の掛金負担とマッチング拠出の所得控除という二重のメリットがあり、NISAやiDeCoと並ぶ有力な選択肢です。
まずは自社の企業型DC制度の内容を確認し、マッチング拠出の上限や運用商品のラインアップを把握することから始めてみてください。2026年4月以降の改正を見据えて、今から準備を進めることが重要です。
参考資料:
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