Research

Research

by nicoxz

日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

日本銀行が異次元緩和で市中に供給したマネーの回収が、米欧の中央銀行に比べて遅れています。2026年1月のマネタリーベース(資金供給量)は前年同月比で約1割減少しましたが、この縮小ペースは米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)と比較すると緩やかです。

この「量」の正常化の遅れが、根強い円安の一因との見方があります。本記事では、日米欧の量的引き締め(QT)の進捗状況を比較し、円安との関係、そして次期FRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏の金融政策姿勢について解説します。

日銀のマネタリーベース縮小の現状

マネタリーベースとは何か

マネタリーベースとは、世の中に出回っている現金(銀行券と硬貨)と、金融機関が預金の払い戻しなどに備えて日銀に預けている「当座預金」の残高の合計です。「資金供給量」とも呼ばれ、中央銀行の金融政策の規模を示す重要な指標です。

日銀は2013年から「異次元緩和」と呼ばれる大規模な金融緩和政策を実施し、国債などを大量に買い入れてマネタリーベースを急拡大させてきました。景気刺激とデフレ脱却を目指したこの政策により、日銀のバランスシートは大きく膨らみました。

縮小ペースは緩やか

日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も段階的に利上げを進めています。「金利」の正常化に続き、「量」の正常化も進めていますが、2026年1月時点でマネタリーベースの減少率は前年同月比で約1割にとどまっています。

日銀の金融政策決定会合の「主な意見」では、「円安や長期金利上昇の背景には、インフレ率に対し政策金利が低すぎることが影響している」「ビハインド・ザ・カーブになることを回避すべく、着実な利上げが望ましい」といった意見が出ており、利上げ継続への姿勢が示されています。

米欧の量的引き締め(QT)との比較

FRBのバランスシート縮小

FRBは2022年6月からQTを開始し、保有資産の縮小を進めてきました。当初は米国債が月600億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)が月350億ドルを上限にバランスシートを圧縮していました。

2025年3月には、短期金融市場の安定を考慮し、米国債の月額償還上限を250億ドルから50億ドルに減速させました。さらに2025年10月にはパウエル議長が「今後数カ月でバランスシート縮小を停止する水準に近づく可能性がある」と述べ、QT終了が視野に入っています。

FRBのバランスシートは2022年6月の約9兆ドルをピークに、5兆8000億ドル程度まで縮小可能との見方もあります。日銀と比較すると、その縮小ペースと規模は大きく異なります。

ECBの状況

ECBも量的引き締めを進めており、2025年だけでも約5000億ユーロ相当の保有債券が削減される予定です。ECBのチポローネ専務理事は「バランスシートのさらなる縮小は緩やかで予測可能な軌道をたどる必要がある」と述べつつも、着実に資産圧縮を進めています。

ECBは政策金利を7会合連続で引き下げ、2025年6月時点で預金金利は2.0%となっています。利下げとQTを並行して進めることで、金融環境のバランスを取る姿勢を示しています。

円安とマネタリーベースの関係

日米金利差だけでは説明できない円安

為替市場では「金利差縮小→円高」という定説がありますが、現在の円相場では必ずしもその通りになっていません。FRBの利下げと日銀の利上げで日米の政策金利差は約3年ぶりの小ささまで縮みましたが、円相場は1ドル155円近辺と円安水準が続いています。

この「コナンドラム(謎)」の一因として、日米のマネタリーベース比率(いわゆるソロス・チャート)が指摘されています。パンデミック前との比較では、米国のマネーストック増加率が約40%に対し、日本は約10%程度にとどまります。しかし日銀のQTが遅れていることで、この比率が円安方向に作用しているとの分析があります。

2026年の為替見通し

2026年の為替見通しについては、専門家の間でも見方が分かれています。野村證券は日米金利差の縮小を理由に2026年末のドル円レートを140円と円高を予想しています。

一方で、FRBの政策金利が日銀を大きく上回る構図は2026年中も続く可能性が高く、円安水準が定着するリスクも指摘されています。160円を超えるような円安となれば、2024年同様に為替介入が行われる可能性があります。

次期FRB議長ウォーシュ氏の金融政策姿勢

ウォーシュ氏の指名

トランプ大統領は2026年1月30日、5月に任期満了を迎えるパウエルFRB議長の後任として、ケビン・ウォーシュ氏を次期議長に指名しました。ウォーシュ氏は2006年に史上最年少の35歳でFRB理事に就任し、2008年のリーマン・ショック時にはバーナンキ議長の片腕として危機対応に当たった経験を持ちます。

タカ派からハト派への転換

ウォーシュ氏はFRB理事時代にはインフレ抑制を重視するタカ派として知られていましたが、近年では利下げを支持する姿勢を明確にしています。AIによる生産性向上がディスインフレをもたらすため、積極的な利下げが正当化されると主張しています。

一方で、バランスシートの大幅な縮小や金融規制の緩和も主張しており、量的引き締めについては継続的な姿勢を示しています。市場では、ウォーシュ氏の指名後に短期金利は低下する一方、長期金利は上昇する動きが見られました。

FRBの独立性への懸念

トランプ大統領はFRBに大幅利下げを求めており、ウォーシュ氏が金融政策の独立性を維持できるかが最大の焦点です。就任には上院の承認が必要であり、今後の議会審議が注目されます。

注意点・今後の展望

日銀の利上げペースに注目

日銀は2026年中にさらなる利上げを行うと予想されています。市場では7月の0.25%利上げは完全に織り込まれており、円安が続くようであれば3~4月の前倒し利上げもあり得るとの見方があります。

利上げに伴い、日銀のバランスシート縮小も加速する可能性があります。ただし、急激な引き締めは国内経済への悪影響が懸念されるため、日銀は慎重な姿勢を維持すると見られます。

米国の金融政策動向

FRBは2026年前半に0.25%、年後半に0.25%の利下げがコンセンサスとなっていますが、新議長の下で政策運営がどう変化するかは不透明です。ウォーシュ氏の議長就任後、バランスシート縮小のペースや利下げ方針がどう変わるかが、日米金利差と円相場に大きな影響を与えるでしょう。

まとめ

日銀のマネタリーベース縮小は米欧に比べて緩やかなペースで進んでおり、これが円安の一因との見方があります。金利差だけでなく、中央銀行のバランスシートの「量」も為替市場に影響を与える重要な要素です。

2026年は日銀の利上げ継続とFRB新体制下での金融政策が為替市場の焦点となります。投資家や企業は、金利動向だけでなく、日米欧の量的引き締めの進捗にも注意を払う必要があるでしょう。

参考資料:

関連記事

最新ニュース