60歳で退職金を受け取る際のiDeCo活用節税術
はじめに
2027年1月から、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金上限額が大幅に引き上げられます。企業年金に加入していない会社員の場合、月額2万3000円から6万2000円へと約2.7倍に拡大されることになりました。
この制度改正により、現役世代の節税メリットは大きく拡大します。しかし、60歳で退職金を受け取る予定の方にとっては、受給時の税金をどう抑えるかが重要な課題となります。退職金とiDeCoの受取タイミングを工夫することで、数十万円単位の節税が可能になるケースもあるのです。
本記事では、2027年の制度改正を踏まえ、退職金とiDeCoを組み合わせた具体的な節税戦略について解説します。
2027年iDeCo改正で何が変わるのか
掛け金上限額の大幅引き上げ
2027年1月から適用される主な変更点は以下の通りです。
会社員・公務員の場合
- 企業年金に加入していない会社員:月額2万3000円→6万2000円
- 企業型DCとiDeCoの併用上限:合計で月6万2000円まで拡大
- 「iDeCoは月2万円まで」という制限が撤廃
自営業者・フリーランスの場合
- 月額6万8000円→7万5000円に引き上げ
また、加入可能年齢の上限が70歳未満まで拡大される予定です。これにより、より長期間にわたって積立を継続できるようになります。
節税効果の具体例
企業型DCに加入していない年収500万円の会社員が、毎月の掛け金を2万3000円から6万2000円に増額した場合の節税効果を見てみましょう。
- 掛け金2万3000円の場合:10年間で約55万円の節税
- 掛け金6万2000円の場合:10年間で約149万円の節税
掛け金の増額により、10年間で約94万円もの追加節税効果が期待できます。所得税と住民税が軽減されるため、手取り収入が実質的に増加する形になります。
受給時の税金と「10年ルール」への改正
退職所得控除の仕組み
iDeCoの老齢給付金を「一時金」として受け取る場合、退職所得として扱われます。退職所得には退職所得控除が適用され、税負担が大幅に軽減されます。
退職所得控除額は勤続年数(iDeCoの場合は加入年数)に応じて計算されます。
- 20年以下:40万円×年数(最低80万円)
- 20年超:800万円+70万円×(年数-20年)
例えば、iDeCoに30年間加入した場合、退職所得控除額は1500万円となります。この控除額以内であれば、受取時の税金はかかりません。
「5年ルール」から「10年ルール」への変更
2025年度税制改正により、iDeCoの受取時に関する重要なルール変更がありました。
これまでは「iDeCoの一時金」を先に受け取り、5年以上経過してから「退職金」を受け取れば、それぞれに対して退職所得控除が満額適用されました。この「5年ルール」が「10年ルール」に変更されたのです。
改正前(5年ルール)
- 60歳でiDeCo一時金を受取→65歳で退職金を受取→両方に控除適用
改正後(10年ルール)
- 55歳でiDeCo一時金を受取→65歳で退職金を受取→両方に控除適用
- 60歳でiDeCo一時金を受取→65歳で退職金を受取→控除が一部制限
この改正は2026年1月1日以降に支払われる退職一時金から適用されます。
60歳で退職金を受け取る場合の具体的な節税策
戦略1:iDeCoを先に受け取り、退職金を後に
もし退職時期を調整できる立場にあれば、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、70歳で退職金を受け取るという方法があります。10年以上の間隔を空けることで、それぞれに退職所得控除をフルに活用できます。
ただし、この方法は70歳まで働き続けることが前提となるため、すべての方に適用できるわけではありません。
戦略2:iDeCoの継続加入で控除額を増やす
60歳以降もiDeCoへの加入を継続することで、退職所得控除額を増やすことができます。65歳まで掛け金の拠出が可能で、運用自体は75歳まで継続できます。
月額5000円など低い掛け金でも、加入年数が増えれば退職所得控除額は拡大します。例えば、加入年数が1年延びるごとに控除額が40万円〜70万円増加するのです。
この方法は、掛け金による追加の資産形成効果と、控除額拡大による節税効果の両方が期待できます。
戦略3:年金形式での受け取りを活用
iDeCoの受け取り方法は「一時金」「年金」「一時金+年金の併用」の3種類から選べます。
60歳から64歳の5年間は、多くの方が公的年金を受給していません。この期間にiDeCoを年金形式で受け取ると、「公的年金等控除」を単独で活用できます。
年金形式の場合、65歳未満では年間60万円の公的年金等控除が適用されます。つまり、5年間で最大300万円まで非課税で受け取ることが可能です。
戦略4:一時金と年金の併用
退職金とiDeCoの合計額が退職所得控除額を超える場合、以下の方法が有効です。
- 退職金とiDeCoの一部を一時金で受け取り、退職所得控除をフル活用
- iDeCoの残額を年60万円ずつ5年間に分けて受け取る
- 公的年金等控除(60万円/年)により、分割受取分も非課税に
この方法により、控除枠を最大限に活用しながら、税負担を抑えることができます。
注意すべきポイント
「19年ルール」に要注意
退職金を先に受け取る場合、より厳しいルールが適用されます。退職金の一時金を受け取ってから19年以内にiDeCoの一時金を受け取ると、退職所得控除が制限されるのです。
つまり、60歳で退職金を受け取った場合、iDeCoの一時金をフルで控除適用させるには80歳まで待つ必要があります。しかし、iDeCoの受給開始年齢は75歳が上限のため、この場合は「年金形式」での受け取りを選択するしかありません。
税制は変わる可能性がある
今回の「10年ルール」への改正のように、税制は将来変更される可能性があります。長期の資産形成においては、制度改正のリスクも考慮に入れておく必要があります。
運用益に一喜一憂しない
iDeCoは長期投資が基本です。60歳での受け取りを見据えた場合でも、受取時期が近づいたらリスクの低い資産にシフトするなど、計画的な運用見直しが重要です。
まとめ
2027年のiDeCo制度改正により、現役時代の節税メリットは大きく拡大します。一方で、「10年ルール」への改正により、受取時の税金対策はより複雑になりました。
60歳で退職金を受け取る予定の方は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- iDeCoと退職金の受取順序とタイミングを慎重に計画する
- 60歳以降もiDeCoへの加入継続を検討し、控除額を増やす
- 年金形式の受け取りで公的年金等控除を活用する
- 一時金と年金の併用で控除枠を最大化する
ご自身の退職時期、退職金の見込み額、iDeCoの運用状況を総合的に考慮し、最適な受取戦略を検討することをお勧めします。必要に応じて、ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家に相談することも有効です。
参考資料:
関連記事
退職一時金制度の歴史と2026年税制改正の影響
高度成長期に普及した退職一時金制度の歴史を振り返り、2026年1月施行の退職所得控除「10年ルール」改正が企業と個人に与える影響を解説します。
企業型DC制度拡充で変わる老後資金の備え方
2026年4月以降に施行される確定拠出年金(DC)の制度改正を解説。企業型DCの拠出限度額引き上げやマッチング拠出の要件緩和など、老後資金準備の最新情報をお届けします。
確定拠出年金の「助言禁止」が招く運用停滞の実態
日本の確定拠出年金では運営管理機関による投資助言が法律で禁止されています。米国との制度比較から、この規制が加入者の資産形成に与える影響と今後の改革の方向性を解説します。
iDeCo大改正で50代の老後資金準備が変わる
2027年1月からiDeCoの掛け金上限が大幅引き上げ、加入年齢も70歳未満に拡大されます。50代からでも間に合う老後資金準備の具体的な活用法とNISAとの使い分けを解説します。
生保解約金が過去最高3.8兆円、資金の行先は投信へ
2025年10〜12月の生命保険解約返戻金が四半期ベースで過去最高の3.8兆円に達しました。金利上昇を背景にした保険見直しの動きと、投資信託や個人向け国債への資金シフトの実態を解説します。
最新ニュース
アクティビストの標的が変化、還元から再編へ
割安株の減少でPBR1倍超え企業も標的に。アクティビストの投資戦略が株主還元から事業再編へとシフトする背景と今後の展望を解説します。
アームが初の自社製チップ発表、AI半導体市場に本格参入
ソフトバンクグループ傘下の英アームが35年の歴史で初めて自社製チップ「AGI CPU」を発表。メタやOpenAIを顧客に迎え、5年で年間150億ドルの売上を目指す戦略転換の全容を解説します。
Armが半導体自前開発に参入、AI向けCPUで事業転換
ソフトバンク傘下の英Armが35年間のIPライセンスモデルを転換し、自社開発チップ「AGI CPU」でメタやオープンAIにAI半導体を直接供給する戦略の背景と影響を解説します。
イビデン大幅続伸の背景と半導体銘柄上昇の全貌
2026年3月25日、イビデンが特別利益491億円の計上発表で大幅続伸。半導体関連銘柄が軒並み上昇した背景には、米イラン停戦期待による原油下落と投資家心理の改善がありました。
イラン強硬派「3人組」の実権と米15項目和平案の行方
ハメネイ師亡き後のイランで実権を握る革命防衛隊出身の強硬派3人組と、トランプ政権が提示した15項目の和平案の内容・交渉の行方を詳しく解説します。