ディズニーリゾートの来場者高齢化が加速する理由
はじめに
「夢の国」として知られる東京ディズニーリゾートで、来場者の年齢構成に大きな変化が起きています。かつては子ども連れファミリーや若者が中心だったパークに、今や40歳以上の中高年層が急増し、未成年の来場者数を上回る「逆転現象」が発生しました。
この変化は単なる一時的な傾向ではありません。入場料の継続的な値上げ、年間パスポートの廃止、そして若者層の娯楽の多様化など、複合的な要因が絡み合っています。本記事では、東京ディズニーリゾートで進む「中高年化」の実態と背景、そしてテーマパーク業界全体への影響を詳しく解説します。
データが示す来場者構成の劇的変化
5年間で220万人増えた40歳以上
オリエンタルランドが公表するゲストプロフィールによると、来場者の年齢構成は過去5年間で大きく変化しました。2018年度と2023年度を比較すると、その変化は明らかです。
4歳から11歳の子ども層は約495万人から約369万人へと、約126万人減少しました。18歳から39歳の若年成人層はさらに顕著で、約1,650万人から約1,128万人へと約522万人もの減少を記録しています。
一方で、40歳以上の中高年層は約690万人から約913万人へと約223万人増加しました。この結果、かつて来場者の中心だった18〜39歳層の比率が大幅に低下し、40歳以上が全体の約38%を占めるまでになっています。
リピーターの「加齢」が背景に
この変化の最大の要因は、ディズニーリゾートの高いリピーター率にあります。現在、来場者の約9割がリピーターとされています。東京ディズニーランドが開業した1983年当時、夢中になっていた高校生や大学生は、40年以上が経過した現在、60歳前後を迎えています。
リピーターの多くは女性で、彼女たちは結婚や出産といったライフステージの変化を経ても、パークを楽しみ続けてきました。この「ファン層の高齢化」が、統計上の中高年増加として表れています。
入場料高騰がもたらす構造変化
4,000円から10,900円への軌跡
東京ディズニーリゾートのチケット料金は、1983年の開業時には大人3,900円でした。それが2023年10月の価格改定で、最高10,900円まで上昇しています。約40年間で約2.8倍になった計算です。
2023年10月から導入された6段階の変動価格制では、大人1デーパスポートは7,900円、8,400円、8,900円、9,400円、9,900円、10,900円の6つの価格帯が設定されています。最安値と最高値で3,000円もの差があり、年末年始やゴールデンウィークなどの繁忙期には最高額が適用されます。
若者の「ディズニー離れ」を加速
この価格上昇は、相対的に収入が低い若年層にとって大きな障壁となっています。さらに、2020年に年間パスポートが廃止されたことで、頻繁に通っていた若者ファンの足が遠のきました。
会社四季報の業界地図によると、年間パスポート廃止後、18〜39歳のゲスト減少が顕著になっています。一方、経済的余裕のある中高年層は、高額なチケット料金でも来場を続ける傾向があり、結果として来場者構成の「高齢化」を加速させています。
USJの台頭と若者の流出
顧客満足度でディズニーを逆転
若者のディズニー離れを象徴するのが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の躍進です。日経クロストレンドの「顧客幸福度」ランキング2025のテーマパーク部門では、USJが1位を獲得し、東京ディズニーリゾートを上回りました。
注目すべきは年齢構成の違いです。USJのコアファンでは20代が最多を占める一方、東京ディズニーリゾートでは40代と50代が最多となっています。同じテーマパークでありながら、支持層の世代が明確に分かれている状況です。
学生取り込み戦略の差
USJが若者から支持される要因の一つに、積極的な学生向けキャンペーンがあります。春の「ユニ春」や秋の「ユニハロ」といったキャンペーンでは、学生向けの割引や特典を提供し、制服姿で楽しむ「制服ユニバ」が定番化しています。
また、USJは「NO LIMIT!」というブランドメッセージを掲げ、スーパー・ニンテンドー・ワールドや人気アニメとのコラボレーションなど、若者に響くコンテンツを次々と投入しています。2023年度の入場者数は前年比3割増の1,600万人を記録し、日本国内で最も来場者の多いテーマパークとなりました。
中高年が「推し」を楽しむ時代
夢の国から「推しの国」へ
中高年層の増加に伴い、パークでの楽しみ方も変化しています。近年、「推し活」というキーワードがテーマパークにも浸透し、ディズニー公式オンラインストアでは推し活グッズが人気を集めています。
推し活バッグやクリア窓ポーチ、カードケースなど、好きなキャラクターを「推す」ためのアイテムが充実しています。30年以上のディズニー推し歴を持つファンも珍しくなく、カチューシャを100個以上所有している熱心なファンも存在します。
消費単価の上昇
中高年来場者の増加は、オリエンタルランドにとってマイナス面ばかりではありません。経済的余裕のある層の比率が高まることで、飲食やグッズ購入の客単価上昇につながっています。
2025年度のオリエンタルランドの売上高計画は6,933億円で、入園者数を増やす方針を打ち出しています。高橋渉社長は「単なる値上げは考えていない」と述べつつも、チケットの種類を増やすなど、多様な顧客層に対応する戦略を示唆しています。
今後の展望と課題
子ども世代の取り込みが課題
東京ディズニーリゾートが直面する最大の課題は、将来のファン層の確保です。現代の子どもたちはスマートフォンやゲーム機を通じて膨大なエンターテインメントにアクセスできます。テーマパークへの来場が「特別な体験」ではなくなりつつある中、いかに次世代のファンを育てるかが問われています。
現在の中高年ファンが開業当時に受けた感動を、現代の子どもたちに提供できなければ、10年後、20年後の来場者減少は避けられません。2024年6月にオープンした新エリア「ファンタジースプリングス」のような大型投資を継続し、新鮮な体験を提供し続けることが求められます。
価格戦略の見直し
オリエンタルランドの高橋社長は、変動価格制のチケット価格について「見直すことも考えている」と発言しています。物価高による生活への影響を考慮し、変動幅の上限や下限の変更も検討するとしています。
高額化が進むチケット料金は、若年層の来場障壁となっている一方、安易な値下げは収益を圧迫します。学生向けの特別料金やファミリー割引など、ターゲット層に応じた価格メニューの導入が今後の焦点となりそうです。
まとめ
東京ディズニーリゾートの来場者構成変化は、日本社会の縮図とも言えます。少子高齢化、所得格差、娯楽の多様化といった社会変化が、「夢の国」に如実に表れています。
40年以上にわたってファンを育ててきた結果として中高年が増えたことは、ある意味で成功の証でもあります。しかし、このまま新規ファンの獲得が進まなければ、将来的な来場者減少は避けられません。USJとの競争も激化する中、東京ディズニーリゾートがどのような戦略を打ち出すのか、今後の動向が注目されます。
参考資料:
関連記事
ジャングリア沖縄CEOが語る体験価値向上戦略
2025年7月に開業したジャングリア沖縄の加藤健史CEOが、改善を続けて体験価値を高める戦略を語りました。夕食需要の取り込みやオペレーション改善など、今後の展開を解説します。
「老害ですが」と自称する中高年の5つの心理パターン
現代の職場で広がる「老害」の自称現象。健康社会学者が分析した5つのパターンと、世代間コミュニケーションの課題について解説します。
「ディズニー1日5万円」時代、α世代のレジャー格差と仮想空間への移行
家族4人でディズニーに行けば1日5万円。テーマパークの高額化でα世代の来場者が10年で3割減。リアルと仮想、遊びの二極化が進んでいます。
刀のテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」 2年で閉業へ
森岡毅氏率いるマーケティング会社「刀」が運営する体験型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が2026年2月で閉業。開業からわずか2年での幕引きとなります。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。