ディスコが一転最高益へ、AI半導体需要が業績をけん引
はじめに
半導体製造装置大手の株式会社ディスコ(6146)の2025年4〜12月期の連結営業利益が、前年同期から5%前後増え1200億円強となった公算が大きいことがわかりました。従来の会社予想を100億円程度上回り、一転増益となって過去最高を更新したようです。
好調の背景にあるのは、人工知能(AI)向け先端半導体の旺盛な需要です。特にHBM(広帯域メモリ)向けグラインダの独占的供給が成長をけん引しています。
この記事では、ディスコの業績好調の要因、同社の事業の強み、そしてAI半導体市場の今後の展望について解説します。
ディスコの業績が好調な理由
4〜12月期決算の概要
ディスコの2025年4〜12月期の連結営業利益は1200億円強と、市場予想平均(QUICKコンセンサス、1月13日時点)の1198億円を上回りました。従来の会社予想から100億円程度上振れし、一転して増益となっています。
すでに発表されている2025年4〜9月期(上期)の連結経常利益は前年同期比5.9%増の794億円で、従来予想の10.5%減益から一転して増益で着地しています。同時に上期配当を110円から129円に増額しており、好調ぶりがうかがえます。
AI向け半導体が成長ドライバー
業績好調の最大の要因は、生成AI向けを中心とした高水準の需要です。スマートフォンやPC向け半導体の本格的な回復がみられない中でも、AI向け需要が全体を支えています。
特に注目すべきは、HBM(High Bandwidth Memory、広帯域メモリ)向けグラインダです。HBMはAIアクセラレータに不可欠な部品で、DRAMの最新規格DDR5を8層ないし12層重ねて製造されます。この製造過程でウェハを薄く削る工程が必要で、現在ディスコがこのHBM向けグラインダを独占的に供給しています。
消耗品も過去最高を記録
精密加工装置だけでなく、消耗品である精密加工ツールの出荷も好調です。顧客の設備稼働率に連動して高水準の需要が継続し、出荷額は半期ベースで過去最高を記録しました。
ディスコのビジネスモデルの強みは、装置本体の販売だけでなく、ダイシングブレードや研削用ホイールなどの消耗品(ツール)でも継続的な収益を上げられる点にあります。
ディスコとはどのような会社か
「切る・削る・磨く」で世界トップシェア
ディスコは1937年に工業用砥石メーカー「第一製砥所」として創業しました。社名は旧社名(Dai-Ichi Seitosho CO, Ltd.)の英文略称に由来します。
現在の主力製品は、半導体ウェハーを「切る(ダイシング)」「削る(グラインディング)」「磨く(ポリッシング)」ための精密加工装置です。
世界シェアは圧倒的で、ダイシングソー(切断装置)で約70%、グラインダ(研削装置)とポリッシャ(研磨装置)で60〜70%を占めています。現在、50カ国の3,000を超える半導体・電子部品工場で、約25,000台のディスコ製装置が稼動しています。
高い営業利益率
ディスコの特徴は、製造業としては異例の高い営業利益率です。2023年度決算では売上高3,075億円に対して営業利益が1,214億円と、営業利益率39.5%を記録しました。
この高収益性は、ニッチ市場での圧倒的シェアと、装置だけでなく消耗品でも収益を上げるビジネスモデルによるものです。海外売上比率は8割以上とグローバルに事業を展開しています。
平均年収1,500万円超の高待遇
業績好調を反映して、従業員の待遇も業界トップクラスです。2025年3月期の平均年収は1,672万円(平均年齢37.3歳)と、電子デバイス製造装置業界で第2位の水準にあります。
ボーナスが年4回あり、月給の20か月分に達することもあります。社内通貨「Will」を用いた独自の給与制度があり、大卒41歳で年収5,900万円を稼ぐ従業員もいるとされています。中途入社者の3年以内離職率は約2.4%と低く、働きやすい環境が整っています。
AI半導体市場の急拡大が追い風
HBM市場の爆発的成長
ディスコの成長を支えるHBM市場は、爆発的な成長を遂げています。HBMはAIモデルが学習や推論に必要な巨大なデータセットを処理するために不可欠な部品です。
韓国のSKハイニックスは2026年分のHBMがすでに完売したと発表し、米国のマイクロンも2026年分の大半をAI企業向けに割り当てる方針を示しています。メモリ製造市場はMicron、Samsung、SK Hynixの3社が支配しており、供給が需要に追いつかない状況が続いています。
2026年の半導体市場規模は1兆ドルに迫る
世界半導体市場統計(WSTS)の予測では、2026年の半導体市場規模は前年比25%以上の成長で約9,750億ドルに達し、1兆ドルに迫ると見込まれています。
中でもメモリ分野は30%台の成長率が期待されており、一部のアナリストは2026年にメモリ市場が4,400億ドルを超えると予測しています。バンク・オブ・アメリカは2026年を「1990年代の好景気に似たスーパーサイクル」と位置づけ、DRAM市場を前年比51%増、NAND市場を同45%増と予測しています。
メモリ価格の高騰
HBM需要の急増により、メモリ価格の高騰が進んでいます。2026年初頭を境にメモリ価格は異次元のフェーズへ突入しつつあり、サーバー向けメモリで最大190%、一般PC向けでも150%前後の値上げが現実味を帯びています。
大手メモリモジュールサプライヤーのTeamGroupは、2026年前半に供給がさらに逼迫すると警告しており、この不足は2027年まで続く見込みです。
今後の見通しと注意点
楽天証券の業績予想
楽天証券ではディスコの2026年3月期を売上高4,280億円(前年比8.8%増)、営業利益1,730億円(同3.7%増)と予想しています。さらに2027年3月期は売上高5,100億円(同19.2%増)、営業利益2,200億円(同27.2%増)と、大幅な成長を見込んでいます。
アナリスト評価は「買い」
2025年11月27日時点で、ディスコに対するアナリスト判断(コンセンサス)は「買い」です。内訳は強気買い9人、買い2人、中立7人、強気売り1人となっています。アナリストの平均目標株価は50,729円で、株価はあと約16%上昇すると予想されています。
注意すべきリスク
一方で、いくつかのリスクも存在します。まず、スマートフォンやPC向け半導体の本格的な需要回復が遅れている点です。AI向け需要が全体を支えていますが、市場のバランスが崩れる可能性があります。
また、HBM向けグラインダでの独占的地位に依存しすぎるリスクもあります。競合他社の参入や技術変化によって、市場シェアが変動する可能性は常にあります。
さらに、2026年には「Windows 10サポート終了」と「AI PC普及」という特需要因がありますが、これは一時的な需要増の可能性もあり、その後の反動に注意が必要です。
まとめ
ディスコの2025年4〜12月期は、AI向け先端半導体の需要好調により、一転して過去最高益を更新しました。HBM向けグラインダの独占的供給という強みが、同社の成長を力強く支えています。
「切る・削る・磨く」という3つの技術に特化し、ダイシングソーで約70%、グラインダで60〜70%という圧倒的な世界シェアを持つディスコは、AI半導体市場の急拡大という大きな追い風を受けています。
2026年の半導体市場は1兆ドルに迫る規模に成長すると予測されており、ディスコの成長余地は大きいと考えられます。ただし、AI需要への依存度の高さやPC・スマホ市場の回復遅れなど、リスク要因にも目を配る必要があります。
参考資料:
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