FedExが関税返還訴訟、日本企業にも波及拡大
はじめに
米連邦最高裁が2026年2月20日にトランプ大統領のIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を違法と判断したことを受け、企業による関税返還請求の動きが急速に広がっています。2月23日には米物流大手FedEx(フェデックス)が連邦政府を提訴し、支払った関税の全額返還を求めました。
この動きは米国企業にとどまらず、日本企業にも波及しています。リコーや住友化学、豊田通商など日系企業も現地法人を通じて還付請求訴訟を提起しており、提訴企業は全体で1,000社を超える規模に拡大しています。
この記事では、最高裁判決の内容、FedExの訴訟の詳細、そして日本企業への影響について解説します。
米最高裁のIEEPA関税違法判決
判決の内容
米連邦最高裁は2026年2月20日、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した関税措置を違法と判断しました。判決は6対3で、IEEPAの条文には「関税」という文言がなく、大統領に関税を課す権限を与えていないという判断が示されました。
IEEPAは1977年に制定された法律で、国際的な緊急事態に際して大統領に経済制裁の権限を付与するものです。トランプ大統領はこの法律を根拠に、合成麻薬フェンタニルの米国流入を「緊急事態」と位置づけ、各国からの輸入品に関税を課していました。最高裁はこの権限行使が法律の想定を超えるものだと判断しました。
無効となった関税措置
この判決で無効となった関税は広範囲にわたります。カナダ、中国、メキシコ向けのフェンタニル関税に加え、70カ国・地域以上を対象とした相互関税(いわゆる「解放の日」関税)、ブラジル向け関税、インド向け二次関税が含まれます。
日本に対しても、2025年7月の日米合意でIEEPA関税率が15%に設定されていましたが、その法的根拠が消滅しました。タックス・ファウンデーションの試算では、IEEPAに基づいて徴収された関税の累計額は1,600億ドル(約24兆円)を超えるとされています。
FedExの関税返還訴訟
訴訟の詳細
FedExは最高裁判決の翌日となる2月23日、米国際貿易裁判所(CIT)に訴訟を提起しました。訴状では、米税関・国境取締局(CBP)と連邦政府を相手取り、支払った関税の全額返還をCBPに命じるよう求めています。
FedExは国際物流の大手として、輸入品に課される関税を荷主に代わって立て替え払いするケースが多く、IEEPA関税の影響を直接的に受けてきました。同社は2026年6月期通期の決算で、関税関連の損失が10億ドル(約1,500億円)に達する可能性があると開示しています。
最高裁は判決の中で、関税に関する訴訟は米国際貿易裁判所が「専属管轄権」を有すると明示しており、FedExはこの判断に基づいてCITに提訴しました。FedExは、最高裁判決後に関税返還を求めて提訴した最初の大手米国企業とみられています。
物流業界への波及
FedExの提訴は物流業界全体に波及する可能性があります。国際物流を手がける企業は、関税の立て替え払いや通関手続きのコスト増大など、IEEPA関税によって大きな負担を強いられてきました。FedExの訴訟が認められれば、同業他社も追随する動きが加速すると予想されます。
日本企業への影響と対応
日系企業の訴訟動向
日本企業でも、関税返還を求める法的措置が広がりつつあります。ブルームバーグの報道によると、リコー、住友化学、豊田通商など日系9社が米国の現地法人を通じてCITに還付請求訴訟を提起済みです。
日本企業にとって、IEEPA関税は対米輸出のコストを大幅に押し上げる要因となっていました。2025年7月の日米合意で15%の関税率が設定されていたものの、その法的根拠がIEEPAであったため、今回の判決で根拠が消滅しました。これまで支払った関税の返還を求める動きが今後さらに拡大する見込みです。
返還手続きの複雑さ
ただし、関税返還の実現は容易ではありません。最高裁はIEEPA関税を違法と判断しましたが、既に支払い済みの関税の還付方法については具体的に触れていません。トランプ大統領は判決後、「今後5年間は法廷闘争を続ける」と述べており、政府側は返還に応じない姿勢を示しています。
CITでの訴訟は個別企業ごとに審理されるため、返還が認められるまでには相当の時間とコストがかかる見通しです。法律事務所のTMI総合法律事務所は、日本企業に対して「情報整理」を急ぐよう助言しており、支払った関税額、対象品目、輸入時期などの記録を正確に整理しておくことが重要だと指摘しています。
注意点・展望
通商法122条への移行
トランプ大統領はIEEPA関税の違法判決から数時間後に、通商法122条に基づき全世界からの輸入品に10%の関税を課す大統領令に署名すると表明しました。通商法122条は大統領に最長150日間の暫定関税を課す権限を付与するものですが、上限税率は15%とされています。
この新たな関税がIEEPA関税に代わるものとなるのか、それとも追加的な措置として機能するのかは不透明です。企業にとっては、関税政策の不確実性が引き続き事業計画に影響を及ぼす状況が続くことになります。
1,600億ドルの返還の行方
最大の焦点は、累計1,600億ドル超の徴収済み関税の返還がどの程度実現するかという点です。ペン・ウォートン・バジェット・モデルのエコノミストは、1,750億ドル以上が返金対象になる可能性を指摘しています。
仮にこの規模の返金が実現すれば、米国の財政に大きな影響を与えるだけでなく、企業の資金繰りや設備投資計画にもプラスの効果が期待できます。ただし、政権側が返還に抵抗する姿勢を見せている以上、最終的な解決には数年を要する可能性があります。
まとめ
米最高裁のIEEPA関税違法判決を受け、FedExが先陣を切って関税返還訴訟を提起しました。日本企業を含む1,000社超が同様の訴訟を起こしており、累計1,600億ドル超の関税返還をめぐる大規模な法廷闘争が始まっています。
米国への輸出を行っている企業にとっては、支払い済み関税の記録整理を急ぐとともに、法的措置の検討を進めることが重要です。通商法122条への移行など新たな関税政策の動向にも注視し、サプライチェーン戦略の見直しを進めることをおすすめします。
参考資料:
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