大阪万博跡地に記念館設置へ、大屋根リング保存の全容
はじめに
2025年4月13日から10月13日まで開催された大阪・関西万博が閉幕し、その遺産をどう継承するかが注目されています。大阪府・市は万博跡地に「EXPO2025記念館(仮称)」を設置する方針を固めました。
万博のシンボルとして約350億円をかけて建設された「大屋根リング」の一部保存と一体となった計画であり、1970年大阪万博の「太陽の塔」に続くレガシー創出が期待されています。本記事では、記念館設置の背景、大屋根リングの保存計画、そして財源確保の課題について詳しく解説します。
大屋根リングとは何か
世界最大級の木造建築
大屋根リングは、建築家・藤本壮介氏が構想した万博会場のシンボル的建造物です。「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念を体現し、会期中にはギネス世界記録にも認定された世界最大級の木造建築となりました。
全周約2キロメートルの円形構造で、2023年6月30日に木組み部分の組み立てを開始し、2024年8月21日に全周がつながりました。内部には展望スペースや各パビリオンへの連絡通路が設けられ、来場者に独特の空間体験を提供しました。
当初は解体予定だった
建設費約350億円を投じた大屋根リングですが、当初計画では閉幕後に全て解体・撤去される予定でした。しかし、その独創的なデザインと建築技術が高く評価され、レガシーとして残すべきという声が各方面から上がりました。
2025年5月2日、博覧会協会は閉幕後に一部を保存する方針で大阪府・市など関係機関と合意。以降、具体的な保存範囲と方法について検討が重ねられてきました。
記念館設置と保存計画の詳細
北東側約200メートルを保存
現在の計画では、大屋根リングの北東側約200メートルを保存する方向で調整が進んでいます。この区間を原形に近い状態で維持し、一般の来場者が実際に上って歩けるような施設として整備する計画です。
保存部分の周辺は大阪市が市営公園として管理する案が有力で、万博の記憶を伝える「EXPO2025記念館(仮称)」もこの公園内に設置される見通しです。
学識経験者からの疑問の声
一方で、保存範囲が全周の約10分の1にとどまることへの疑問も呈されています。7大学のトップが連名で「大屋根リングのレガシー継承に関する緊急意見書」を提出し、より広範囲の保存を求める動きもありました。
350メートルを残す南西側保存案も検討されましたが、費用対効果や周辺開発計画との兼ね合いから、現時点では北東側200メートル案が優勢となっています。
木材のリユースも進行
解体される部分の木材については、希望する自治体や事業者への譲渡が進められています。万博協会が設置した「万博サーキュラーマーケット ミャク市!」を通じて公募が行われました。
具体的には、愛媛県が2026年開催の第76回全国植樹祭での再利用を発表。また、鹿島建設は2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)のランドマーク「KAJIMA TREE(仮称)」の資材として活用する計画です。さらに、能登半島地震・豪雨で被害を受けた石川県珠洲市には、復興公営住宅の建設資材として無償譲渡されることが決まっています。
夢洲全体の跡地開発計画
エンターテインメントシティ構想
記念館と大屋根リングの保存は、夢洲全体の跡地開発計画の一部です。万博会場の中央に位置する「夢洲第2期区域」(約50ヘクタール)については、大阪府・市が2つの優秀案を選定しました。
大林組を代表企業とするグループはサーキット場を中心とした案を、関電不動産開発を代表企業とするグループはウオーターパークを核とした案をそれぞれ提案しています。府・市は「エンターテイメントシティの創造」「SDGs未来都市の実現」「最先端技術の実証・実践・実装」の3つの方針を掲げています。
隣接するIRカジノとの連携
万博会場跡地の北側に隣接する「夢洲第1期区域」では、大阪IR(統合型リゾート施設)の建設が進んでいます。2025年4月24日に起工式が行われ、2030年秋頃の開業を目指しています。
日本初のカジノを含む統合型リゾートと万博レガシー施設が隣接することで、夢洲は西日本を代表する国際観光拠点として生まれ変わる計画です。
「静けさの森」の公園化
万博会場中心部に設けられた約2.3ヘクタールの人工緑地「静けさの森」は、閉幕後も存置した上で7ヘクタールの公園に拡張整備される予定です。大屋根リングの保存部分と記念館を含め、一帯は市民が憩える緑豊かな空間として整備されます。
財源確保の課題
保存費用の負担者が未定
大屋根リング保存の最大の課題は財源です。会場建設費2350億円には、リング保存のための改修費用や維持管理費用は含まれていません。
保存にかかる費用の試算として、展望台として残す場合は改修費用が約40億円、建物として残す場合は改修費用が約75億円とされています。いずれの場合も10年間の維持管理費用として約15億円が必要です。
経済界は消極的姿勢
会場建設費2350億円は国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する取り決めでした。しかし保存費用について経済界は「業界内で寄付を募ることは現実的ではない」として、積極的に負担する意思を示していません。
運営費黒字の活用案
吉村洋文大阪府知事は、万博運営費の黒字分(最大280億円の見込み)を保存費用に充てるべきだと提言しています。ただし、運営費の黒字は本来別の用途に充てられる予定だったものであり、関係者間での調整が必要です。
北東200メートルの保存費用については、跡地開発事業者に負担を求める方針ですが、この条件を受け入れる事業者がいなければ解体・撤去される可能性も残されています。
1970年大阪万博「太陽の塔」との比較
太陽の塔も当初は撤去予定だった
1970年大阪万博のシンボル「太陽の塔」も、当初は閉幕後に撤去される予定でした。しかし住民からの保存運動が起こり、1975年1月に永久保存が決定。現在は万博記念公園のシンボルとして親しまれ、2025年5月には国の重要文化財に指定されました。
芸術家・岡本太郎が制作した太陽の塔は、「作る段階では永遠に残すなど、みじんも考えなかった」と本人が語ったように、後から価値が認められた事例です。
レガシー創出の成功例
太陽の塔は現在、年間多くの観光客が訪れる大阪の観光名所となっています。2018年には内部公開も始まり、新たな魅力を発信し続けています。
大屋根リングと記念館が同様のレガシーとなるかどうかは、今後の保存状態や周辺開発の成否にかかっています。
今後の展望と注意点
財源問題の解決が鍵
記念館設置と大屋根リング保存の成否は、財源問題の解決にかかっています。国、自治体、経済界、そして跡地開発事業者の間で、費用負担の調整が今後数ヶ月で進められる見通しです。
運営費黒字の活用や、IR事業者からの協力金など、複数の財源確保策が検討されていますが、最終的な合意形成には時間がかかる可能性があります。
観光拠点としての可能性
夢洲全体で見れば、2030年開業予定のIRカジノ、エンターテインメント施設、そして万博レガシー施設が一体となった大規模観光拠点が形成されます。インバウンド観光の回復とあわせ、西日本の観光産業に大きなインパクトを与える可能性があります。
市民参加の重要性
1970年大阪万博の太陽の塔が保存されたのは、市民の声がきっかけでした。大屋根リングと記念館についても、市民がどれだけ関心を持ち、保存を求める声を上げるかが重要な要素となるでしょう。
まとめ
大阪・関西万博の跡地に「EXPO2025記念館(仮称)」が設置される方針が固まり、大屋根リングの北東側約200メートルが保存される見通しとなりました。
財源確保や保存範囲については課題が残りますが、1970年大阪万博の太陽の塔に続く新たなレガシー創出に向けた一歩と言えます。夢洲全体がIRカジノやエンターテインメント施設と一体となった国際観光拠点として発展することが期待されています。
今後は財源問題の解決状況や、跡地開発事業者の決定、そして具体的な記念館の設計内容に注目が集まります。
参考資料:
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