EA-18Gグラウラーが示した電子戦の威力と現代戦への影響
はじめに
2026年1月3日、米軍がベネズエラで実施した軍事作戦「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」は、現代の電子戦がいかに戦場の勝敗を決するかを如実に示しました。わずか5時間弱でベネズエラの首都カラカスからマドゥロ大統領を拘束するという前例のない作戦の成功には、EA-18Gグラウラー電子攻撃機が決定的な役割を果たしたと専門家は分析しています。
本記事では、グラウラーの技術的特徴から作戦での具体的な運用、そして今後の電子戦の展望まで、複数の情報源をもとに詳しく解説します。
EA-18Gグラウラーとは何か
世界最先端の電子攻撃機
EA-18Gグラウラーは、ボーイング社が開発した艦載電子戦機です。F/A-18Fスーパーホーネット戦闘機をベースに、高度な電子戦装備を搭載しています。35年以上ぶりに新規設計された電子戦機として、2009年から米海軍での運用が始まりました。
従来のEA-6Bプラウラーの後継機として開発されたグラウラーは、敵のレーダーを妨害し、通信を遮断し、地対空ミサイルシステムを無力化する能力を持っています。戦闘機としての機動性も維持しているため、護衛任務もこなせる柔軟性が特徴です。
搭載する電子戦システム
グラウラーには複数の先進的な電子戦システムが搭載されています。AN/ALQ-218受信システムは敵のレーダー波を探知・分析し、ALQ-99戦術妨害ポッドは広範囲の電波妨害を行います。ALQ-227通信妨害装置は敵のデータリンクを遮断する能力を持ちます。
さらに、AN/APG-79 AESAレーダーにより、高度な状況認識と目標捕捉が可能です。これらのシステムを組み合わせることで、敵の防空システム全体を機能不全に陥らせることができます。
次世代ジャマー(NGJ-MB)の実戦投入
2024年には、新型のAN/ALQ-249次世代ジャマー中帯域(NGJ-MB)が初めて実戦投入されました。イエメンのフーシ派に対する作戦で使用されたこのシステムは、従来のALQ-99と比較して「量子的な飛躍」と評されています。
NGJ-MBはAESA技術を採用し、複数の指向性ビームを同時に生成できます。より高い出力で、より遠距離から妨害を行えるため、グラウラーの生存性と効果が大幅に向上しました。
ベネズエラ作戦での役割
作戦の概要
2026年1月3日午前2時頃(現地時間)、米軍は「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」を開始しました。150機以上の航空機と約200名の特殊部隊員が投入され、マドゥロ大統領の拘束に成功しています。
統合参謀本部議長のダン・ケイン大将によれば、航空機は20以上の拠点から発進しました。F-22ラプター、F-35ライトニングII、F/A-18スーパーホーネット、B-1Bランサー爆撃機など、多様な機種が参加しています。
防空システムの無力化
ベネズエラは約20億ドルを投じて、ロシア製S-300VM、Buk-M2中距離地対空ミサイル、パンツィリ-S1近接防空システムを配備していました。また、中国製JY-27Aレーダーが指揮統制システムの中核を担っていたとされます。
しかし、軍事アナリストのシャナカ・アンスレム・ペレラ氏によれば、「一発も発射されなかった」といいます。グラウラーによる電波妨害が防空システム全体を麻痺させたのです。
電子戦と物理攻撃の連携
作戦では、電子戦とサイバー攻撃、そして物理的な攻撃が緊密に連携しました。まず、サイバー攻撃と電子妨害により、カラカスの広範囲で停電が発生し、軍の監視・指揮システムが機能を失いました。
レーダー妨害プラットフォームが電磁スペクトルを埋め尽くし、防空レーダーはシャットダウンするか、発信を続けて位置を暴露するかの選択を迫られました。発信を続けたレーダーは、AGM-88高速対レーダーミサイル(HARM)の標的となりました。
「ザッパーズ」の活躍
今回の作戦で中心的な役割を果たしたのは、「ザッパーズ」の愛称で知られるVAQ-133電子攻撃飛行隊です。グラウラーを運用するこの部隊は、ベネズエラの防空システムを「解体し、無力化」したと評価されています。
作戦前から、6機のグラウラーがプエルトリコの旧ルーズベルト・ローズ海軍基地に展開していました。空母打撃群に配備された5〜7機と合わせ、最大13機のグラウラーがカリブ海地域に集結していた可能性があります。
現代戦における電子戦の意義
電磁層での優位が勝敗を決める
ケイン大将の説明から導かれる教訓は、現代の作戦では「電磁層での勝負が、最初のヘリコプターが着陸地点に到達する前に決まる」ということです。グラウラーがベネズエラの防空を「解体・無力化」できたことで、特殊部隊のヘリコプターは安全に作戦を遂行できました。
これは単一のシステムの失敗ではなく、中国製の指揮統制システムが、情報・電子戦・航空戦力・特殊作戦を統合した攻撃に耐えられなかったことを示しています。
中露製防空システムへの疑問
今回の作戦は、ロシアや中国から高価な防空システムを購入した国々に衝撃を与えています。S-300やパンツィリといった「最新鋭」とされるシステムが、米軍の電子戦能力の前に無力化されたためです。
軍事専門家は、これらのシステムが単体では優れていても、統合された多領域作戦には対処できないと分析しています。防空は単なる装備の問題ではなく、訓練・統合・指揮統制を含む総合的な能力が問われるのです。
今後の軍事バランスへの影響
グラウラーの成功は、電子戦への投資を加速させる可能性があります。米海軍はすでにグラウラー・ブロックIIの開発を進めており、高度コックピットシステム(ACS)の導入などが予定されています。
一方で、中国やロシアは自国の防空システムの弱点を分析し、対策を講じるでしょう。電子戦は「見えない軍拡競争」の様相を呈しています。
注意点と今後の展望
法的・倫理的な議論
今回の作戦は軍事的には成功しましたが、国際法上の問題が提起されています。国連のグテーレス事務総長報道官は「危険な前例」と批判し、多くの国が非難声明を出しました。
軍事技術の進歩が、国際法や倫理的な議論を置き去りにしている面があります。電子戦能力が高まれば、主権国家への軍事介入のハードルが下がる可能性も懸念されます。
技術の普及と対抗手段
グラウラーのような高度な電子戦機を保有するのは現在、米国とオーストラリアのみです。しかし、電子戦技術は徐々に普及しており、将来的には米軍自身が同様の脅威に直面する可能性もあります。
また、AIを活用した適応型電子戦システムの開発も進んでいます。妨害を自動的に検知し、周波数を変更するシステムが実用化されれば、電子戦の様相は大きく変わるでしょう。
まとめ
EA-18Gグラウラーは、ベネズエラ作戦において米軍の作戦成功を支える決定的な役割を果たしました。20億ドル規模の防空システムを無力化し、特殊部隊が安全に任務を遂行できる環境を整えたのです。
この事例は、現代戦において電子戦がいかに重要かを示しています。物理的な戦闘が始まる前に、電磁スペクトル上での優位を確保することが勝敗を分けるのです。今後、各国は電子戦能力の強化に一層注力することになるでしょう。
参考資料:
- EA-18G Growler | NAVAIR
- 2026 United States strikes in Venezuela - Wikipedia
- Operation Absolute Resolve: Anatomy of a Modern Decapitation Strike | RealClearDefense
- Why Venezuelan air defenses failed against US suppression technology
- U.S. EA-18G Electronic Attack Jets Suppressed Venezuelan Air Defenses
- How The EA-18G Growler’s Next-Generation Jamming Pod Went To War | The War Zone
- The collapse of Venezuela’s air defense exposes the limitations of Chinese military systems
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