地方都市のオフィス容積率緩和へ、職住近接で東京集中を是正
はじめに
国土交通省は、地方自治体がまちの中心部にオフィスを誘致しやすくするため、容積率を緩和できる新たな制度を創設する方針を打ち出しました。都市再生特別措置法などの改正案を特別国会に提出し、成立すれば2026年度にも施行する見通しです。
これまで容積率の緩和対象は病院や商業施設など住民向けサービス施設に限られていましたが、オフィスにまで拡大することで、地方都市に「働く場」を設け、東京一極集中の緩和につなげる狙いがあります。テレワークの定着や企業のサテライトオフィス設置の流れと相まって、地方都市の姿を変える可能性を秘めた政策です。
容積率緩和とは何か
容積率の基本的な仕組み
容積率とは、敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合を指します。たとえば容積率が200%の地域では、100平方メートルの敷地に延べ床面積200平方メートルまでの建物を建てることができます。この規制は建物の極端な密集を避け、都市環境を維持するために設けられています。
容積率は都市計画で地域ごとに定められており、用途地域によって上限が異なります。商業地域では高い容積率が認められる一方、住居専用地域では低く抑えられています。容積率を緩和するということは、より大きな建物を建てられるようにすることを意味します。
立地適正化計画の枠組み
今回の制度は、2014年の都市再生特別措置法改正で創設された「立地適正化計画」の枠組みを活用するものです。立地適正化計画は、市町村が「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」を設定し、住宅や公共施設をまちの中心部に集約するコンパクトシティの形成を目指す制度です。
都市機能誘導区域では、医療施設、福祉施設、子育て支援施設、商業施設、教育・文化施設などの「誘導施設」を定め、これらの施設の立地を促進するための支援措置が講じられます。しかし、これまでオフィスは誘導施設の対象に含まれていませんでした。
制度改正のポイント
オフィスが対象に加わる意義
従来の立地適正化計画では、住民向けサービスを提供する施設が誘導対象でした。オフィスは直接住民にサービスを提供する施設ではないため、対象外とされてきたのです。
しかし、地方の中心部に働く場がなければ、結局は大都市に人が集まる構造は変わりません。「職住近接」を実現するには、住む場所だけでなく働く場所もまちの中心部に誘導する必要があります。今回の改正は、この認識に基づいた政策転換といえます。
容積率緩和の効果
オフィスが容積率緩和の対象になれば、地方都市の中心部でより大規模なオフィスビルを建設できるようになります。これにより、デベロッパーや企業にとって地方でのオフィス開発の採算性が向上し、投資を呼び込みやすくなります。
地方都市では容積率の上限が低く設定されていることが多く、まとまったオフィス床を確保することが難しいケースがありました。緩和によって、企業のニーズに合った規模のオフィスビル建設が可能になると期待されています。
東京一極集中の現状と課題
加速する東京圏への人口集中
日本では長年にわたり東京一極集中が課題とされてきました。総務省の住民基本台帳に基づく人口移動報告によると、東京都への転入超過は依然として続いています。コロナ禍で一時的に東京からの転出が増加しましたが、その後は再び東京圏への流入が回復しています。
東京に人が集まる最大の理由は「仕事があるから」です。企業の本社機能が東京に集中し、質の高い雇用機会が大都市に偏在していることが、一極集中の根本的な原因となっています。
テレワーク普及と地方オフィスの可能性
コロナ禍を契機にテレワークが普及し、地方でも都市部の企業に勤務できる環境が整いつつあります。総務省の「おためしサテライトオフィス」事業をはじめ、地方自治体が企業のサテライトオフィス誘致に力を入れる動きも活発化しています。
全国の地方公共団体が関わったサテライトオフィスの開設数は年々増加しており、2020年度には263カ所が新設されるなど、着実に広がりを見せています。徳島県神山町や北海道の各地など、サテライトオフィスの集積に成功した地域も出てきています。
容積率緩和は、こうした流れをさらに加速させる制度的な後押しとなる可能性があります。
コンパクトシティ政策の新段階
「住む」から「働く」へ
立地適正化計画制度が2014年に創設されて以来、多くの自治体がコンパクトシティの形成に取り組んできました。しかし、その焦点は主に住宅や公共施設の集約にありました。
今回のオフィス追加は、コンパクトシティ政策を「住む場所の集約」から「働く場所も含めた都市機能の充実」へと発展させるものです。まちの中心部に住居とオフィスの両方が集まれば、通勤時間の短縮やまちなかの賑わい創出にもつながります。
地方都市における課題
一方で、容積率を緩和しただけでオフィス需要が生まれるわけではありません。地方都市でオフィスを誘致するためには、高速通信インフラの整備、人材の確保、交通アクセスの改善など、複合的な施策が必要です。
また、地方都市の中心部で大規模開発が進めば、郊外や周辺地域からの人口・商業機能の吸い上げが起きる可能性もあります。コンパクトシティ化の過程で、周辺地域との関係をどう調整するかは重要な課題です。
注意点・展望
実効性を左右する要因
制度の成否は、各自治体がどのように活用するかにかかっています。容積率緩和の具体的な条件や対象エリアの設定、企業誘致のための補助制度との連携など、運用面での工夫が求められます。
企業側にとっても、単にオフィスを地方に移すだけでなく、地域との連携や従業員の生活環境への配慮が重要です。制度面のハードルが下がっても、実際に企業がオフィスを構えるかどうかは、地域の総合的な魅力にかかっています。
今後の展開
法改正が成立すれば2026年度中の施行が見込まれます。先行して容積率緩和を活用する自治体がモデルケースとなり、成功事例が生まれれば全国への波及効果が期待できます。人口減少時代における持続可能な都市づくりの新たな一歩として、今後の動向が注目されます。
まとめ
国交省による地方都市のオフィス容積率緩和は、コンパクトシティ政策を「住む」から「住む+働く」へと進化させる施策です。テレワークの普及やサテライトオフィスの増加という社会的な変化を制度面から後押しするものといえます。
東京一極集中の是正には、単一の施策では不十分であり、容積率緩和はあくまで選択肢の一つです。しかし、地方都市の中心部に質の高いオフィス空間を生み出す仕組みが整うことで、企業や人材の地方分散が進む可能性があります。各自治体の創意工夫ある活用に期待がかかります。
参考資料:
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