企業の地方移転に税優遇拡充、1万人雇用創出へ
はじめに
政府は東京一極集中の是正と地方活性化を目指し、企業の本社機能の地方移転に対する税優遇制度を拡充しています。「地方創生2.0」の基本構想に基づき、2027年度までの3年間で地方の雇用を約1万人創出する目標を掲げました。
地方拠点強化税制は2015年に創設され、これまでに680件の整備計画が認定、約2.8万人の雇用が創出されています。令和8年度(2026年度)の税制改正では制度の見直しと延長が行われ、企業の地方移転をさらに後押しする環境が整いつつあります。
本記事では、企業の地方移転を促す税優遇制度の内容と、地方創生政策の現状について解説します。
地方拠点強化税制とは
制度の概要
地方拠点強化税制は、2015年(平成27年)の税制改正で創設された制度です。企業が本社機能(事務所、研究所、研修所)を東京23区から地方へ移転したり、地方の拠点を強化したりする場合に、都道府県の認定を得た上で税額控除などの優遇措置を受けることができます。
この制度は、安定した良質な雇用の創出を通じて地方への新たな人の流れを生み出すことを目的としています。東京一極集中を是正し、地方経済の活性化につなげる狙いがあります。
2つの類型
地方拠点強化税制には「拡充型」と「移転型」の2つの類型があります。
拡充型は、地方に本社を置く企業がその本社を増築したり、東京23区以外に本社を置く企業が地方都市に拠点を設ける場合など、地方において本社機能を拡充する事業者が適用できます。
移転型は、東京23区に本社を置く企業が地方都市に新社屋を建設して本社を移転する場合など、東京23区から地方に本社機能を移転する場合に適用できます。移転型はより手厚い優遇措置が設けられています。
税優遇の具体的内容
オフィス減税
建物等を新設・増設・新築取得した場合、法人税の減税措置を受けられます。取得価額の一定割合を特別償却または税額控除できる仕組みです。
地方税についても、不動産取得税、固定資産税、事業税の優遇措置があります。また、必要な資金の借入に係る債務保証や融資を受けられる場合もあります。
雇用促進税制
地方で対象となる業務施設を整備し、かつ雇用者を増加させた場合、雇用者増加数に応じた法人税の減税措置を受けられます。
移転型の場合、地方拠点で本社機能に従事する雇用者の増加数1人あたり最大90万円(基本50万円+上乗せ分40万円)の税額控除が可能です。上乗せ分40万円は最大3年間継続されます。
これまでの実績
680件の整備計画を認定
地方拠点強化に係る整備計画の認定実績は、2024年(令和6年)1月末までに680件に達しました。内訳は移転型70件、拡充型610件で、拡充型が大半を占めています。
計画に基づく雇用創出数は約2.8万人となっており、地方経済の活性化に一定の貢献をしています。
パソナグループの事例
企業の地方移転の代表的な事例として、パソナグループの淡路島移転があります。同社は2020年以降、本社機能の一部を淡路島に移転し、2025年6月時点で人事・企画・経理などの業務に約2,000人が従事しています。
移転先である淡路市の人口は増加に転じ、転出超過から脱却しました。企業の移転が地域に与えるインパクトを示す好事例として注目されています。
地方創生2.0と今後の展望
10年間の基本構想
政府は2025年6月、今後10年間を見据えた「地方創生2.0基本構想」を閣議決定しました。「新しい日本・楽しい日本」をつくり出すため、「人や企業の地方分散」を5本の柱の一つに掲げています。
東京一極集中の是正に向け、2027年度までの3年間で企業の本社機能の移転に伴い、地方の雇用を約1万人創出する目標を設定しました。
令和8年度税制改正
令和8年度(2026年度)の税制改正では、地方拠点強化税制(オフィス減税)について一定の見直しを行った上で、適用期限を2年延長することが決まりました。
一方、雇用促進税制については、適用期限(2026年3月31日)の到来をもって廃止されます。今後は制度の活用促進や、地方公共団体等の支援の好事例の公表などを通じて、環境整備を進める方針です。
副首都構想との連携
日本維新の会が推進する「副首都構想」も、企業の地方移転と関連しています。大阪府市が掲げる副首都ビジョンでは、平時には東京圏に並ぶ経済の中心として日本経済の成長を牽引し、災害などの非常時には首都機能をバックアップできる都市圏を目指しています。
高市政権と維新の会の連立により、副首都構想と地方創生政策がどのように連携していくかも注目されています。
企業にとってのメリット
コスト削減
地方への移転は、オフィス賃料の大幅な削減につながります。東京都心部と比較して、地方ではオフィスの賃料が数分の一になるケースも珍しくありません。固定費の削減は企業の競争力強化に直結します。
人材確保
東京では企業間の人材獲得競争が激しく、採用コストが高騰しています。地方では優秀な人材を確保しやすい環境があり、人材面での優位性を得られる可能性があります。
また、地方移転は従業員のワークライフバランス向上にもつながり、人材の定着率向上が期待できます。
災害リスクの分散
東京一極集中は、首都直下型地震などの大規模災害時のリスクを高めています。本社機能を地方に分散することで、事業継続計画(BCP)の強化につながります。
課題と注意点
申請期限に注意
地方拠点強化税制の整備計画は、着工前(賃貸借契約前)かつ2026年3月31日までに都道府県知事の認定を受ける必要があります。制度の活用を検討している企業は、早めの準備が求められます。
移転後の人材確保
地方移転に際しては、既存社員の転居対応や、移転先での新規採用が課題となります。従業員の理解を得るためのコミュニケーションや、地方での採用体制の構築が重要です。
取引先との関係
東京に取引先が集中している企業にとっては、地方移転により営業活動に支障が出る可能性もあります。リモートワークの活用や出張対応など、取引先との関係維持の工夫が必要です。
まとめ
政府は地方創生2.0の一環として、企業の本社機能の地方移転に対する税優遇制度を拡充し、2027年度までに1万人の雇用創出を目指しています。地方拠点強化税制はこれまでに680件の整備計画が認定され、約2.8万人の雇用を生み出してきました。
東京一極集中の是正、地方経済の活性化、災害リスクの分散など、企業の地方移転には多くのメリットがあります。税優遇制度を活用しながら、地方への拠点展開を検討する企業が増えることが期待されます。
参考資料:
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